91 / 160
高校2年編
苦手な棋士
しおりを挟む
一輝達が佐藤神田道場での指導対局をしてから時が経ち、夏休みは終了していた。
梢子は研修会試験を受けることを決めたものの、まだプロ棋士の師匠は決まっておらず、一輝達の連絡待ちだ。
そんなある日の日曜日に佐藤家は一輝のMHK杯トーナメントをテレビ観戦していた。
一輝が既に敗勢であり、テレビ越しより投了の声が聞こえる。
「負けました」
「まで、103手で綾小路七段の勝ちとなりました」
一輝に勝ったのは綾小路七段といい、若い男性棋士だ。
一輝の負けを見て、梢子が声を漏らす。
「ああ、長谷君だめだったか、惜しかったわね」
「一手緩んで、その隙をつかれちまったんだよ。さすがの天才棋士も30秒で全ては正確に読めねえ」
梢子が父春秋と話していると、母である美晴が綾小路について言及する。
「ねえねえ、梢子、この綾小路君ってテレビ映りもいいけど、本物はもっとカッコいいのよ」
「っていうか、お母さん、綾小路七段と会ったことあるの?」
「うん、正確には時々、将棋の棋士と囲碁の棋士で交流する機会があってその時にね」
「じゃあ、あの時うちに来た竹田さんとも会ってたの?」
梢子の問いに、美晴が答える。
「いいえ、竹田さんはトップ棋士でタイトル戦とかで忙しかったから、そういう場には出なかったわ」
「そうなんだ」
「それよりも梢子、女流棋士になったら、あんなカッコいい人とお近づきになれるのよ。やる気出てきたでしょ」
「いや、お父さん機嫌悪くしてあっちいっちゃったわ」
機嫌を悪くした父を母が追いかけてなだめていた。
「ちがうのよ、これは梢子の為で……」
母の声が虚しく響く日曜日の昼間であった。
翌日、一輝達の通う高校にて、昼休みの時間に一輝は売店にパンを買いに行こうとしていたが、その際に梢子に声をかけられる。
「長谷君、昨日の将棋見たわよ。その……残念だったわね」
「まあ、あれは大分前に収録したやつだからね」
「そっか」
「だけど、また綾小路さんとはすることになった。あの人にはデビューして以来2連敗でまだ1勝もしていないから次は勝ちたい」
前回の負けを払拭はしているものの、次の対局に向けて闘志を燃やしている一輝に梢子は凄みを感じている。やはり勝負の世界に生きている人間なんだと実感させられるのだ。
「あ、そうだ、佐藤さんの師匠だけど、竹田先生があたってくれるって」
「そうなの、早く決まって欲しいな」
「そうだね」
そしてこの穏やかな表情と口調である。彼がつかみどころが難しいと実感した梢子であった。
梢子は研修会試験を受けることを決めたものの、まだプロ棋士の師匠は決まっておらず、一輝達の連絡待ちだ。
そんなある日の日曜日に佐藤家は一輝のMHK杯トーナメントをテレビ観戦していた。
一輝が既に敗勢であり、テレビ越しより投了の声が聞こえる。
「負けました」
「まで、103手で綾小路七段の勝ちとなりました」
一輝に勝ったのは綾小路七段といい、若い男性棋士だ。
一輝の負けを見て、梢子が声を漏らす。
「ああ、長谷君だめだったか、惜しかったわね」
「一手緩んで、その隙をつかれちまったんだよ。さすがの天才棋士も30秒で全ては正確に読めねえ」
梢子が父春秋と話していると、母である美晴が綾小路について言及する。
「ねえねえ、梢子、この綾小路君ってテレビ映りもいいけど、本物はもっとカッコいいのよ」
「っていうか、お母さん、綾小路七段と会ったことあるの?」
「うん、正確には時々、将棋の棋士と囲碁の棋士で交流する機会があってその時にね」
「じゃあ、あの時うちに来た竹田さんとも会ってたの?」
梢子の問いに、美晴が答える。
「いいえ、竹田さんはトップ棋士でタイトル戦とかで忙しかったから、そういう場には出なかったわ」
「そうなんだ」
「それよりも梢子、女流棋士になったら、あんなカッコいい人とお近づきになれるのよ。やる気出てきたでしょ」
「いや、お父さん機嫌悪くしてあっちいっちゃったわ」
機嫌を悪くした父を母が追いかけてなだめていた。
「ちがうのよ、これは梢子の為で……」
母の声が虚しく響く日曜日の昼間であった。
翌日、一輝達の通う高校にて、昼休みの時間に一輝は売店にパンを買いに行こうとしていたが、その際に梢子に声をかけられる。
「長谷君、昨日の将棋見たわよ。その……残念だったわね」
「まあ、あれは大分前に収録したやつだからね」
「そっか」
「だけど、また綾小路さんとはすることになった。あの人にはデビューして以来2連敗でまだ1勝もしていないから次は勝ちたい」
前回の負けを払拭はしているものの、次の対局に向けて闘志を燃やしている一輝に梢子は凄みを感じている。やはり勝負の世界に生きている人間なんだと実感させられるのだ。
「あ、そうだ、佐藤さんの師匠だけど、竹田先生があたってくれるって」
「そうなの、早く決まって欲しいな」
「そうだね」
そしてこの穏やかな表情と口調である。彼がつかみどころが難しいと実感した梢子であった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説


百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる