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第一界 僕らの世界

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―――生きてるってだけで、儲けもの――― うん、そうだ。絶対。
齢、十七、八の少年、高科悠李たかしなゆうりはそういった考え方を持ち合わせるようになった。

 十年前に起きた――― 未曾有の飛行機墜落事故に巻き込まれてから。

 その日は年が明けた元日だった。家族旅行でリフレッシュを兼ねて、ハワイへ行くために飛行機の搭乗口へ向かっていた。家族は、悠李と、父親の悠斗、妹の莉理香、母親の理緒菜の4人だ。正月になんでハワイ? と思ったが、その方が安価に済むと母に聞いた際に言っていた。

飛行機は航空史初となる、完全自動による航空制御システムを用いて飛行する。
「機長を務めます、上阪こうさかです。といっても、このエアライド213号は自動制御で飛びますので、私の出番が来るのは非常事態エマージェンシーの時だけなんですが。出番が来ないことを祈っております」
 頼りがいのある風貌をした髪に白髪の混じった機長は離陸前の挨拶としてそう述べた。

 中央の席に並んで座り、ベルトを着ける。
「楽しみだね! ハワイ」莉理香はそう言って、足をバタつかせながらはしゃいでいる。
「そうだねー」母の理緒菜は束ねた長い髪をさらりと揺らし、微笑んで返した。

「大丈夫………だよね? これ」
「ん? 父さんが構築したシステムが信用できないのか?」不安がる息子を見、悠斗は悪戯にきいた。
「そういうわけじゃないんだけど……」悠李がどもった。
 説明し難い、形容できない不安が悠李を包んでいた。
原因は判っている。
今日見た悪夢(ユメ)のせいだ。
――― 自分以外の乗員が息絶え一人、生き残ってしまうあの悪夢。

 その内容(シナリオ)は鮮明に思い出せる。恐怖とともに。
 原因不明の衝撃波が飛行機を襲い、機内がパニックに陥ったまま墜落し、何故だか自身だけ一人、無傷で生き残るというものだ。
 ……、正夢になりませんように…。
悠李は両手を固く結び、力の限り必死に祈り続けた。
「ハッハッハ、大丈夫だって。完璧なシステムなんだからな」
そう言って、悠斗は息子の頭を撫でた。

 しばらくして、添乗員によるアナウンスが流れた。
「まもなく、離陸いたします。当、航空機『エアライド213号』は自動制御による飛行のため安全ですが、緊急を要さない場合はシートベルトを着けたまま外さないで下さい。では、空の旅をお楽しみください」
機械の鳥は滑走路を駆けると、悠然と飛び立った。

「高度、速度、ともに安定してます」緊張しいの副機長が上坂に告げる。
「わかった。お前も少し力抜けよ。大丈夫だから」
そう言われた副機長は、「本当に大丈夫なんですかね? 今までは飛行機が安定するまで人の手によって操作していたのに、その操作すらも自動というのは。なんというか…落ち着きませんよ…」と言い、ますます緊張した面持ちとなっていた。
「とりあえず、飲み物でも飲んで落ち着け。君、副機長にアイスコーヒーを頼む」コクピットの中に常駐している秘書的存在の添乗員である邦代くにしろに言った。添乗員は「分かりました。アイスコーヒーですね」と答え、そそくさとコクピットを出、飲み物の用意をする。
その最中、
「今…、管制塔の方から妙な情報が来たのですが…」
「え? 管制塔はなんて?」
「なんでも、航空進路として通るルートに電磁波が異常に強い場所があるとかで…」
少し考えて、「…わかったわ。この件は私が機長に伝えておくから。あなたはいつも通りに仕事を全うしてちょうだい」と言った。
「了解しました」
少し不安げな貌つきになっていた部下にあたる添乗員を諭し、安心させるとアイスコーヒーを入れたカップを持ち、急ぎコクピットへと向かった。
「持ってきました。アイスコーヒーです」
「ありがとう」副機長はそう言って、邦代から受け取り、ドリンクホルダーに置いた。
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