泣き虫の悪魔

ピッコロ

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泣き虫の悪魔

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 部長は昼にコーヒーより紅茶を飲む派だ。紅茶をちょっとづつゆっくり飲む。その時、窓から太陽の光りが差し込んで、ここが仕事場だということをうっかり忘れてしまう。そして次に部長は
 「なんだ、ミオは飲みたかったのか」
部長の流れ作業を無言で眺めていたからそう思われたかもしれない。
 「今は飲みたいかもしれません」
 「何だ、その変な返答は」
部長は穏やかな動作で紅茶を入れて右手でコップを渡す。
「ありがとうございます」
「別にいいよ」
 部長の手には指輪が光る。叶わない恋なんだなぁと改めさせる。ほんと、この痛みをどうすればいいのか?
「なんだ、ミオ。まずいのか」
「ちょっと苦いかな」
「あ、涙出てる。ほんと涙腺ゆるいな」

 神崎ミオは子供の時から悪魔だった。人を陥れ破滅への渦に流すのが特技だった。どこにいてもミオ、私の周りには問題ばかり起きる。私は自分の本質はそうなんだと信じていた。
 人は自分の心が全くと言うほど分からない迷いがちな生き物だ。そう言う人間と山ほど出会ってきた。教師、クラスメイト、友達、同僚そして家族にも被害が及んだ。
 私は確かに彼らを落とした。それは間違いない。しかし悪いとは全くもって思ってはいない。嘘をつくのも浮気をするのも全部悪い。真実がない人間は本物をいくらとり繕った所で鼻から敵わない。躊躇いもなく地獄の底に落としてきた。

 私は部長と出会ってから泣いてばかりいる。部長の考えは心のそこに触れる。悪魔はもう泣き虫な悪魔になっている。

 ある時、仕事で助け合いながら部長にさりげなく言われたことはある。
「神崎さんは皆んなを、真実のままいてほしいだね」
「あ、神崎さん!」
 涙が落ちるより悲しみが胸に突き進んで来た。自分にもこんな激しい、悲しみがあったのだと知った。自分も人の子だということを思い知らせた。
 そうなんだ。私は皆んなに本当の姿であった欲しかった。お父さんとお母さんにも、先生にも、友達にも。ずっと辛かったんだ。せりあげてくる悲しみは過去の痛みを訴えてくる。自分は悲しくてたまらなかったんだ。

 痛みも悲しみも辛さも思い出全てが涙と共に落ちていた。

。。。。。。。。。。


 彼女が初めて見た時、仕事人間だなと思った。感情は無で非常に頭が切れる。目敏く嘘の敏感な性質の人に感じた。だから俺は彼女の前で非常に神経を使っていた。誰も、バレたくない秘密がある。しかし彼女の前では気を使わないと絶対バレるという勘があった。

「部長!」
「うん?どうしたのかな」
「黒部さんの仕事、部長は手伝いましたね!」
「あ、うん」

そういうと彼女はため息を描いて呆れた顔しながらこっちを見た。
「部長は切れる立場にあります。何も全部背負い込んで進む必要なんてないんですよ」
 
 ああ。こういう所があるんだ彼女は。すごいと思う。彼女の言動を見ていると胸がスッとするんだ。前を向いて、胸を張っているような正しさに胸が震える。
 
そんな一見冷たいようで優しい彼女はとても泣き虫だということを後から知った。初めて見た時、ものすごい綺麗なものを見ているような気がした。そして胸の高鳴りを感じた。
あれ?
紅茶入れてあげる単純なものにも涙をこぼす彼女を見ているととても苦しい。
胸が苦しい。
自分のセクシャリティはゲイだ。だから女性の方からのアプローチに困り、指輪をつけるようになった。仕事場でのカミングアウトは出来たら避けたい。そんな自分は今、彼女を見て胸がぎゅうぎゅうに締め付けられている。
何でだろう。

「最近、付き合い悪いんじゃないかぁ、レイ」
「悪い。仕事忙しい。それに考えるべきこともあるんだ」
「はぁ、お前自分の顔見て言ってるのか。恋する乙女だぞ」
何言ってるんだこいつは
「離せ」
「俺を適当に誤魔化せると思ったのか。いいぜ、浮気のお仕置きしてやる」
「いいから、離せって」
このあたりで喧嘩すると人目につく。取り敢えず穏便に場所を移動したい。

「そこのあなた。警察の方とお話ししたいですか」
やけに冷静な知ってる声がした。
「は?」
「警察の方とお話ししたいですか」
無表情で真っ直ぐに見る無感情の姿がそこにある。
「なんだお前は。関係ないだろ。放っとけ」
 どけるつもりなのか手をあいつは神崎さんに翳すとあっという間に地面に顔を押されている。
「人が困っているのが分からないアホには今がお似合いね」
「テテテェ、あッぁ。はなせぇぃ。はなしてください」
「嫌です」

俺は少し息を整えてから
「ミオ、離してくれないか」
「はい、部長」
即座に体を起き上がれせて待機する軍人のようだ。ホントこの人何者?

「ごめん、でも君とはこれでもうお終いにしよう」
あいつはイヤイヤ帰っていった。ミオは静かに見守っていた。

全部バレてしまった。どうすればいいのか。
「部長、私は貴方が好きです」

どういう顔していいか分からず俺は振り替えって彼女に言う。
「俺、ゲイなんだ。でも、よく分からない。お前を見てると胸が苦しくなる」
見開ける大きな目、整っていて美しくて愛らしい顔。
「お前が好きなんだ」
あぁ、また涙がぽたぽた落ちてる。俺も、もう泣く。
「わた、しもです。私も大好きなんです。部長が好き」

抱きしめ合って、泣き合って、次に笑い合う。
お前の笑顔は眩しい。

 部長をゲイだと知って、部長と付き合いだしてからまだ日が浅い。部長の気の迷いじゃないかと不安にもなるが私を真っ直ぐに見て言ってくれたあの思い出だけで満足してしまう。
「ミオ、愛してる」
「部長は本当に女の私が好きなんですか」
「それはもうばっちり確かめただろう」
「そ、そうだけど」
 
 部長、レイは私の手を取りキスして額を合わせる。言葉がないがその動作だけで深い愛に自分が包まれる。私は悪魔になって、泣き虫になって、この人と一緒にいることがたまらなく嬉しい。
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