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16.身体を重ねること
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結局あの後、なんとかかんとか警備隊へは自然災害で押し通すことに成功した。
いや多分通じてはいなかったが、アデリーと周囲で見守っていた人々が言葉を尽くしてくれた。
なかでもアデリーを連れ去ろうとしていたエドを含む破落戸たちは、かなり際どい商売や犯罪に手を出しており、いくつもの逮捕に当たるおたずねがでていたらしい。
アデリーの証言もあり、セリス達は突然連れ去られかけた被害者であり、ルーファスは助けに入り、たまたまそこに雷が落ちてきたということになった。
そそくさとそこを立ち去ろうとするセリス達に、アデリーが「セリス本当にありがとう……」と声を掛けに来た。
あれだけの目に遭えばもうアリィーサを探すような真似はしないだろう。
遠くないうちの再会を約束すると、アデリーはこれまでで一番美しく微笑んで「セリス達なら絶対うまくいくよ」と手を振ってくれた。
その台詞に、セリスは今日王都に来たそもそもの目的を思い出した。
「そういえば……」
「セリスさんどうしたんですか? あ、もう馬車を呼びましたよ。荷物はこっちに」
「夫殿、今日戻ったら試してみよう」
「え? なんですか?」
「今日こそ、性交しよう」
「せ……? って、え!?」
「――今日あなたに抱かれたい」
★
セリスは久しぶりに、初夜の時のような夜着を用意してもらった。
今日のそれは、ベビードールのような短い丈のものではなく、踝程の長さで、足元の薄青色から胸元の薄桃色へのグラデーションが美しいものだった。
まるで春の夕暮れを思わせる色合いだ。
裾には繊細なレース刺繍が施されていて、華美さはないが上品で美しい。
初夜の時のアレは、防御力が皆無で、隠すべきところが全部透けていたが、今日のこれならルーファスも逃げなくてすむだろう。
『今日、あなたに抱かれたい』
それは本心から出た言葉だった。
あの稲妻を操る夫殿の姿、あれは思った以上の衝撃的なもので。
自分が知っている彼の姿は、ほんの僅かなものなのだと思い知らされた。
――性交したからといって、何が変わるとも思えないけれど。
でも今はとにかく、ルーファスに今より少しでも近づきたい、そう思えて仕方なかったのだ。
ベッドに腰掛けて待っていると、暫くして申し訳なさそうな小さな音をたてて、扉が開かれた。
その音に、セリスの肩がびくりと揺れる。
小さな音にも過敏に反応してしまうほどに、胸の鼓動が騒がしくセリスの身体を巡っている。
現れたルーファスは、湯浴みをした後なのだろう、珍しく白い簡素な夜着を纏い、いつもは重く視線を遮っている前髪も耳に掛けて、見慣れない表情をしている。
心もとない心情がそのまま表情に表れているのが見て取れる。
そしてセリスの姿をみとめると、はっと目を見開いた後おろおろと視線をさ迷わせた。
「夫殿」
「あ、あのセリスさん……」
「緊張している?」
「もっ、勿論ですよ、あの、僕……」
「まずは、ここに座ってくれないか」
いつかのようなやり取りが交わされ、ルーファスはセリスの横にちょこんと座った。
「ええとそれではまず、確認させてくれ」
「は、え? 確認ですか?」
神妙な顔で頷いたセリスのもと、今日覚えたばかりの大切な確認が始める。
アデリーが教えてくれた大事なことだ。
「まず大事なことから。夫殿は私を抱くことに否はないか?」
「はい、ありません」
「私は子どもを授かれたらいいなと思っている。だが、今はまだ自分の身体の変化に対して心の準備ができていない。今日は避妊ジェルを使いたいと思う。いいだろうか?」
「はい、勿論です。女性の身体への負担は計り知れませんから、セリスさんのタイミングで結構です」
セリスは夫の迷いのない返事に、少なからず胸を撫で下ろした。
アデリーはここでハッキリと答えられない男も多いと言っていた。
ルーファスがセリスの意向を無視するとは思えなかったが、改まって尋ねるということは、存外プレッシャーがかかるものだ。
いつもは極端に恥ずかしがって合わせられることのない空色の瞳が、今日は真っすぐとセリスのことを見つめていることに、セリスのほうが怖気づいてしまう。
そこで、今日のあの夫の姿を見て、一瞬怯んでしまった自分を思い出して、改めて気合を入れる為に深く息を吐いた。
「手順は……、頭に入っている?」
「は、はい。あの大体は。あの、きっと大丈夫だと……。でもあの」
「うん?」
「セリスさんは……大丈夫ですか? あの無理だけは、しないでください」
「――……、もちろん」
そうしてセリスは夫を受け入れる為に、その頬に手を伸ばした。
ゆっくりと顔を近づけて、唇を寄せる。
セリスはその空色の瞳が黒いまつ毛に隠されるのを間近で見つめながら、肝心なことを聞くことができなかったこと思い出し、奥歯を噛み締めた。
いや多分通じてはいなかったが、アデリーと周囲で見守っていた人々が言葉を尽くしてくれた。
なかでもアデリーを連れ去ろうとしていたエドを含む破落戸たちは、かなり際どい商売や犯罪に手を出しており、いくつもの逮捕に当たるおたずねがでていたらしい。
アデリーの証言もあり、セリス達は突然連れ去られかけた被害者であり、ルーファスは助けに入り、たまたまそこに雷が落ちてきたということになった。
そそくさとそこを立ち去ろうとするセリス達に、アデリーが「セリス本当にありがとう……」と声を掛けに来た。
あれだけの目に遭えばもうアリィーサを探すような真似はしないだろう。
遠くないうちの再会を約束すると、アデリーはこれまでで一番美しく微笑んで「セリス達なら絶対うまくいくよ」と手を振ってくれた。
その台詞に、セリスは今日王都に来たそもそもの目的を思い出した。
「そういえば……」
「セリスさんどうしたんですか? あ、もう馬車を呼びましたよ。荷物はこっちに」
「夫殿、今日戻ったら試してみよう」
「え? なんですか?」
「今日こそ、性交しよう」
「せ……? って、え!?」
「――今日あなたに抱かれたい」
★
セリスは久しぶりに、初夜の時のような夜着を用意してもらった。
今日のそれは、ベビードールのような短い丈のものではなく、踝程の長さで、足元の薄青色から胸元の薄桃色へのグラデーションが美しいものだった。
まるで春の夕暮れを思わせる色合いだ。
裾には繊細なレース刺繍が施されていて、華美さはないが上品で美しい。
初夜の時のアレは、防御力が皆無で、隠すべきところが全部透けていたが、今日のこれならルーファスも逃げなくてすむだろう。
『今日、あなたに抱かれたい』
それは本心から出た言葉だった。
あの稲妻を操る夫殿の姿、あれは思った以上の衝撃的なもので。
自分が知っている彼の姿は、ほんの僅かなものなのだと思い知らされた。
――性交したからといって、何が変わるとも思えないけれど。
でも今はとにかく、ルーファスに今より少しでも近づきたい、そう思えて仕方なかったのだ。
ベッドに腰掛けて待っていると、暫くして申し訳なさそうな小さな音をたてて、扉が開かれた。
その音に、セリスの肩がびくりと揺れる。
小さな音にも過敏に反応してしまうほどに、胸の鼓動が騒がしくセリスの身体を巡っている。
現れたルーファスは、湯浴みをした後なのだろう、珍しく白い簡素な夜着を纏い、いつもは重く視線を遮っている前髪も耳に掛けて、見慣れない表情をしている。
心もとない心情がそのまま表情に表れているのが見て取れる。
そしてセリスの姿をみとめると、はっと目を見開いた後おろおろと視線をさ迷わせた。
「夫殿」
「あ、あのセリスさん……」
「緊張している?」
「もっ、勿論ですよ、あの、僕……」
「まずは、ここに座ってくれないか」
いつかのようなやり取りが交わされ、ルーファスはセリスの横にちょこんと座った。
「ええとそれではまず、確認させてくれ」
「は、え? 確認ですか?」
神妙な顔で頷いたセリスのもと、今日覚えたばかりの大切な確認が始める。
アデリーが教えてくれた大事なことだ。
「まず大事なことから。夫殿は私を抱くことに否はないか?」
「はい、ありません」
「私は子どもを授かれたらいいなと思っている。だが、今はまだ自分の身体の変化に対して心の準備ができていない。今日は避妊ジェルを使いたいと思う。いいだろうか?」
「はい、勿論です。女性の身体への負担は計り知れませんから、セリスさんのタイミングで結構です」
セリスは夫の迷いのない返事に、少なからず胸を撫で下ろした。
アデリーはここでハッキリと答えられない男も多いと言っていた。
ルーファスがセリスの意向を無視するとは思えなかったが、改まって尋ねるということは、存外プレッシャーがかかるものだ。
いつもは極端に恥ずかしがって合わせられることのない空色の瞳が、今日は真っすぐとセリスのことを見つめていることに、セリスのほうが怖気づいてしまう。
そこで、今日のあの夫の姿を見て、一瞬怯んでしまった自分を思い出して、改めて気合を入れる為に深く息を吐いた。
「手順は……、頭に入っている?」
「は、はい。あの大体は。あの、きっと大丈夫だと……。でもあの」
「うん?」
「セリスさんは……大丈夫ですか? あの無理だけは、しないでください」
「――……、もちろん」
そうしてセリスは夫を受け入れる為に、その頬に手を伸ばした。
ゆっくりと顔を近づけて、唇を寄せる。
セリスはその空色の瞳が黒いまつ毛に隠されるのを間近で見つめながら、肝心なことを聞くことができなかったこと思い出し、奥歯を噛み締めた。
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