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第六章 四種族大戦編

ユーゴ VS ルシフェル

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 ルシフェルの魔術は強力だ。
 五年前とはいえ、シュエンの守護術を軽く吹き飛ばす程の術。ただ、ユーゴは五年前とは別人の様に強くなっている。それはもちろん敵にも言える事だが。

「前は不利だと思って引いたが、やっとオレ様にもテメェに張り合う力が戻ったぞ」
「あぁ、そうみたいだな」

 ルシフェルの眼は琥珀こはく色になっている。話に聞く『魔眼』が再度開眼したのだろう。

「戻ったのは力だけじゃねぇぞ。コイツもだ」

 そう言って空間から剣を取り出した。

「一度死んだら空間の中のモンは無くなると思ってたんだがな、残ってたよ」

 黒く輝く両手剣だ。
 天界の素材だろうか、黒い剣を見るのは初めてだ。

「こっちは武器に名前付けるんだろ? 天界ではそんな習慣無かったからよ、オレ様もコイツに名を付けてみた。『魔剣アンフェール』だ。一度ドン底まで落ちたオレ様が持つにはピッタリの名だろ?」

 地獄アンフェールか。
 
 ――しかし……マモンもアレクサンドもそうだけど、聞いてもない事をベラベラと喋る奴らだな……。

「まぁ、相手を地獄に送るって意味もあるけどな」
「ふーん、講釈は終わりか? 早くかかってこいよ」

 不動フドウを右手に、龍胆りんどうを左手に上下太刀の構えで対峙する。

「ケッ、その黒髪と刀、あのクソ野郎を思い出す。そういやテメェはあの野郎の息子だったな」
「父さんの事か? 少女からお前みたいなのが漏れ出てたら、誰でもどうにかしようとするだろ」

「……マモンにもそう言われたよ。話は終わりだ、殺してやる」

 ルシフェルは両手剣を右側に立てて構えた。八相の構えによく似ている。

『剣技 火蜥蜴の爪サラマンダークロウ

 速い、火魔術の様なものを纏った剣術だ。
 ただ魔法剣とは根本的に違う。
 ギリギリで間合いを取り避けた。
 
 里親に守護術に頼りすぎないよう言われている。もちろん守護術と、防具に聯気れんきを纏う事は怠らない。
 やはり実力が拮抗すると、龍眼で視えた所で反応が遅れてしまう。

 ユーゴの龍眼での未来視は、ジュリアの予見眼とは全く違う。ジュリアは眼の力であり、文字通り『視える』ようだ。
 龍眼は特異能力だ。視えるではなく、脳裏に浮かぶという表現が近い。その為、咄嗟の反応はジュリアの予見眼に軍配が上がる。

 ただ、龍眼は周辺を俯瞰で視る能力も兼ね備えている。そして、弱点が視える。
 守護術を張っていようが斬るべきところは視えている。いや、視えるとは少し違うが、表現が難しいのでそう言っている。

「気に入らねぇな……涼しい顔で避けやがって。二本も刀持って、左手は飾りか?」
「まぁ、焦るなよ。見せてやるから」

 ――涼しい顔で、か……とんでもない。

 ギリギリ避けられたに過ぎない。最大限の警戒が必要だ。

 防戦は危険だ、手を出さないと。

『剣技 双角そうかく

 素早い二刀の連撃。
 聯気れんきの習得によりさらに軽く振り回している。
 
 ――しかし厄介だ……こっちは未来視で当てる為に刀を振っているのに、ギリギリで修正してきやがる。

 弱点もズラされ、闘気で防御される。

「へぇ……なかなかいい剣技だ。双剣みてぇに振り回しやがる」

 彼等がよく喋るのは、相手の情報を少しでも聞き出して有利にしようという事なのだろう。

 ――じゃ、オレも揺すってみようか。
 
「褒めて貰えて光栄だ。自慢の魔眼は使わないのか?」
 
「テメェの神眼で相殺されて終わりだろ。魔力消費も相当だからな、無駄打ちは出来ねぇ」

 ――奴も魔力消費は多いのか。

 魔力量が分からないからなんとも言えないが。

「へぇ、まぁその程度の魔力量だもんな。使えて二発ってとこか」
「なんだと……? オレ様の魔力量がこの程度だと思ってんのか……? 見せてやるよ」

 そう言ってルシフェルは魔力を全開放した。
 
 ――バカなのかコイツは……。

 ユーゴの思惑にホイホイ乗ってくる。

 ――なるほどな、確かに凄い魔力量だ……。
 
 ただ、ユーゴとの差はと言えばそこまででは無いようだ。奴から魔眼を使わせる事が出来れば、ユーゴは龍眼で視てその対処をすればいい。魔力を最小限に抑える事ができる。
 思った以上にやり易い相手なのかもしれない。

「へぇ、やっぱりその程度じゃねーか。よくも自慢げに全開放できたもんだな」

 相当腹が立っているのだろう、眉間にシワを寄せて顔を歪めている。

 ――よし、もっと怒れ。

「コノヤロウ……テメェの方が魔力が多いってのか……? じゃあ見せてみろよ」
「見せる必要がねーだろ。オレのこの余裕で察してくれよ、面倒くせーな」

 ルシフェルの我慢は限界を超えた。

 ユーゴは更に冷静に。

「クッソ野郎がァァ――!! 止まりやがれ! ブッ殺してやる!」

 大丈夫だ、視えている。魔力を最小限に相殺する。

 ――よし、周りは止まっているがオレは動ける。

 実際に相殺できるか不安ではあったが、問題ない。今の所ユーゴが圧倒的に有利だ。

 ルシフェルの怒りの斬撃を避けきれず、守護術と刀で防御する。

 ――クッ……重いな、弾き飛ばされそうだ……。

 ティモシーの教えを忠実に守る。堅くもしなやかに。

 周りがまた動き出した。
 ルシフェルとは対照的に、ユーゴは驚くほど冷静だ。

 魔眼は時を止める力だけだ。この怒りようで他の能力を使わない所を見ると間違いないだろう。

 ルシフェルはもう一度時を止めた。
 ユーゴの脳裏に惨劇が写った。

『火魔術 炎熱領域ゲヘナ

 ルシフェルは笑みを浮かべ、密集した龍族軍に向けて魔術を放った。
 ユーゴは地面を思いっきり蹴り、放たれた魔術に向け走った。

 ――間に合うか……。

 魔術は打ち消された。が、咄嗟に張ったユーゴの守護術は吹き飛ばされ、大きなダメージを負った。

 再び周りが動き出す。

「ファーッハッハッ! テメェならそうすると思ったぜ。このお人好しが! 何年テメェの中に居たと思ってんだよ。ぶっ殺してやる!」

 間髪入れずにルシフェルは剣で斬りかかってくる。ユーゴは防御で精一杯だ。
 継続再生では治療が追いつかない程にダメージは大きい。
 
 ――ヤバい……距離を取って治療しないと……。
 
 優位に戦っているつもりでいた。しかし、ルシフェルの一瞬の機転でひっくり返された。

『剣技 悪魔の鎌エビルズサイズ

 二本の剣を媒介に渾身の守護術を張る。
 ユーゴをルシフェルの剣技が襲う。

 高い金属音がしてユーゴは押し負けた。
 左手の龍胆りんどうが無い、どこだ。
 いや、その前に。左手が無い。

 ――いや、そんな事は後回しだ。
 
 ユーゴが斃れれば、魔眼を止められる者はいない。まだ右腕と不動フドウがある。

 ――オレは諦めない。手を考えろ……。

 ……諦めない、か。
 いつかレイとそんな話をした事があった。


 ◆◆◆


「眼の力と特異能力の……ですか?」

「うむ、それがしは天界二種族に弓を引かれた際、その可能性を見た」

 可能性を見たという事は、レイもなし得ていない事だ。

「龍族と魔族には特異能力があるだろう? サタンとラセツの因子を得た悪魔族にも、サタン譲りの特殊能力があった。しかし、某の因子を持った神族が何故に特殊能力を持っていないか」

 ――そうだ、疑問にも思わなかったが言われてみれば……。

「某はあえて神族にそれを組み込まなかった。眼の力と特異能力があれば、悪魔族を蹂躙していたかもしれん。しかし、更なる強大な力で我々に反旗を翻したかもしれん。某はその可能性を見てあえてそうしたのだ」
「なるほど……」

「眼の力と特殊能力を同時に得る可能性を秘めているのは、魔王マモンと魔神ルシフェル。そして其方そなたは既に得ている。某はゼウス殿から賜った眼の力と、自身の特異能力があった。統合した力を得るとすれば其方らだ」

「どうすれば得られるか、答えは出てるんですか?」
「いや……しかし強大な力を得る時は、総じて緊迫した状況下であることが多い」

 確かに、トーマスの臨眼もユーゴの神眼もそうだった。

「ただ一つ言えることは、天界二種族に囲まれた時も、某は諦めるつもりは無かった」 

「なるほど……どんな状況下にあっても諦めない心ですね。龍眼と神眼を合わせて『龍神眼』ってとこですか」
「フフッ、龍族と神族の血を引く其方が得るに相応しい力だな」


 ◇◇◇


『龍神眼 不動』

 更なる力を求めて、目の前にある刀の名を呟いた。
 すると周りの動きが止まった、斬りかかって来るルシフェルまでもが。

 時間を止めた時とは明らかに違う、更に上の力だ。
 ユーゴはどうやらを止めたらしい。

 右手の不動は十分な聯気れんきを纏っている。

『剣技 片手一文字かたていちもんじ

 渾身の一振でルシフェルの胴を斬り離した。
 
 
 ――不動……うご、か。あなたのお陰でとんでもない能力を得たよ、フドウさん。
 
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