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ススム編、第二章。《Lv255の赤ちゃんギルド》

50《クソはクソ》

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ここは魔物達が住む人間の法律が適用されない魔獣の森。

暗闇の中には人を襲い喰らう魔物はもちろんの事、魔物を討伐する事で素材を採取したり、捕獲して売る冒険者達がいる。

冒険者のルール《他の冒険者を意味もなく傷付けてはならない》

守れたら守れぐらいに、軽く教えられる冒険者達のルール。
何故これを厳守させないのか? まぁそれには理由がある。

村の中や街、王都、人の住まう場所では人が人から人を守る為に組み立てられたルールや法律がこの異世界にも勿論ある。

けれど外の世界にそれらが殆どない。何故?

理由は簡単だ……外の世界を監視する方法が無いから、つまり……真面目が馬鹿を見る世界。それが冒険者達の日常の世界って訳だな。

もし仮に魔物の住まう場所で他の冒険者に攻撃されたと言ったら? 証拠も何も無い。故に捌くことなんて出来ないんだ。

まぁ更に第三者が見てたならまた話しは変わる訳だが、こう言った冒険者すら中々寄り付かない場所だと、無法が多発する。

なので冒険者のルールには更に先がある。
《自分の身は自分で守れ》馬鹿みたいなルールだと思われるが、これが一番現実的なルールだと俺は思う。

つまり……自分に害を成す者は自分で何とかしろってことだな。

俺は今、森の中に潜んでいる。
ただ黙って……様子を見ている。

「にしても……死ぬかと思ったぜ」

「だな、あまちゃんな獣魔人で助かったってとこだな」

「ああ」

森の木々はとても便利だ。こうして木の上にいるだけで気付かれないんだからな。
先程回復薬をぶん投げ回復させといたのだが、さっそくキャンプに戻り会話を始めた2人。

……さて、どうなることやら

「そういやお前、覚えているか?」

「ん? なんの事だ?」

「俺達を襲った獣魔人に決まってんだろ! あいつらのギルド……確か見たと思うんだが」

「あー、あれか、たしか……イノセ……」

「イノセントロアーだ!! 思い出したぞ!!」

「……やっぱ行くよな」

「ああ、あんなカモ、逃すのは惜しいからな……今回は変な赤子に角笛を取られたが、ギルド名さえ分かればある程度先回りも裏から探れば出来る」

「……俺はあんな目に合わされたんだ、あの女の方……それなりにいい女だったしな、処女じゃねぇだろうし……あのウルフの前でヤリまくってやる、それから売ってもいいだろ?」

「はは、俺も参加させろよな」

ふむ、予想通りというか……予想を上回ったというか……

クソはどんな目にあってもクソなんだな。

《ウィンドウェア》風を纏い男たちの前に降りる。

「……ん………………なっ!? おまえは!!」

「!! さっきのクソガキじゃねぇか!!!」

……あっそうだったな。

「そうだな、確かに俺もクソだわ」
なんせ、ラルフやハピナと違って……あの場で怒りを納めて帰る。なんて出来なかったんだからな。

「ん? ……獣魔人の2人が居ない?」

「ああ、あの二人なら先に帰ったからな」

「ほぅ、それはいいこと聞いたな……」
ふむ、やっぱ赤子の姿ってのは舐められるものなのか? ウィンドウェアでそれなりに俺の実力ってのは分かっていいものなんだけどな?

片方は剣、片方は弓を取り出したな。

「ちょうど鬱憤を晴らしたいと思ってたんだ」

「俺もだ、こんなガキでも嬲り殺しにしたら少しは紛れるだろ、一撃で心臓射抜くんじゃねぇぞ」

人間のクソな部分が見事に固まったような奴等だよな。
……でもまぁ……

「なっ!?」矢を放とうが……

「うわっ!?」剣で斬りかかってこようが……

「その程度で俺に攻撃出来ると思ったのか?」こんな卑怯なゴミ共の攻撃、避けるまでもなく全部弾き返せるな。

「なんでだよ!! どうなってんだよこれ!!」
矢を何発も打ってくるが、全てウィンドウェアの風に弾かれ右往左往へ吹き飛んでゆく。

「これか? これは風魔法だな……で、今から風魔法でお前たちを攻撃してやる……逃げるなら逃げてみろ」

「はっははは……ありえねぇ、こんな化け物……だが、風魔法は俺達には──」

《ウィンドガン》を更に風を圧縮させ放つ。

「ぐあぁぁぁぁあーーーーー!!!!!」
んー俺もまだまだだなぁ~貫通させるだけのつもりだったんだけど……足を1本切り落としてしまった。

「ひぃぃぃいい!!!」
逃げる様子もなくこちらを向いたまま腰を抜かしたようだな。

「はぁ……逃げろって言ったのにな、でもまぁ安心していいぞ? 俺はあの二人に免じてお前たちを殺すつもりは無いからな」
だけど、この怒りはせめてこいつらで形を付けさせてもらう。

「じゃっじゃあ!!」

「いだい!! だずげでぐれぇー!!!」
まぁ出血多量で死ぬかもしれないが、こいつらにはなまっちょろい殴るや蹴るだけの恐怖では心を入れ替えないだろう。

《ウィンドハンド》

「ひぃーーーーーー!!!」

「やっやめ……いだい、いだいからぁ!!」

まぁ命を奪わない代わりと言ってはなんだが、この2人が張っている、キャンプ場の物全てと、着ている装備から、腰に提げてる道具まで、全てを回収し収納させてもらった。

「どうじで……どうじて、ごんなこど」

「それがないと俺達は!!」

うん、知ってる。なんせ……こいつらも持ってたようなので……1番初めに逃げないように転移の指輪は奪わせてもらってたからな。

更に装備や道具、キャンプ場を奪うことで聖水も回収させてもらった。

「ここは魔獣の森の入口から数十キロぐらいしか離れてないだろ、まぁ頑張ればいいんじゃねぇか? ラルフを運ぶ為なら……転移の指輪無しで出ようとしてたんだろ?」

「むっむりだ、ここは……せめて装備だけでも!!」

「ん? ラルフの足を折って、更に喉を潰してたんだっけか?」

「ひぃーー!!!」

さて、あとはまぁこいつらは頑張れば生き残れんだろ。

可能性としては……

「ぐるるるるる………」「がるるるるる………」
天文学的な確率かもしれないが、こいつらは俺の団員でも無ければ、依頼主でも無いからな。助ける義理はなし。

ライフリングを起動させる。

「じゃっ次があればまともな冒険者するんだな」

がぁあーーーーー!!! っと飛びかかるウルフを最後に、俺は領地へと転移した。


いつもの平野に目の前にあるのは噴水。

「ん?」……ふむ。

「団長……」バレないようにしたつもりだったんだがな、待たれてしまってた見たいだな。

「待ってたのか?」「はい……」

「ハピナは帰ったのか?」「はい、子供を預けていますので、待たせては悪いと帰らせました」

……で、こいつだけは残ったって訳だな。

「……団長、先程の冒険者達は……」
そりゃまぁ、こんな時間まで待ってたってことは勘づいてるよな。

「殺しはしてない」「…………………はい」

「だがまぁ、死ぬかもしれないな」「……………はい」

「俺は最低か?」「……いえ……むしろ、俺達がやるべき事でした……」
やっぱ真面目だなコイツ。心では最低だと思ってる癖に……

ふむ。

「俺は団長だ、お前達を家族だと思っている」

「……まだ、俺達は」

「入って間もないな、けど……団長にとって、早い短いそんなもの関係ない、そして家族に害を成す可能性が残るなら、俺はそいつらを許さない……それだけだ」
でも、自分で言ってて不思議なんだよな。
常識的に考えてさ……こいつらは昨日知り合ったばかりの奴等、だって言うのに……今日、こいつらがあんな目に会った時、心の底からの怒りが……まるで──

「団長、俺は弱いです」

「そうだな、衰弱の魔道具、あれは音によって身体の中の魔力を掻き乱すだけのもの、魔力操作を日頃から鍛錬してたら今回負けることなんて有り得なかったからな」

「……はい、今回は自分の弱さを痛感しました……だから俺はここに、団長に誓います。もう……自分のこの、産まれ持った肉体の強さに溺れること無く、強くなります!!」

「ふむ」……真面目なやつだからな、こいつが誓うってことはそういうことなんだろうな。

「なら、明日にはシルマって言う剣聖のおっさんが帰ってくるからな、相談してみろ」

「……はい!!!」

まぁ俺は人を育てる事には向いてないからな。
この辺はシルマに全部押し付けるとする。うん。

いや……別に、こんなシリアスなシーンだってのに……めんどくせ! なんて思ってないからな!!
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