【完結】ミックス・ブラッド ~とある混血児の英雄譚~

久悟

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終章

告白

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 朝だ。
 二日酔いはない、爽やかな一日の始まりだ。

 隣にはエマが寝息を立てている。寝不足だと言っていた、起こさない方がいいだろう。

 コーヒーを淹れテーブルで飲んでいると、エマが目を覚ました。

「おはよう、朝ごはんはどうする?」
「おはよう。お昼もすぐだし、紅茶くらいでいいかな」
「じゃ、淹れるよ」
「ありがとう。じゃあ、私は着替えてメイクするかな」


 穏やかな時間を過ごし、昼食を食べに出かける。陽気もいいしオープンテラスで昼食だ。
 食後の紅茶を楽しもう。

「なぁ、敵軍にヴァロンティーヌさん達がいたんだよ。多分魔王達が滞在中に交流があったんだろうな」
「え……? 女豹レパーデスを抜けて行く所って魔都だったって事?」
「そうだな。ロン達と交戦して引いたらしい。恐らく命は落としてないと見てるんだけどな。まぁ、こっちに戻ることはないんじゃないかな」
「そっか……最後に貰った洋服大事にしてるんだ。勿体なくて着られないよ」

 
 人族の夫婦はお揃いのアクセサリーを付ける風習がある。指輪、ペンダント、ブレスレット、何でもいい。ユーゴ達はずっと揃いのペンダントをしてきたので意見は揃った。
 ユーゴにはよく分からない、エマに選んでもらおう。無数に並んでいるペンダントを真剣な顔で選んでいる。

「これなんかどうかな?」

 シンプルなリングがついたペンダントだ。

「うん、シンプルでオレは好きだな」
「サークルデザインのペンダントには『永遠の愛』って意味があるんだって。私はこれがいいな」
「じゃ、それにしよう」

 その場で揃いのペンダントをつけ、ベルフォールのものはユーゴの異空間にしまう。エマの両親の形見だ。


 夜まで時間を潰し、Perchに向かい準備をする。良いと言われたが、ユーゴも手伝う。
 食事をレストランに頼んでいる様だ。プロがキレイに配膳している。

 Perchは貸切でパーティーの予約を受ける事もよくあるらしい。こういう場には即座に対応できる柔軟さがある。

 指導の行き届いた黒服達は手慣れたもんだ。
 並べ終えて少しすると、主役達が来た。

「いらっしゃい!」
「ユーゴ、黒服に混じってお手伝いか?」
「あぁ、邪魔してただけかもしれない……」

 いつもは煌びやかなドレスの皆だが、今日はカジュアルな服装だ。くだけた感じで盛り上がりやすい。
 この三年の間に入った女性や黒服はロンの事を知らない。この会に参加するかどうかは自由だ。

 各自飲み物が行き渡り、主役のロンが立ち上がり挨拶をする。

「みんなが壮行会で送り出してくれてから三年が経ちました。俺はようやく夢だった騎士団に入団し、やっとスタートラインに立つ事が出来ました。しかもまたこんなに盛大に祝ってもらって……俺は……幸せ者です……」

 ロンは涙を浮かべ言葉を詰まらせた。 
 次にユリアンが促され立ち上がった。

「えっと……ロンとは騎士団同期のユリアンと言います。昨日出会った僕なんかにもこんな素敵な席に参加させていただきありがとうございます。ロンは親友でありライバルです。ロンは大戦で活躍し、一年目で勲章を授与しました。親友として鼻が高い。でも、悔さもあります。僕はロンと二人で大出世してみせます」

 二人に大きな拍手を送り、オーナーであるエマの乾杯で大宴会が始まった。

 ロンは三年前には飲まなかった酒を皆で楽しんでいる。ユリアンはジェニーの前では相変わらずガチガチだが、昨日よりはスムーズに話せているようだ。

「ロン君、勲章貰ったんだね。ホントに出世しそうだ、楽しみだよ」
「いずれここの領主にまで登りつめるかもよ?」
「うん、そうなってくれたらホント嬉しいんだけど!」


 会は終盤に差し掛かり、大盛り上がりだ。

 ――オレ達も報告しとかないとな。

「皆、オレ達から話があるんだけど、聞いてくれるかな?」

 ユーゴとエマが立ち上がると皆が注目した。

「オレ達、一緒になる事にしました。皆に協力してもらう事もあるかもしれない、よろしくお願いします」

 揃いのペンダントを皆に見せると、大きな拍手を受けた。エマが照れくさそうに笑顔で俯いている。

「おめでとー!」

 大きな拍手と祝福の声が止んだ時、ロンが立ち上がった。

「俺も伝えたい事があります!」

 ――えっ、まさかここで言うのか……?
 
 皆がロンに注目する。静けさの中、ロンの唾を飲み込む音が聞こえる。

「ニナさん! 俺は出会った時からずっとあなたが好きです。王都に行った三年間もこの気持ちが薄れることは無かった。むしろ想いは強くなった。俺と付き合ってください!」

 皆の視線はニナへと移った。
 ニナは突然の告白にうろたえながらも立ち上がる。

「えっ……ちょっと待って……えぇっと……ごめんなさい……」

 ロンは、ガーンと音が聞こえそうな程の表情を浮かべた後、大きく肩を落とした。
 ロンへの同情と共に、皆が静まり返っている。

「いやっ! 違う違う! そっちのごめんなさいじゃなくて……」

 再びニナに視線が集まった。

「私ね、昔に初めてお付き合いした人に、とっても酷い乱暴をされてたの……それはもう思い出したくもないくらい。娼館とあの人から逃げてこの店に拾ってもらった。精神的には良くなったけど、変わらず男性とのお付き合い事はトラウマがあって出来てないの……」

 ロンは顔を上げて真っ直ぐニナの目を見て聞いている。

「娼館からの引き戻しを追い返してくれたのはロン君だったよね? あの後それに混ざって何回かあの人が店に来たの……私にトラウマを植え付けた男がね。それを追い返し続けてくれたのもロン君だった。本当に嬉しかった。ロン君のお陰で前を向けるようになった。明るく話せるようになったんだ。でも……私はまだ男の人と普通にお付き合いできる自信が無い……ロン君が嫌だって事じゃないんだ。ロン君が勇気を出して告白してくれた事はとっても嬉しいんだ……」

 トラウマはすぐに払拭できるものではない。エミリーも20年近く苦しみ続けた。
 ロンはニナの目を見つめたまま口を開いた。

「俺の気持ちは、離れた三年間でも変わらなかった。これから変わることもない。ただ、ニナさんの気持ちに重くのしかかるのは嫌だ……」

「……ねえ、ロン君。私からお願いしてもいい?」
「うん、何でも聞くよ」

 ニナは少し俯いてから、ロンの目を見て話し始めた。

「私のトラウマは克服できるものかどうか分からない。でも克服するとしたら、今まで私を救い続けてくれたロン君とがいい。私のわがままに付き合ってくれる……?」
「当たり前です! 俺はニナさんをずっと見てきて気持ちが変わらなかったんだ。これからも大好きです!」

「じゃあ……お願いします」
「こちらこそ、ずっと守ります」

 お互い頭を下げる二人に、祝福の歓声と拍手が店内に響いた。

 ロンは女性に手を上げるような男ではない。いつかニナの心を溶かすだろう。ユーゴも祝福の拍手を送り続けた。

 娼館にいた過去など、ロンには関係ない。非道い男の事もロンが上書きしてくれるはずだ。

 ――なんか……オレ達の報告、皆忘れてないかな……?


 ニナはロンの横に移動し、涙を流している。ロンは更に顔を赤らめてニナとグラスを合わせた。親友のユリアンも本当に嬉しそうだ。

 あの時たまたま助けたロンがこんなに立派に成長した。ユーゴの目にも堪えきれず涙が溢れた。
 弟の様に可愛がってきたロンが、夢を叶えた上に幸せを掴んだ。

「良かったね、ロン君」
「あぁ……自慢の弟子だよ」

 ロンとユリアンの騎士団入団祝いは、惜しまれつつ終わりを迎えた。
 
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