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ススム編、第二章。《Lv255の赤ちゃんギルド》

48《追跡》

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流石に夜にここへ来ることになるとは夢にも思わなかったな。

ギャァギャァと気味の悪い鳥の声がする。
本来ならば美しいだろう木々も、この暗闇の中で見ると不思議と不気味に見えてくるな。
月明かり程度の光は入る事すら許されない葉の天井。

「……魔獣の森か」

「……ラルフ!! ラルフがいない!!!」

ハピナの様子から見るに、ここでラルフとは別れたってことだろうな。
とりあえずあたりの様子がハピナの様な、獣魔人とは違う俺には全く見えないのでアイテムを取りだし、さらにそれに向けて魔法を唱える。

「天より産まれし神の子にして、世界を照らす光の精霊達よ──
疑心渦巻く漆黒の底、暗雲祓う光で照らせ《ライト》」

本当なら、暗闇の中でも昼間のように見ることの出来る身体強化魔法《夜目》が良かったんだけどな、習得はしてるものの詠唱を知らないからどうしようも無い。

でもまぁとりあえず、取り出したアイテム、人造精霊にライトを付与したから俺の周辺は常に明るいし問題ないだろうな。

名前《人造精霊》種類《アバター》

ユグシルト・オンラインにおいて、一番最初に手に入るアバターアイテムで、人間が作った丸い球体型の小さな精霊。


まぁ何もしないただのアバターアイテムだが……ものは使い用だな。
ライトは物体に付与すると魔力が尽きるまで光り続ける。アバターは追尾してくるから、持たなくていい自動追尾方ライトって思えばいいかな。

「にしても……これは」

周りが見えるようになったので確認してみたが……

そこかしこに残る傷跡が凄惨な戦いを見せ付けてくる。
木々に突き刺さる矢、大きな剣で切り裂かれた後もそこかしこにある。
いや、注目すべきはそこではないな。

地面にあるのは大きな血痕、それを泣きながら見てるハピナ……ラルフの物だろうが……この血の量、生きてる可能性は限りなく低いだろうな。

流石に死なれてしまってたらどうしようも無いぞ……くそ。

でも死体はこの場にないって事は、自分で移動した可能性も高いって事だろう。
もしかしたら何者かは分からないが、敵対した何かに攫われた可能性もあるが……

「……ハピナ!!」

「!?」まぁかといって、膝を着いて泣いてたら、僅かに生きてるかもしれないって可能性がどんどん小さくなるからな。

突然の声に驚き立ち上がったハピナに言う。

「本当に大切な相手なら、お前がしっかりしなくてどうすんだ! ラルフだけが帰ってこなかったってことは、お前は逃がしてもらったんだろ……わざわざ冒険者ギルドにお前が駆け込んできたってことは、ラルフが生きてるって思って助けを求めに来たんだろ! 泣き崩れてる暇なんてないぞ!!」

「……そ……そうだった……そうです!! ラルフは……強い男、そんな簡単に死なない!!」

ふむ、なんとか立ち直ってくれてよかったが……
……もしもラルフが手遅れだった場合……俺はなんて声をかけたら良いんだろう。

♢

キシャーーーーーー!!!!!

木々を飛び跳ね移動するハピナに抱かれ、《ウィンドガン》頭の中で唱え、ライトの届かない場所より飛び出してくる魔物を吹き飛ばす。

これで何匹目だ……って言いたくなるが

「ラルフ……生きてて」

決死のハピナの前でそれは言えないな。

「団長、右側から来ます」

「ん」《ウィンドガン》……俺の魔力、そこを尽きなきゃいいけど……

獣魔人であるハピナの野性的な察知能力のお陰で襲われる前に倒せてるものの、この薄暗い森はやはり精神的に参るな。
それに地面に流れる血痕を追っているのだが、これがどこまで続いてるのかなんてわからないし……いや、団長の俺が心折れてどうすんだって話しだな。

「ハピナ、このままだと埒が明かない、一気に進むぞ!」

「はい!!」

ここまで進んだことでハピナの動体視力の良さを理解したからな、俺がこんなことしたら確実に血痕を見失うが、こいつなら大丈夫だろうと考えた。

「《ウィンドウェア》」

極力魔力を控える為ハピナに抱っこしてもらってたんだが、ジリ貧になってからじゃ遅いからな。
俺ではなく、ハピナの肉体にウィンドウェアを纏わせた。

「!? こっこれ」

「俺の魔法、ウィンドウェアだ……木を避ける程度は俺が操作するから、お前は血痕に向かって進むように意識してみろ、こっちのが断然早いからな」

「…………はっはい!!!」

ふむ、流石ハーピーになって空を飛べるだけはあるな。

木々にぶつかる可能性を取り除けば、当たり前のように宙を最速で滑空しているな。

地面に残る血痕を追い、ウィンドウェアで一気に森を駆け抜けた。

♢

まずいな。

かなりの距離を進んだのは良いが

「血痕が消えてるな……」

「どうしよう……ラルフ……ラル!! んん!?」
また叫び出しそうになるハピナの口に手を当てとめた。

「しっ!」理由は面倒くさくなるから……なんかじゃない、正直このままラルフへの道標がないなら、ハピナの感情をわざわざ止める必要もないからな。
むしろ泣いてしまった方が楽ってのもあるぐらいだ、泣いてもどうにもならないだろと言う奴もいるだろうが、泣かないとやってられない時だってある。
俺はそれを止めるつもりは無い……ただ、今はまだ違うと判断した迄だ。

ここまでの道、俺はひとつおかしいと思ったんだ。

魔獣の森、ここにはワーウルフと言う、人型のウルフや普通のウルフなどが、かなりの数出てくるのだが……
そいつらは全員夜目を持っているので、こんな夜深くなればいくら倒そうとも幾らでも湧いてくるかなり厄介な魔物。

だというのに、こっちへ近付けば近付く程に魔物の数は激減していた、ウィンドウェアで飛んでる時なんて数匹しか見かけなかった。

そしてさっきハピナに向かってる方向を訪ねたのだが、これは森の出口へと進んでるとか……

だから俺はおかしいなと思い、咄嗟に魔法を使ったんだがな。

「ハピナ、居たぞ」ドンピシャだったわ

「!! どっ! んん!?」
まぁ気持ちは分かる……が、流石に口を再度抑える。

「大きい声出すな、耳を済ませてみろ……声が聞こえるだろ」

「……え……」

俺の使用した魔法は、自身の聴覚を数倍にする肉体強化系の魔法。それをハピナにも付与したから落ち着けば聞き逃すことは無いはずだ。

とても静かだと思われる暗闇の中、ざっざっざっ、さわ……さわ……さわ……、うぉーーーーん!! がるるるる……
この魔法を使わなかった理由でもあるが、耳が聞こえすぎるから森の中に風が軽く吹くだけで騒音の嵐。

けどそれを我慢したら様々な情報を得られる。

ウルフの遠吠えや、ウルフ同士の争いだろうぶつかり合う音、木の枝が折れる音……
ずっと聞いていると、ウルフの足音、ワーウルフの足音が、よく分かる。
そして森の音とウルフの音、その中に不協和音があるのがわかる

「ハハ、まさかこんなレア物が取れるとはな」

「だがこいつ、冒険者証を持ってたってことは、住民登録されてる獣魔人じゃないのか?」

「大丈夫だ、喉を潰しといたからな、これなら喋れないし野生の獣魔人と同じ様なもんだろ、冒険者証もイノセント・ロアー? って聞いたことも無いとこだ、問題なく売れるってもんだ」

「はっはっは! 確かにそうだな……にしても付いてるぜ、1匹逃しちまったのは惜しいが、こいつは銀狼ウルフ種っぽいからな、売れば20年は遊んで暮らせるってもんだろ」

「何言ってんだ、10年だろうが……お前と俺、2人で山分けだからな!! そこんとこ忘れるなよ!」

ふむ、とっても楽しそうなところ申し訳ないのだが……

「ラルフを……返せ!!!!!!!!!」

うちの団員がどうやら耐えられなかったようなので、お邪魔させてもらうことにしようかな。

「なっ!? って……お前はさっきのハーピー族の獣魔人種か……はは、まさか戻ってくるなんてなぁ」

「だな、ん? そういやハーピーって確か……茶色が通常種だったよな?」

「あっ、ほんとだ……暗くて気付かなかった、こいつ緑色って事は……レア物じゃねぇかよ!!」

へぇ~それは俺も初耳。
でも……確かにゲームで見たハーピーって茶色だったけど、ハピナって新しい種族なのか?

「さっき変な猫に足止めされたが、あれは招き猫だったのかもなほんと付いてるぜ、これで20年分だな」

「ああ!」

ふむ……やる気満々なとこ悪いんだが……俺だけ置いてけぼりって酷くね? まぁいいけどさ。



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