一歩の重さ

burazu

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高校2年編

勝利の褒美

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 一輝と綾小路が関西将棋会館で感想戦を始めた中、東京の将棋会館の検討室で一輝の勝利をモニター越しで見届けた天馬達も将棋盤を使って検討をしていた。

「やはり、あの局面で……」
「はい……でもその前の……」
「それなら……」

 天馬達が局面についてあれやこれやと意見を交わしている中、検討室に1人の男が現れる。

「あ、真壁君」
「西田さん?」

 一輝の兄弟子である西田が検討室を訪れていた。スーツを着用していたことからどうやら今日は対局であったようだ。

「どうしたんですか西田さん?」
「いや、一輝が勝ったって聞いて、局面が気になったからな」
「なんか浮かない顔ですが、対局は?」
「勝ったよ、だけど……」

 次の瞬間、西田は叫ぶように思いのたけを話す。

「一輝が勝って、俺がうなぎをごちそうしなくちゃいけなくなったから、少し後悔しているんだ!」
「何を言っているんですか⁉」

 天馬に問われて西田はことのいきさつを説明する。

「実は一輝が1度も綾小路さんに勝てていない時に、あいつが俺に3連敗中だって言うから、1勝したことあるって言ったんだ」
「それなら俺も知っていますが、将棋まつりのやつですよね」
「一輝もそう言って、俺が1勝は1勝だって言ったら、公式戦で勝ってみせるって言うから……」
「思わず言っちゃったんですね……」

 天馬の飽きれた声が聞こえているのか聞こえてないのか、西田は更に話し続ける。

「まさか、本当に勝つとはな、正直まだ一輝じゃ分が悪いと思っていたのに……」
「西田さん、西田さんは最近一輝と練習将棋をしましたか?」
「最近して、それで多分まだ無理だと思った。綾小路さんは詰む詰まないに強いからな」
「一輝はその前の中盤の大局観で勝負をしていましたよ」

 天馬は一輝が大局観で勝負をしていると言い放ち、西田は尋ね返す。

「大局観だと?具体的にはどういうことだ?」
「今日の一輝の形勢判断はAIに近かったんです。AIには大局観は無いと言われますが、一輝は時々AIを練習相手にしてその形勢判断力を磨き、自分の大局観を高めていたんです」
「何だそれ?あいつは最終的にAIにさえ勝つ気でいるのか?」
「一輝ならあり得ますが、当面は人間の対局の為の練習でしょう」

 天馬の話を聞いて、少しほくそ笑みながら西田は話す。

「今日の勝利はうなぎ代の価値はありそうだな、よしいつも一輝が世話になっているし、君達にもごちそうしよう」

 西田の発言に鎌田、そして村田が喜ぶが、天馬は少し戸惑う。

「ありがとうございます西田先生」
「やったーー、僕うなぎなんて久しぶりですよ」
「あの、ありがたいんですけど大丈夫なんですか?」

 天馬の問いに小声で西田が話す。

「実はもうすぐ、この間出した棋書の印税が入るから、たまには年上らしくな」
「一輝はいい兄弟子を持ちましたね」

 一輝の兄弟子西田は弟弟子の成長に驚き、そして恐怖もあったが、ひとまず年上らしく振舞うこととした。
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