一歩の重さ

burazu

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高校2年編

タイトル戦の昼食

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 一輝達がタクシー内で中継アプリを起動させて見た局面は結局一輝達が椿山荘ホテルに着くまでほとんど動くことはなかった。

 一輝達が見た局面の光景は囲いも程々にしながら互いに相手陣を攻める。いわばノーガード戦法に近いような戦いをしていたのだ。

 2日間のタイトル戦は1日目から2日目の午前にかけては局面が大きく動きにくいのだが、本局はもはやいつ終局してもおかしくない程の局面になっていたのだ。

 そんなことを考えながら一輝達の乗るタクシーは椿山荘ホテルに到着し、一輝達はホテルの中に入り、棋士や関係者が入れる検討室へと向かう。

 検討室には大盤解説予定の棋士や記者達やその他の関係者達がおり、棋士達は盤と駒で検討をしていた。

 一輝達も盤と駒を用意してもらい、早速検討を始める。

 一輝達が検討をしていると、対局者は昼食休憩に入る。

 その様子を検討室にあるモニターで見ていた諸見里が一同に呼びかける。

「みんな、わしらも昼飯にするぞ」

 諸見里の言葉に弟子の西田が反応し尋ねる。

「もしかして俺達にも主催者からごちそうしてもらえるんですか?」
「バカか、わしらは自分達で勝手に来たからそんなの出るわけないだろう。というかお前も分かってて言ってるだろ。あまり一輝の前で間違ったことを言うなよ」
「はいはい」

 あまり反省のなさそうな西田であったが、とりあえず全員で昼食を食べにホテル内のレストランに向かう。

 食事をしている中、西田が自身のスマートフォンを操作して何かを探っているようだが師匠の諸見里に咎められる。

「おい、西田食事中に携帯をいじるな」
「まあまあ師匠、これだけ見てくださいよ、他のみんなも」

 そう言って西田はスマートフォンの画面が全員に見えるようテーブルの上に置き、画面の内容について説明する。

「中継アプリに対局者の注文したやつの画像がでていたんですけど、赤翼先生が『4種のチーズピザ』で、挑戦者の吉住さんが『タンシチュー』なんですよ」
「それがどうしたんだ?」
「こういうオシャレなものがタイトル戦に出れれば、主催者持ちで食えるんですよ。俺はタイトル戦があるたびにこの画像をモチベーションにするんです」
「ほう、その割には成績に反映されていないようだが」

 少し痛い所を突かれて西田は返答に困ってしまう。

「うっ、そこを突きますか」
「お前と一輝はプロ入りこそ1年違いだが、しゃきっとせんと順位戦のクラスを2、3年で一輝に追い抜かれるぞ」
「そういえば前に師匠は一輝と順位戦で指したいと言ってましたよね。早くB1に上がって下さい、俺が一輝より先にB1まで上がって師匠との順位戦対局を実現させてみますから」
「おもしろい、来い」

 強くなるモチベーションは人それぞれ。一輝は師匠と兄弟子を通してそれを思う。
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