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ねこのこ編予告、第一章《偽りのねこのこ》
08《恨み》
しおりを挟む俺にはねこのこに内緒にしてたことがあった。
それは……俺がねこのこをどうしても許せない、今に思えばどうしようも無いほどにくだらない、そして最低な想い。
俺の父は勇者だった。
そして同時に……俺の母は大聖者であった。
勇者を倒す為、まだ産まれたばかりの俺を残し……父さんと母さんは──
帰ってきたのは父さんだけであった。
母さんは俺を産んだ事で大激戦を乗り越えるだけの体力はなく、魔王との戦いの最中……亡くなったらしい。
けれど俺はそれが嘘だと知っていた。
ある日、父さんが残した日記を見たからだ。
母さんは……魔王が死ぬ前に、我が子を喰らい回復を測ろうとしたところをその身で庇い、絶命した。
父さんの日記では、もしも魔王が子を食っていたなら勝機は無くなっていた。そうとも記されている。
けれど……それを見た当時の俺に、そんなもの関係なかった。
アルバムでしか見たことが無い母さん、とても優しそうで……産まれたあの日、優しく俺を抱きしめてくれた温もりを今でも覚えている。
だからこそ、俺は……母さんが死ぬ理由となったねこのこを、殺そうと思ったんだ。
諸悪の根源、魔王の娘、母さんの仇。
殺すには充分な理由だと思った。
だから眠るねこのこに、俺は父さんが隠していた魔王を殺せるという剣を盗み、突き立てようとしたんだ。
けれど……父さんにばれて……止められ咎められた。
「あの子がお前になにかしたのか!!!」
「……母さんを……俺の母さんを奪った!!!」
「……なぜお前がそれを!? ……いや、今はそれはいい……」
「何が今はいいだ!! アイツがいなけりゃ俺の母さんは!!」
「黙りなさい!! お前はあの子の事が何も見えていない!!」
意味がわからなかったさ……俺は部屋を飛び出た。
そしたら……「ススム……」そこにはねこのこがいた。
「……お前……まさか、聞いてたのか……」
産まれた日から今まで、共に育っただけに罪悪感もあった。
母を奪った仇という気持ちと、共に育った友達という気持ち。
混濁する気持ちの最中……ねこのこに言われた。
「次は……ちゃんと、殺してね……えへへ」
無理に作る笑顔と言葉が、ねこのこが全てを知っていた事を物語っていた。
俺は唖然としたさ。
なんせ……俺は少し前にこの事を知って……毎日をにへらにへらと過ごすこいつに腹を立て、殺そうと至ったんだから……
こいつは……ねこのこは、知ってたってのか?
この際、俺の母さんのことはいい……
こいつは、ねこのこは……実の親に殺されそうになった事を、親の仇と共に生きてることを知ってて……それでも毎日笑ってたってのか!?
もうな、心の底から負けた。俺がそう思ったのは産まれて初めてで、その先にもなかったよ。
その時は……「だまれ!!!」そう言って、お前を拒絶してしまった俺を許して欲しい。
なんせ俺は……あの時は子供で、お前みたいに強くはなれなかったから──
父さんに聞いた。
お前は常に勇者である父さんがようやく倒した魔王、それとは比べ物にならない化け物達と、精神の中で毎日戦ってたんだってな。
ごめんな、何も分かってやれてなくて……
でも、だからこそ……俺は強くなった──
強くなってようやく「たどり着いたぞ……ちびねこ!!」
世界の行く末を決める一本の塔の上、勇者はたどり着いた。
「……すす……む?」
「ああ、俺はススム……お前との約束を果たすため、こうしてやってきた……お前だけの勇者だ!!」
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