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ススム編、第一章。《Lv255の赤ちゃん爆誕》

36《VSサウザントライス》

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トクトクトクトクトクトクッ

俺は改めて思う。赤ちゃんの心臓音って速いのな。

そんな心音が気になる程に緊張してる自分、本当に早く終われと切に願いつつ、けれどその時は来て欲しくないと矛盾した思考の最中、その時は容赦なく訪れる。

「では、両ギルド……入場です!!!!!!」

わぁーーーーーーーーー!!!!!
大盛り上がりを見せる会場、ビビる俺の先を越して入場する向こうの選手が見える。

ゾロゾロゾロと……数は目視出来るだけでおよそ20。
「……なんで下位ギルドにそんなに人数集まってんだよ!」
もう心の声を抑えきれず零してしまう。

「あれ? イノセントロアーの方~もう入場は始まってますよー?」
そんなこと言われなくてもわかってらい!!

ちなみに俺の横にいる係の人、赤子の俺に行けと言うのが無理なんだろう、どうしようどうしようと焦りつつも何も言ってこない。

「はぁ……仕方ない、さっさと負けて終わるかな」

流石に数が違いすぎるからな、これはもう強さ云々じゃない。やる前に勝負は決してるってもんだ。

盛り上がりを見せる会場だったのだが、とことことこと歩き現れた俺のせいで、どよどよとしたざわめきへと変化する。

「え? 赤ちゃん……よね?」

「……これは演出か?」

「変身魔法……にしては、赤ちゃんの姿でなんて……卑怯だわ」

まぁこうなるのは分かってた、分かってたが……逃げたらランクダウンの領地没収、母さんとねこのこに合わせる顔がないからな……

「こっこれはどういうことでしょう!? イノセントロアーギルド、現れたのはどう見ても赤子1人!! 変身魔法なのか? はたまた身体を消す魔法で隠れているのか!? 先程の開会式でも確かに団長として現れていた赤ちゃん!! なぞだぁーー!!」

最終わからんならいちいち解説すな、というか……真面目に恥ずかしいからさっさとして欲しい。

とりあえず中央でたってる俺、正面にいるのは茶髪の金ピカの装備来た坊ちゃんみたいなやつ。
「ん?」と俺を見て何か言いたげだな。

「どうかしました?」
目線がムカつくので聞いてみた

「いやな、イノセントロアーには元剣聖が入ったと情報を聞いてたから驚いたんだ……まぁでも、考えてみたら俺たちサウザントライスにビビって逃げてもおかしくはないな、なんせ俺たちは下位ギルドの中でもかなり上位に与するギルド、元剣聖とはいえ所詮年寄り、恥をかくだけだもんな! あーはっはっはっ!」

なんか腰に手を当てて高笑いをしてる。

………あっこいつムカつくわ。

「では、両者挨拶も済んだところで……これより、トーナメント式総力戦、下位ギルドランクアップクエストを開始します!!
第1試合、サウザントライスVSイノセントロアー、両者正々堂々戦うように……初め!!!!」

と、言われてもな。

「ほらガキンチョ、さっさとギブしろ、どーせ代打か何かでギブだけしに来たつまらねぇギルドなんだろ? お前みたいなのぶっ飛ばしたらこっちの評価が落ちちまう、ほら、待ってやるからさっさと泣きわめいてギブアップでもなんでもしたらいい、なんならこの俺様に一撃だけ攻撃をさせてやろうか? そしたら力の差がありすぎましたァ~って言い訳も立つぞ」

……………ふむ。

「なら、お言葉に甘えて一撃だけいいかな?」

「ん? ようやくギブする気になったか、ほらここ、しっかり狙えよ~」
と、なんか腹のとこを指さしてる。

腹か……どうしたもんか……まぁ死なないだろ。

にしても、俺……どうしてこんなにイライラしてんだろ?
まさかシルマを馬鹿にされたからか? でも俺って別にシルマの事をそんなに好きでもないんだよなぁ。
なんせ毎日毎日、飽きもせず毎朝やる気のない俺に頑張りましょうって声掛けてきて、半強制的に特訓をやらされる。
しかも俺ってば……シルマにまだ一打も攻撃を入れられたことがない、どちらかと言えば……少しムカつくぐらいだな。

「どうした? びびって小便でもちびっちまったか?」

笑い声が聞こえる。こいつだけじゃない、こいつの周りにいる奴らも大声で笑っている。
いやまぁ、正直……俺は赤ちゃんだし、舐められて当然だから笑われてもそんなにムカつかないんだよな。

「はぁ……わかったわ」

「ん? なんだ? 何しても俺たちに勝てないことがわかったのか?」

こいつの言ってることは的外れだな。
俺がわかったのはまぁ、どうしてこんなに苛つくのか、だ。

俺は俺自身をどれだけ言われようが、むしろ油断してくれてるラッキー! ぐらいにしか考えないんだけど、どうも俺……昔っから────

「俺の事はいい、けどな……ギルメン共のこと言われて、イラつかない団長は居ないってことがわかったんだよ!!!」

「何言ってんだこのガキ、初戦代打の分際で団長発言かよ!」

どうやらこいつらは俺の敵ではないなって事もよく分かったわ。

俺はシルマとの特訓において、自分がどれだけ頑張っても……シルマに対してまともな方法じゃ永遠に一撃も入れられないってことが分かった。

だから……俺はシルマに教わりつつも、シルマを追い詰める別の方法を考え続けたんだ。

そして、一昨日、1番最後にシルマと手合わせした日、一撃は入れられなかったものの……かなりいい線までいった、自分の持つ能力を最大限生かし、かつ剣を使った戦闘法。

「なっなんだ!!??」

今更になって気付いたようだな、やはり雑魚どもと言った所かな?

俺がしたのは異空間収納から剣を取り出し、それをウィンドハンドで操ってるだけの簡単な事だ。

異空間収納ならば剣は幾らだって持ち歩ける、ウィンドハンドなら数十本の剣ぐらいなら簡単に操れる。

新たな剣技、シルマはそう言ったあと名付けてくれた。

「《魔手剣術法、阿修羅》」

「なっなんだよ、こんなもん……聞いたことねぇぞ!!!!」

もう既に散布は済んでいる、他の奴らは声も出せないぐらいにびびっているな。
まぁ当然だろう、こいつら全員の後頭部に剣の切っ先を立てさせてもらっているからな。

「さて、どうする? お前は腹に一撃受けるだけで済むが、他の奴らは確実に死ぬ、ギブアップするかしないか、決めさせてやる」

形勢逆転といったとこか、多勢に無勢……まぁこの様子だと普通にやってもぶっ飛ばせてたが、調子に乗ってた罰だな……沢山の観衆の面前で恥をかかせてやる。

「……………いやだ」

「ん?」

「いやだいやだいやだ!!! 俺のギルドは最強なんだ!! 絶対ギブアップなんてするもんか、ギルメンなんてまた集めりゃいいだけだ……それにお前、これだけの魔法を使ってんだし、こいつらを殺ってる間なら、俺はお前を倒せるってことだろ?」

あっこいつ、そういうタイプのやつだったの?
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