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8月2日(1)

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 目が覚め、しばらく見慣れない天井をボーっと見つめていると、ここが祖母の家であると寝ぼけた頭が認識した。着替えて部屋を出ると、食欲をそそる味噌汁の匂いが漂ってきた。台所の祖母におはようと声をかけ、洗面所に向かい、顔を洗って、歯を磨いた。

 私の祖母の家での生活は、午前中に宿題と家事の手伝いをして、午後は外に遊びに出かけるというのが一日の流れだった。退屈な勉強の時間――もっとも、鉛筆を持つ手は鈍く、合間には去年、作りかけのまま置いていったプラモデルの制作や、漫画をパラパラと読む時間の方が長かったが。

 昼食を食べ終えた私は、裏庭の物置小屋の傍に立てかけられた自転車に跨った。祖父が生前に使っていた物のようで、フレームは所々錆びていたが、祖母が手入れをしてくれていたのか問題は無いようだった。

 自転車に乗り、最初に向かったのは友人の家。この田舎には私と近い年ごろの子どもは2人いた。島崎匠しまざきたくみ芝淵夏希しばふちなつき、匠は私の1つ年上で、夏希は同い年だった。出会いはいつだったか、森で虫取りをしている時、大きなクワガタを捕まえ、虫かごに入れている所に声を掛けられたのが最初のはずだ。2人とは夏の間しか遊べなかったが、数少ない同年代の子どもということもあり、非常に仲が良かった。

 匠の家に着き、チャイムを押すと反応は無かった。残念、留守かと思い立ち去ろうとしたとき、背後から声を掛けられた。振り向くと、この辺りで唯一の商店を営んでいる、竹原さんがいた。『竹原商店』は食料品や日用品などを雑多に扱った、まさに田舎の商店といった佇まいの店だった。子どもの頃の私は、主に駄菓子やアイスを買う目的で利用していた。その店主の竹原さん――40半ばの中年の女性――は、私に挨拶する暇も与えず、まくし立てた。
 
 ――今年もきたのね、――この間あなたのお婆ちゃんがね、――うちのお店に新しい、――匠くんと夏希ちゃんはね、――、喋りたいことを一通り喋ったあと、竹原さんは「またね、今度はうちで買い物してってね」と手を振り、立ち去った。竹原さんの話はほとんどが私の耳を素通りしていったが、その中に、私の夏の予定を大いに狂わせるものがあった。どうやら匠はこの夏の間中、遠くの親戚の家に泊まり、夏希も旅行で8月の中頃まで帰ってこない、という話だ。私は、どうやら今年の夏は寂しいものになるらしい、と考えながら自転車を山の方へと走らせた。

 隣県へと続く国道の高架下、すぐそばに森が広がるその場所は、子どもが秘密基地を作るのにはうってつけの場所だった。所々が裂けた革張りのソファに、座布団を括り付けたドラム缶、積み上げられた漫画雑誌、脚立を利用しブルーシートの張られたその場所は、夏の間のもう1つの家とも言えた。

 自転車を壁に立てかけ、私はソファに腰を下ろした。私がこの秘密基地を使うのは夏の間だけだが、地元の匠と夏希はちょくちょく使っているのだろう。去年に比べ物が増え、小ぎれいに整っていた。靴を脱ぎ、ソファに横になりながら積まれた漫画雑誌に手を伸ばした。――ページをめくりながら、今年の夏の1人での過ごし方を考えていた。

「……ねぇ」

「わっ!」

 突然の問いかけに私は飛び上がった。

 声の主は、私より少し幼いくらいの少女だった。肩まで切り揃えられた黒髪に、少し細められた大きな瞳。透き通るような肌に、白いワンピースを纏わせ、私を覗き込んでいた。彼女はこの場所が気になるのか、辺りを物珍しく見渡していた。

「……君、だれ?」

「桜。新穂桜にいほさくら

 桜と名乗った少女に、私も自己紹介をした。「達郎くん――じゃあ、たっくん」私の呼び名を口の中で転がすと、桜は私の座るソファの横に腰を下ろした。

「わたしね、お爺ちゃんとお婆ちゃんの家にきてるの。お父さんが怪我で入院してるから、わたしだけ」

 桜の境遇は、怪我と妊娠の違いはあれど、ほぼ同じだった。彼女の母も父親に付き添い、この田舎には1人でやってきたのだという。私は、自分も母の妊娠で夏の間はここに預けられていると語った。他愛もない話を続ける中で、桜が私より1つ年下の小学5年生であること、この夏いっぱい、ここで過ごすことが分かった。

「……ここ、たっくんの場所? わたしも遊びに来ていい?」

「いいけど、別に俺だけの場所ってわけじゃないよ。匠と夏希っていう子たちと使ってる秘密基地」

「今日はいないの?」

「今日は――というか、この夏の間はいない。匠は親戚のとこで、夏希は旅行。あ、でも夏希は8月の中頃に帰ってくるって」

「じゃあ、それまでふたりっきり」

 ただの確認を口にしたのだろうが、私はその言葉に少し胸が高鳴るのを感じた。

「昼すぎならここら辺で遊んでるから。あぁ、別に俺がいなくても、好きに使っていいよ」

 気恥ずかしさから、ソファから立ちあがり、地面に落ちた雑誌を拾いドラム缶の上に腰かけた。桜はまだ辺りをキョロキョロと見まわしていたが、しばらくしてから漫画雑誌を手に取ると読み始めた。

 蝉の鳴き声とページを捲る音だけが高架下に響いていた。

 ふと、手を止め桜の方に目をやると、いつの間にか靴を脱ぎ、ソファに体育座りをして漫画を読んでいた。太ももと膝に漫画雑誌を乗せる形だ。当然ワンピースでそんな姿勢をしているのだから、私の位置からは白い下着が丸見えになっていた。それは僅かに食い込み、隠すべきである場所を無防備に晒していた。

 私の視線は、そこに釘付けだった。桜が座る位置を調節するために体を動かすと、下着もズレて、その奥の肌を覗かせた。血が巡り、私の陰茎はたちまち固くなった。当時の私は精通を迎えておらず、自慰行為の知識も無かった。勃起をしてもただ手の平で上から押さえるといった行為で、性欲を紛らわせていたのだ。

 視線を桜の下着から外さず、漫画雑誌に隠れた股間を手で押さえつけ、下着の中で位置を変えることで、もどかしい快楽を得ていた時。桜がソファから立ち上がり、私のほうへやってきて、「――パンツみてた」と言った。

「――パンツ」桜はもう一度、呟いた。

「……ごめん」

 私は正直に謝った。私の学校のクラスメイトの女子を思い出したからだ。彼女たちは男子に下着を見られようものなら、悲鳴をあげ、嫌悪感を露わにする。せっかくできた、この夏の遊び相手に嫌われるのは避けたかった。

「パンツ……見たい?」

 その問いかけに答えられずにいると、桜は白いワンピースをたくし上げた。事も無げに、白い下着と少しぽてっとしたお腹までもを私にさらけ出したのだ。

 驚きで持っていた漫画雑誌が地面へ落ちると、私の勃起した股間も桜にさらされた。私の半ズボンを持ち上げ、ピンとテントを張らせたそれを。私は慌てて手で押さえつけたが、桜の興味はしっかりとそれに向けられた。

「……それ、何?」

 私の股間に伸ばそうとしてきた手から逃げるように、私はドラム缶から飛び降りた。

「いや、……これは……」

「パンツ」

「え?」

「パンツ見せてる」

 だから私にも見せろ。そういうことらしかった。
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