60 / 82
ススム編、第二章。《Lv255の赤ちゃんギルド》
48《追跡》
しおりを挟む流石に夜にここへ来ることになるとは夢にも思わなかったな。
ギャァギャァと気味の悪い鳥の声がする。
本来ならば美しいだろう木々も、この暗闇の中で見ると不思議と不気味に見えてくるな。
月明かり程度の光は入る事すら許されない葉の天井。
「……魔獣の森か」
「……ラルフ!! ラルフがいない!!!」
ハピナの様子から見るに、ここでラルフとは別れたってことだろうな。
とりあえずあたりの様子がハピナの様な、獣魔人とは違う俺には全く見えないのでアイテムを取りだし、さらにそれに向けて魔法を唱える。
「天より産まれし神の子にして、世界を照らす光の精霊達よ──
疑心渦巻く漆黒の底、暗雲祓う光で照らせ《ライト》」
本当なら、暗闇の中でも昼間のように見ることの出来る身体強化魔法《夜目》が良かったんだけどな、習得はしてるものの詠唱を知らないからどうしようも無い。
でもまぁとりあえず、取り出したアイテム、人造精霊にライトを付与したから俺の周辺は常に明るいし問題ないだろうな。
名前《人造精霊》種類《アバター》
ユグシルト・オンラインにおいて、一番最初に手に入るアバターアイテムで、人間が作った丸い球体型の小さな精霊。
まぁ何もしないただのアバターアイテムだが……ものは使い用だな。
ライトは物体に付与すると魔力が尽きるまで光り続ける。アバターは追尾してくるから、持たなくていい自動追尾方ライトって思えばいいかな。
「にしても……これは」
周りが見えるようになったので確認してみたが……
そこかしこに残る傷跡が凄惨な戦いを見せ付けてくる。
木々に突き刺さる矢、大きな剣で切り裂かれた後もそこかしこにある。
いや、注目すべきはそこではないな。
地面にあるのは大きな血痕、それを泣きながら見てるハピナ……ラルフの物だろうが……この血の量、生きてる可能性は限りなく低いだろうな。
流石に死なれてしまってたらどうしようも無いぞ……くそ。
でも死体はこの場にないって事は、自分で移動した可能性も高いって事だろう。
もしかしたら何者かは分からないが、敵対した何かに攫われた可能性もあるが……
「……ハピナ!!」
「!?」まぁかといって、膝を着いて泣いてたら、僅かに生きてるかもしれないって可能性がどんどん小さくなるからな。
突然の声に驚き立ち上がったハピナに言う。
「本当に大切な相手なら、お前がしっかりしなくてどうすんだ! ラルフだけが帰ってこなかったってことは、お前は逃がしてもらったんだろ……わざわざ冒険者ギルドにお前が駆け込んできたってことは、ラルフが生きてるって思って助けを求めに来たんだろ! 泣き崩れてる暇なんてないぞ!!」
「……そ……そうだった……そうです!! ラルフは……強い男、そんな簡単に死なない!!」
ふむ、なんとか立ち直ってくれてよかったが……
……もしもラルフが手遅れだった場合……俺はなんて声をかけたら良いんだろう。
♢
キシャーーーーーー!!!!!
木々を飛び跳ね移動するハピナに抱かれ、《ウィンドガン》頭の中で唱え、ライトの届かない場所より飛び出してくる魔物を吹き飛ばす。
これで何匹目だ……って言いたくなるが
「ラルフ……生きてて」
決死のハピナの前でそれは言えないな。
「団長、右側から来ます」
「ん」《ウィンドガン》……俺の魔力、そこを尽きなきゃいいけど……
獣魔人であるハピナの野性的な察知能力のお陰で襲われる前に倒せてるものの、この薄暗い森はやはり精神的に参るな。
それに地面に流れる血痕を追っているのだが、これがどこまで続いてるのかなんてわからないし……いや、団長の俺が心折れてどうすんだって話しだな。
「ハピナ、このままだと埒が明かない、一気に進むぞ!」
「はい!!」
ここまで進んだことでハピナの動体視力の良さを理解したからな、俺がこんなことしたら確実に血痕を見失うが、こいつなら大丈夫だろうと考えた。
「《ウィンドウェア》」
極力魔力を控える為ハピナに抱っこしてもらってたんだが、ジリ貧になってからじゃ遅いからな。
俺ではなく、ハピナの肉体にウィンドウェアを纏わせた。
「!? こっこれ」
「俺の魔法、ウィンドウェアだ……木を避ける程度は俺が操作するから、お前は血痕に向かって進むように意識してみろ、こっちのが断然早いからな」
「…………はっはい!!!」
ふむ、流石ハーピーになって空を飛べるだけはあるな。
木々にぶつかる可能性を取り除けば、当たり前のように宙を最速で滑空しているな。
地面に残る血痕を追い、ウィンドウェアで一気に森を駆け抜けた。
♢
まずいな。
かなりの距離を進んだのは良いが
「血痕が消えてるな……」
「どうしよう……ラルフ……ラル!! んん!?」
また叫び出しそうになるハピナの口に手を当てとめた。
「しっ!」理由は面倒くさくなるから……なんかじゃない、正直このままラルフへの道標がないなら、ハピナの感情をわざわざ止める必要もないからな。
むしろ泣いてしまった方が楽ってのもあるぐらいだ、泣いてもどうにもならないだろと言う奴もいるだろうが、泣かないとやってられない時だってある。
俺はそれを止めるつもりは無い……ただ、今はまだ違うと判断した迄だ。
ここまでの道、俺はひとつおかしいと思ったんだ。
魔獣の森、ここにはワーウルフと言う、人型のウルフや普通のウルフなどが、かなりの数出てくるのだが……
そいつらは全員夜目を持っているので、こんな夜深くなればいくら倒そうとも幾らでも湧いてくるかなり厄介な魔物。
だというのに、こっちへ近付けば近付く程に魔物の数は激減していた、ウィンドウェアで飛んでる時なんて数匹しか見かけなかった。
そしてさっきハピナに向かってる方向を訪ねたのだが、これは森の出口へと進んでるとか……
だから俺はおかしいなと思い、咄嗟に魔法を使ったんだがな。
「ハピナ、居たぞ」ドンピシャだったわ
「!! どっ! んん!?」
まぁ気持ちは分かる……が、流石に口を再度抑える。
「大きい声出すな、耳を済ませてみろ……声が聞こえるだろ」
「……え……」
俺の使用した魔法は、自身の聴覚を数倍にする肉体強化系の魔法。それをハピナにも付与したから落ち着けば聞き逃すことは無いはずだ。
とても静かだと思われる暗闇の中、ざっざっざっ、さわ……さわ……さわ……、うぉーーーーん!! がるるるる……
この魔法を使わなかった理由でもあるが、耳が聞こえすぎるから森の中に風が軽く吹くだけで騒音の嵐。
けどそれを我慢したら様々な情報を得られる。
ウルフの遠吠えや、ウルフ同士の争いだろうぶつかり合う音、木の枝が折れる音……
ずっと聞いていると、ウルフの足音、ワーウルフの足音が、よく分かる。
そして森の音とウルフの音、その中に不協和音があるのがわかる
「ハハ、まさかこんなレア物が取れるとはな」
「だがこいつ、冒険者証を持ってたってことは、住民登録されてる獣魔人じゃないのか?」
「大丈夫だ、喉を潰しといたからな、これなら喋れないし野生の獣魔人と同じ様なもんだろ、冒険者証もイノセント・ロアー? って聞いたことも無いとこだ、問題なく売れるってもんだ」
「はっはっは! 確かにそうだな……にしても付いてるぜ、1匹逃しちまったのは惜しいが、こいつは銀狼ウルフ種っぽいからな、売れば20年は遊んで暮らせるってもんだろ」
「何言ってんだ、10年だろうが……お前と俺、2人で山分けだからな!! そこんとこ忘れるなよ!」
ふむ、とっても楽しそうなところ申し訳ないのだが……
「ラルフを……返せ!!!!!!!!!」
うちの団員がどうやら耐えられなかったようなので、お邪魔させてもらうことにしようかな。
「なっ!? って……お前はさっきのハーピー族の獣魔人種か……はは、まさか戻ってくるなんてなぁ」
「だな、ん? そういやハーピーって確か……茶色が通常種だったよな?」
「あっ、ほんとだ……暗くて気付かなかった、こいつ緑色って事は……レア物じゃねぇかよ!!」
へぇ~それは俺も初耳。
でも……確かにゲームで見たハーピーって茶色だったけど、ハピナって新しい種族なのか?
「さっき変な猫に足止めされたが、あれは招き猫だったのかもなほんと付いてるぜ、これで20年分だな」
「ああ!」
ふむ……やる気満々なとこ悪いんだが……俺だけ置いてけぼりって酷くね? まぁいいけどさ。
0
お気に入りに追加
1,158
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる