241 / 243
終章
告白
しおりを挟む朝だ。
二日酔いはない、爽やかな一日の始まりだ。
隣にはエマが寝息を立てている。寝不足だと言っていた、起こさない方がいいだろう。
コーヒーを淹れテーブルで飲んでいると、エマが目を覚ました。
「おはよう、朝ごはんはどうする?」
「おはよう。お昼もすぐだし、紅茶くらいでいいかな」
「じゃ、淹れるよ」
「ありがとう。じゃあ、私は着替えてメイクするかな」
穏やかな時間を過ごし、昼食を食べに出かける。陽気もいいしオープンテラスで昼食だ。
食後の紅茶を楽しもう。
「なぁ、敵軍にヴァロンティーヌさん達がいたんだよ。多分魔王達が滞在中に交流があったんだろうな」
「え……? 女豹を抜けて行く所って魔都だったって事?」
「そうだな。ロン達と交戦して引いたらしい。恐らく命は落としてないと見てるんだけどな。まぁ、こっちに戻ることはないんじゃないかな」
「そっか……最後に貰った洋服大事にしてるんだ。勿体なくて着られないよ」
人族の夫婦はお揃いのアクセサリーを付ける風習がある。指輪、ペンダント、ブレスレット、何でもいい。ユーゴ達はずっと揃いのペンダントをしてきたので意見は揃った。
ユーゴにはよく分からない、エマに選んでもらおう。無数に並んでいるペンダントを真剣な顔で選んでいる。
「これなんかどうかな?」
シンプルなリングがついたペンダントだ。
「うん、シンプルでオレは好きだな」
「サークルデザインのペンダントには『永遠の愛』って意味があるんだって。私はこれがいいな」
「じゃ、それにしよう」
その場で揃いのペンダントをつけ、ベルフォールのものはユーゴの異空間にしまう。エマの両親の形見だ。
夜まで時間を潰し、Perchに向かい準備をする。良いと言われたが、ユーゴも手伝う。
食事をレストランに頼んでいる様だ。プロがキレイに配膳している。
Perchは貸切でパーティーの予約を受ける事もよくあるらしい。こういう場には即座に対応できる柔軟さがある。
指導の行き届いた黒服達は手慣れたもんだ。
並べ終えて少しすると、主役達が来た。
「いらっしゃい!」
「ユーゴ、黒服に混じってお手伝いか?」
「あぁ、邪魔してただけかもしれない……」
いつもは煌びやかなドレスの皆だが、今日はカジュアルな服装だ。くだけた感じで盛り上がりやすい。
この三年の間に入った女性や黒服はロンの事を知らない。この会に参加するかどうかは自由だ。
各自飲み物が行き渡り、主役のロンが立ち上がり挨拶をする。
「みんなが壮行会で送り出してくれてから三年が経ちました。俺はようやく夢だった騎士団に入団し、やっとスタートラインに立つ事が出来ました。しかもまたこんなに盛大に祝ってもらって……俺は……幸せ者です……」
ロンは涙を浮かべ言葉を詰まらせた。
次にユリアンが促され立ち上がった。
「えっと……ロンとは騎士団同期のユリアンと言います。昨日出会った僕なんかにもこんな素敵な席に参加させていただきありがとうございます。ロンは親友でありライバルです。ロンは大戦で活躍し、一年目で勲章を授与しました。親友として鼻が高い。でも、悔さもあります。僕はロンと二人で大出世してみせます」
二人に大きな拍手を送り、オーナーであるエマの乾杯で大宴会が始まった。
ロンは三年前には飲まなかった酒を皆で楽しんでいる。ユリアンはジェニーの前では相変わらずガチガチだが、昨日よりはスムーズに話せているようだ。
「ロン君、勲章貰ったんだね。ホントに出世しそうだ、楽しみだよ」
「いずれここの領主にまで登りつめるかもよ?」
「うん、そうなってくれたらホント嬉しいんだけど!」
会は終盤に差し掛かり、大盛り上がりだ。
――オレ達も報告しとかないとな。
「皆、オレ達から話があるんだけど、聞いてくれるかな?」
ユーゴとエマが立ち上がると皆が注目した。
「オレ達、一緒になる事にしました。皆に協力してもらう事もあるかもしれない、よろしくお願いします」
揃いのペンダントを皆に見せると、大きな拍手を受けた。エマが照れくさそうに笑顔で俯いている。
「おめでとー!」
大きな拍手と祝福の声が止んだ時、ロンが立ち上がった。
「俺も伝えたい事があります!」
――えっ、まさかここで言うのか……?
皆がロンに注目する。静けさの中、ロンの唾を飲み込む音が聞こえる。
「ニナさん! 俺は出会った時からずっとあなたが好きです。王都に行った三年間もこの気持ちが薄れることは無かった。むしろ想いは強くなった。俺と付き合ってください!」
皆の視線はニナへと移った。
ニナは突然の告白にうろたえながらも立ち上がる。
「えっ……ちょっと待って……えぇっと……ごめんなさい……」
ロンは、ガーンと音が聞こえそうな程の表情を浮かべた後、大きく肩を落とした。
ロンへの同情と共に、皆が静まり返っている。
「いやっ! 違う違う! そっちのごめんなさいじゃなくて……」
再びニナに視線が集まった。
「私ね、昔に初めてお付き合いした人に、とっても酷い乱暴をされてたの……それはもう思い出したくもないくらい。娼館とあの人から逃げてこの店に拾ってもらった。精神的には良くなったけど、変わらず男性とのお付き合い事はトラウマがあって出来てないの……」
ロンは顔を上げて真っ直ぐニナの目を見て聞いている。
「娼館からの引き戻しを追い返してくれたのはロン君だったよね? あの後それに混ざって何回かあの人が店に来たの……私にトラウマを植え付けた男がね。それを追い返し続けてくれたのもロン君だった。本当に嬉しかった。ロン君のお陰で前を向けるようになった。明るく話せるようになったんだ。でも……私はまだ男の人と普通にお付き合いできる自信が無い……ロン君が嫌だって事じゃないんだ。ロン君が勇気を出して告白してくれた事はとっても嬉しいんだ……」
トラウマはすぐに払拭できるものではない。エミリーも20年近く苦しみ続けた。
ロンはニナの目を見つめたまま口を開いた。
「俺の気持ちは、離れた三年間でも変わらなかった。これから変わることもない。ただ、ニナさんの気持ちに重くのしかかるのは嫌だ……」
「……ねえ、ロン君。私からお願いしてもいい?」
「うん、何でも聞くよ」
ニナは少し俯いてから、ロンの目を見て話し始めた。
「私のトラウマは克服できるものかどうか分からない。でも克服するとしたら、今まで私を救い続けてくれたロン君とがいい。私のわがままに付き合ってくれる……?」
「当たり前です! 俺はニナさんをずっと見てきて気持ちが変わらなかったんだ。これからも大好きです!」
「じゃあ……お願いします」
「こちらこそ、ずっと守ります」
お互い頭を下げる二人に、祝福の歓声と拍手が店内に響いた。
ロンは女性に手を上げるような男ではない。いつかニナの心を溶かすだろう。ユーゴも祝福の拍手を送り続けた。
娼館にいた過去など、ロンには関係ない。非道い男の事もロンが上書きしてくれるはずだ。
――なんか……オレ達の報告、皆忘れてないかな……?
ニナはロンの横に移動し、涙を流している。ロンは更に顔を赤らめてニナとグラスを合わせた。親友のユリアンも本当に嬉しそうだ。
あの時たまたま助けたロンがこんなに立派に成長した。ユーゴの目にも堪えきれず涙が溢れた。
弟の様に可愛がってきたロンが、夢を叶えた上に幸せを掴んだ。
「良かったね、ロン君」
「あぁ……自慢の弟子だよ」
ロンとユリアンの騎士団入団祝いは、惜しまれつつ終わりを迎えた。
0
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
チート魔法の魔導書
フルーツパフェ
ファンタジー
魔導士が魔法の研究成果を書き残した書物、魔導書――そこに書かれる専属魔法は驚異的な能力を発揮し、《所有者(ホルダー)》に莫大な地位と財産を保証した。
ダクライア公国のグラーデン騎士学校に通うラスタ=オキシマは騎士科の中で最高の魔力を持ちながら、《所有者》でないために卒業後の進路も定まらない日々を送る。
そんなラスタはある日、三年前に他界した祖父の家で『チート魔法の魔導書』と題された書物を発見する。自らを異世界の出身と語っていた風変わりな祖父が書き残した魔法とは何なのか? 半信半疑で書物を持ち帰るラスタだが、彼を待ち受けていたのは・・・・・・
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです
山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。
今は、その考えも消えつつある。
けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。
今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。
ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる