一歩の重さ

高校２年編

新たなる刃

　ここウイナビ本社のウイナビルーム内でウイナビ女子オープンという女流棋戦がいよいよ開始しようとしている。

　まず初戦を小夜、そして山西紗綾女流二段が臨もうとしている。

　振り駒が行われ小夜の先手だ。

　しばらくして開始時間を迎えると記録係より開始の声かけが行われる。

「それでは時間になりましたので牧野女流初段の先手番でお願いします」
「よろしくお願いします」

　小夜は早速初手7六歩と角道を空ける。

　それに山西は3四歩と角道を空け、互いの角を睨み合わせる。

　3手目少し考えるが小夜は1六歩と端歩を突く。

　山西にとっては意表を突かれたのか少し迷うが角交換を避ける為、4四歩と突く。

　そして小夜は1五歩と端歩を突き越す。

　山西はこれを見て飛車を4二に振る。四間飛車であり、山西が採用する率が高い戦法だ。

　その様子が別室で観客に対しての解説を一輝と鎌田女帝が行っていた。

「長谷四段、牧野女流初段が珍しい形の出だしにしましたね」
「そうですね、牧野さんは基本的には早々に飛車を振るのですが、端歩から……ん？」

　小夜は6八玉と玉を左に囲う素振りを見せる。

　将棋では基本的に玉と飛車は離して使うのである。飛車を左に使いたい場合は玉を右に囲い、逆に使いたい場合は玉の囲いも逆にするのが良い。

　何故そうしなければならないかというと、玉と飛車が近すぎると同時に攻撃を受けやすく、王手飛車取りの危険性が高くなるからだ。

　玉を取られたら負けのゲームではあるが、攻撃の要である飛車を簡単に渡すと勝ちにくくもなるのだ。

　これまで小夜は三間飛車を得意戦法としていたが、本局は玉を左に囲う素振りを見せていることから居飛車の可能性が高くなった。

　そのことに一輝と鎌田が言及する。

「牧野さんは公式戦では振り飛車を指しており、居飛車は指したことが無かったと思いますよ」
「そうですね、これまでは相手が振り飛車にした場合も相振りにしていましたからね」

　ここで鎌田はさっきの竹田のアドバイスを思い出し、一輝に話を振ってみる。

「もしかして長谷先生、牧野さんに居飛車を教えましたか？」
「え、どうして僕が？」
「確か、長谷先生は牧野さんとは幼馴染ですし、長谷先生は対抗系居飛車がとてもお強いので、その辺の指導をされたかなと思いまして」
「でも確か最近までは振り飛車一辺倒だったので、最近ＶＳを始めた鎌田さんの影響が大きいんじゃないんですか？」

　一輝が質問返しをし、鎌田が返答をする。

「でも私が居飛車ばかりで牧野さんはずっと振り飛車でしたよ」
「それじゃあ、鎌田さんの指し方を参考にしたかもしれないですね。今度会った時に聞いてください」
「え、き、聞くんですか？分かりました」

　解説はトークも交えつつ和やかに進むが、小夜と山西の将棋は一気に激しくなる。