一歩の重さ

burazu

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高校2年編

指導対局

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 ウイナビ女子オープンの予選を終えてからしばらく経ったある日、竹田義男九段はある場所を訪れていた。

 その場所のドアを開けて中に入ると周りがざわつく。どうやら竹田の事を知っている人達の集まりのようだ。

「あれって、プロ棋士の竹田九段じゃねえか、おい春秋さん、そんなサプライズを用意していたのか?」

 そこは先日のウイナビ女子オープンに参加していた佐藤梢子の父親が将棋を指導している佐藤神田道場であった。

 客の1人の言葉に反応し、春秋は竹田に声をかける。

「義男⁉義男じゃねえか、どうしてここに?」
「お久しぶりです春秋さん。いや、偶然通りかかったら、将棋道場があったので、入ってみたらそこに春秋さんがいたわけですよ」
「いや、偶然通るような場所じゃないだろ、本当は一体どうしたんだ?」
「まあ、せっかく何で昔話でもと思いまして、とその前に」

 そう言って竹田は道場で指している客達の方を向き、言葉を放つ。

「ええ、皆さん、せっかく来ましたので特別に私と指導対局がしたい方はおられますか?」

 そう言うと多くの希望者が続出し、竹田はある提案をする。

「ちょっと人数が多いので4面指しにさせてもらいますね」

 そうしてテーブルを少し移動させ、竹田の4面指しが始まる。

 4面指しがしばらく続き、ようやく最後の組が終わる。

「負けました」

 この言葉を発したのは竹田九段であった。プロの指導対局には駒落ちというハンデが付き、対等の勝負になるような仕組みがあるが、それでも本気で勝とうと思えばほとんどの場合プロ側が勝つが、この時の竹田は、好勝負を演出しながらも自身がギリギリ負ける筋に持っていったのだ。

 これもプロのなせる技なのだ。

 その様子を娘である梢子、そして梢子の母である美晴が遠目で見ており、梢子が言葉を発する。

「すごい」
「そうね、プロに勝つなんて」
「そうじゃない、最初から最後まであの人が将棋の主導権を握っているように思えた。やっぱり、プロとアマじゃすごい差があるんだ」
「すごいじゃない梢子、やっぱりあなたは将棋の方が向いているのね、囲碁には興味すら示さなかったのに」

 梢子の母である美晴は囲碁棋士であり、娘が囲碁に興味を持たなかったことに少し不満そうな感じで話す。

「お母さん、いきなり私を囲碁でめちゃくちゃに負かしたじゃない。あれじゃあ興味失くすわよ」
「あれーー、じゃあお父さんみたいに負けてあげたら囲碁にも興味を持ってくれたのかなーーー?」
「それは分からないけど、でも私は将棋の方が好きかな」
「まあ、どっちもやらなくても良かったのに、今でも将棋を指しているからね」

 梢子たちが会話をしていると竹田が春秋に声をかける。

「春秋さん、外で昔話でもしませんか?」
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