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第六章 四種族大戦編

繋ぐ力

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 左腕を治療術で止血する。

 ――龍胆りんどうは……あった、あそこか。
 
 龍胆の柄にはユーゴの左腕が握られたままだ、エミリーに治療を頼もう。刀と腕を空間にしまうと周りが動き出した。

 ルシフェルの上半身がドサリと地に落ちた。

「クッソ……なんでオレ様が殺されてんだ……テメェ何しやがった」

 ルシフェルが霊体となり、亡骸から抜け出た。こいつの特異能力は体外離脱だ。まだ終わってない。
 霊体とはいえ魔力を持っている。ユーゴが視認できる理由は、魔力を感知できるからだろう。

 「全軍に伝達。魔神ルシフェルは斃れました。しかし体外離脱し霊体と交戦中。至急対策を」

 それを聞いてレイが答える。

「承知した。それがしがソフィアと共に向かおう、それまで持ちこたえてくれ」
「了解、場所は……魔力を解放します。辿ってください」
「分かった」

 魔力を全開放し、不動フドウを構える。シュエンの記憶では錬気を纏った刀が有効だった。聯気れんきなら更にだろう。絶対に誰かに憑依させてはいけない。

『剣技 風車輪ふうしゃりん

 浮遊して逃げようとするルシフェルに斬撃を飛ばす。動きは速くない、いくらでも対処可能だ。

「クッ……鬱陶しいな……」
「誰にも憑依させねーぞ、オレが攻撃してる限り、移動もままならないみたいだな」

 少しすると、トーマスとエミリー、ジュリアが合流した。

「魔力全開放って事は何かあったんだろうとは思ったけど、なるほどね」
「ユーゴ……左腕……」
「あぁ、異空間に入れてる、後でいい。ここに来たって事は、皆勝ったんだな?」
「そっか、なら問題無いね。アレクサンドはもういないよ」
「僕も復讐を果たしたよ」
「パク一族の女ももういない」

 ――さすがオレの仲間達だ。

 こんなに心強い事はない。

「よし! あいつを絶対憑依させるなよ!」

「「「了解!」」」

 霊体のルシフェルの魔術は取るに足らない。トーマスの守護術でなくとも対処可能だ。
 皆が刀を抜き、波状攻撃で奴の動きを封じている。

「おまたせ! 私に任せて!」

 ソフィアとレイだ。
 ソフィアは魔封眼による封印術のスペシャリスト、この難局は彼女にしか乗り切れないだろう。

「小娘……テメェはオレの邪魔ばっかりしやがる」
「私をあの時の小娘だと思わない事ね。終わりよ、ルシフェル」

 ソフィアは春雪しゅんせつを抜き、ルシフェルに突き刺して動きを封じた。

「ちょっと待て小娘……一緒に天界に帰る道を模索しねぇか……? テメェも帰りてぇんじゃねぇか?」
「私はほとんどをこっちで過ごしてるの、今更帰りたいと思わないわ。歴史を知ってしまえば尚更ね」

 レイが後ろに付き、ソフィアの背中に右の掌を置いた。

「やれ、ソフィア」

 レイにそう言われ、目を瞑り詠唱を始めた。

『神式封印術 破邪滅魂はじゃめっこん!』

 ルシフェルが眩い光を放ち、徐々に薄くなっていく。

「クッソォ――!!」

 罵詈雑言を吐きながら消えていった。
 それを見届ける様にレイの身体が崩れ始める。

「ちょっとレイさん! まさか私に全魔力を注いだの!?」
「この世界はそれがしが生きていて良い場所では無い、ここらがいい引き際だ。其方そなたら、まだ戦は終わっておらんぞ、前を向け」

 そう言ってレイの身体は塵と消えた。

 ――何が起きた……?

 しかし、レイの言う通り戦の最中だ、状況確認は後だ。

「全軍に伝達。魔神ルシフェルは消滅、魔王マモン、アレクサンドも撃破」
「本当か!? こちらも魔族軍の幹部を撃破した。良し、全軍前進だ。奴らが二度と再起できぬよう殲滅せよ!」

 通信機を持つ者が戦況を全軍に伝え、士気は最高潮。幹部の殆どを失った魔鬼連合軍は為すすべもなく敗走、殲滅戦が始まった。


 ◇◇◇


 正午過ぎに始まった大戦は、夕日を待たずに仙龍連合軍の大勝で終わった。
 各軍戦場の処理をする中、ユーゴは腕の治療の為、後方の医療班に来ている。気付いてはいたが、皆が言い出せないことをエミリーに投げかけてみた。

「エミリー、眼の事はもう良いのか?」
「あぁうん、アレクサンドを目の前にしたら、この眼を隠して戦うのは違うと思ったんだ。多分、トラウマを抱えて戦うのは負けだと思ったんだろうね。なんか……吹っ切れたよ」

 エミリーのトラウマは相手を倒すことで払拭された。これからは青い眼を晒したまま生活していく様だ。 
 
「エミリー、腕を頼めるか?」

 異空間から左腕を取り出し、エミリーに渡す。相当な斬れ味だったらしい、肘の下あたりから綺麗に切断されている。

「私、人の腕くっつけるの実は初めてなんだよね……失敗したらどうしよ……」
「普通は元に戻る事なんてないんだ。指の一本や二本動かなくたって文句言わねーよ」
「そう言われると更に緊張するね……」

「んじゃ、ウチに任せてょ」

 シャルロット女王だ。

「ウチの眼の力は『結眼ゆうがん』って言って繋ぐ力なんだ。神経や各組織を繋げてからエミエミが治療したら元通りだよ。メイリンちゃんから貰った知識も大きいね」

 シャルロット女王も回復術師だろうと思っていた、良い能力を持っている。
 メイリンは傷もなく再生させたという、すごい術師だったらしい。

 女王はユーゴの左腕の断面を合わせ、魔力で繋ぎ合わせる作業に入った。
 左手の感覚が徐々に戻る、痛みは無い。

「よし、良いね。エミエミよろしく」

『治療術 四肢再生』

 ユーゴの左腕は傷跡もなく元通りになった。拳を握っても開いても全く違和感がない。リハビリをする必要もない程に完璧な治療だ。

「どう……?」
「全く問題ない。元通りだ、ありがとう。シャルロット女王もありがとうございます」

「いいょいいょ。あと、クリちゃんも命は繋ぎとめたからね。心配だったでしょ」

 ――クリちゃん……? あぁ、里長か! そうだ、状況を聞かないと。

「里長は回復されたんですか?」
「うん、さっきも言ったけど、ウチの眼は繋ぐ力。説明が難しいけど、肉体と魂を繋ぎ止める事も出来る。息さえあれば、ウチの魔力が続く限りは延命できるんだ。メイファちゃんの術で一命は取り留めたょ。ただ、元通りに動けるかどうかはまた別の話だね」

「じゃ、私行ってくる!」
「あぁ、頼むよエミリー」

 ――良かった……命さえあればそれでいい。


「ユーゴ、聞こえるか?」

 仙王からの通信だ。

「はい、ユーゴです」
「宝玉は誰が持っている?」
「あぁ、紅と黄ですか」

 ――そうだ。誰が持ってたんだろう。

「マモンが二つとも持ってたよ。アレクサンドから流れてきたのかもだけどね」
「なるほどな、トーマスが持ってます」
「そうか、四つ合わせると何が起きるか分からん。良い事が起こるのか悪い事が起こるのか。様々な可能性を考えて、今は四つを近付ける事はしたくない。我々は西の砦に引くが、君たちは東の砦に宝玉を預けてから来て欲しい。戦後の話もしたいからな」
「分かりました、そのように」

 
 ここは龍族の治療班。
 息を引き取った人達も少なくない。これが戦だ、仕方ない事ではあるが、やるせない。

 ユーゴ達も治療をして回り、日没後に東の砦に帰陣した。
 
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