一歩の重さ

burazu

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高校2年編

将棋界の師弟

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 林原九段に弟子入りすべく、梢子は一輝と共に将棋カフェで対面し、林原九段は師匠になると発言はするが梢子に将棋を教えないとも発する。

 戸惑う梢子を見て、林原は一輝に尋ねる。

「あの長谷さん、もしかして佐藤さんに将棋界における師弟の話をしていないんですか?」
「あ、はい、お父さんが元奨励会だったから知っているかとばかり」
「そうですか、仕方ありません私が説明しましょう」

 林原はそう言うと梢子の方をしっかりと向き、目力を強くして伝える。

「佐藤さん、練習将棋なら師弟でやる事はありますが、基本的に将棋界の師匠というのは将棋の戦法や定跡というものは教えないんです」
「え、そうなんですか?それじゃあ林原先生は私に何をしてくれるんですか?」
「そうですね、分かりやすく言うと将棋界における身元引受人のようなものですね」
「身元引受人?」

 まだ親の庇護下にある梢子にとって、身元引受人という言葉は今一つしっくりきていないようであり、林原が詳しい説明を始める。

「例えば、そうですね。もしも佐藤さんが非行、つまり何か悪い事をしてしまえば、親御さんとは別に私も保護責任を問われる事がありますね」
「悪い事⁉大丈夫ですよ、私そんな事しませんから」
「だから例えばの話ですよ。あとは研修会の試験を受ける為の推薦人の役割です」
「はい、少しイメージしていたのとは違いますね」

 自分のイメージと少し違う事に落胆とまではいかないまでも少し力が抜けている梢子を見て林原が持っていたファイルから紙のようなものを取り出す。

「まあ、しかしさすがに私がそれだけではダメだと思いますので、少しばかりのお力添えをしましょう、これをご覧ください」
「これは棋譜⁉しかも……」
「そうです、あなたのウイナビ女子の決勝での棋譜です」
「ありがとうございます、帰ったら父とも検討してみます」

 その言葉を聞き、更に林原の助言は続く。

「それも大事ですが、検討にはAIを使う事をお勧めします」
「AIですか?でもうちには将棋AIはありませんし、どのようなAIソフトを買えばいいのか……」
「ご心配なく、とりあえず今はスマートフォンの検討用アプリでも十分ですし、本格的なのはいずれ必要ですが焦る必要はありません」
「そ、そうなんですか」

 安堵と不安両方の感情を梢子の表情から感じた林原は更なる助言をする。

「それからこの対局の検討だけでなく、今後自分がした将棋はなるべく棋譜を記録し、AIで検討をすることをお勧めします」
「は、はい」
「私にできるのはここまでです、後は佐藤さん次第です」
「はい、ありがとうございます」

 林原の助言を胸に梢子は新たな将棋の勉強法に取り組むこととした。
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