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第六章 四種族大戦編
エミリー VS アレクサンド
しおりを挟む目の前には憎きアレクサンド。
ただ、心の昂りは無い。驚く程に冷静だ。
「やぁエミリー。随分といい女になったじゃないか。さすがはボクの子と言ったところか、ボクは見た目の良いレディしか抱かないからね」
奴の戯言には答えない。
ジッとアレクサンドの目を睨みつけている。
「しかし……ボクの眼の力を術で相殺するとはね。大したものだよ」
「よく喋るね。そんなに私が怖い? ベラベラ喋って私の事を探ってるみたいだけど、あんたと無駄話する気はないよ」
アレクサンドは気に食わないと言った表情で、眉間にシワを寄せてエミリーを睨みつける。
「ハハッ……不用意にボクの眼を覗き込むとは警戒が足りなかったね。さぁエミリー、周りの仲間を斬り刻むといいよ」
アレクサンドはオーバーに両手を広げてそう言った。
そして、動かないエミリーを見て怪訝な表情を見せる。
「何故だ……? 何故効かない……」
初めて会う眼の力が通用しない相手に、驚きと悔しさが混ざったような顔を向けている。
エミリーの『慧眼』は本質を鋭く見抜く眼の力。言わば観察眼の最たるものだ。
――アレクサンドの本質はただのクズ野郎だ。私の眼はそんな奴に魅了されたりしない。
五年間、里でメイファの診療所を手伝いながら医術の研究と共に眼の力の確認をした。
どうやらエミリーの慧眼には、精神操作系の能力は効かないらしい。
他にも、治療術師である彼女には最適な力だった。
治療すべき患部が視える。透けて見えるという表現が正しいのだろうが、少し違う。説明が難しい。
患部に直接術をかける事ができるエミリーの治療術は、他の人の術より数段効果が高いらしい。快癒も普通は異常状態を治せる様な術ではない。魔力障害などの状態異常を治せるのは、エミリーのこの眼だからこそ為せる業だと結論づけられた。
ニーズヘッグの硬い鱗に苦無を突き刺せたのも、皮膚の弱い部分を観察できるこの眼のおかげだった。
対象を鋭く観察する事で、動きもある程度読める。エミリーが今まで攻撃を殆ど外したことがないのはこの眼のお陰だ。
彼女にはユーゴの龍眼やジュリアの予見の様に、少し先の未来を視るような力は無い。
あくまでも鋭い観察による予測でしかない。様々な可能性から演算し、最適な答えを弾き出してくれる。
本当に素晴らしい力を手に入れたと思っている。幼少期の辛い思い出が、この眼の力を開眼させのは皮肉な話だが。
アレクサンドの顔が引き締まった。
「どうやらボクは、知らないうちに自分の天敵を作ってしまっていたようだね。エミリー、キミの力を認めよう」
「クズなうえに傲慢、救いようのない奴だね。もう喋らないでくれる?」
「まぁそう言うなよ、ボクが本気で相手をしてやると言うんだ。この聖剣アスカロンでね」
アレクサンドは、異空間から光り輝く片手剣を取り出し正面に構えた。
エミリーは受け継いだ直刀『美鈴』を抜き、正眼に構える。
すると、アレクサンドの表情が変わった。
「おい、その刀見たことがあるぞ。メイリンの刀じゃないか?」
「無駄に記憶力はあるんだね。そうだよ、あんたが口説けなかった龍族の英雄の刀だよ」
「……そんな刀を託される程とはね。キミがそれ程の術師だということだね」
無駄話に付き合ってしまった。もう終わりだ。
六本の苦無に聯気の糸を繋げ、風エネルギーで浮力を持たせて周りに浮遊させる。
エミリーの役目はサポートと中距離アタッカーだが、この五年間里長からみっちり剣技を叩き込まれている。
「ほう、珍しい武器を扱うんだな。見物だよ」
アレクサンドは質の高い変質気力を身体に纏っている。
あれが話に聞く鬼族の闘気だろう。身体強化もなされている。
その上からさらに守護術。厄介だがどうにかする他ない。それを破れなければ勝ち目は無い。
『風魔術 風魔召喚』
魔術だ。
仙術の威力ではない。まともに受けるのは不味い。
『土遁 土塁壁』
聯気のお陰で、防御としての実用性が増した土遁。大地の自然エネルギーを組み込んだ鉄壁の防護壁。アレクサンドの術を完璧に防いだ。
土塁壁を目隠しに苦無を放つ。
アレクサンドの強固な守護術に弾き飛ばされた苦無を引き戻した。
――なるほどね、いい守護術だ。
苦無で接触すれば分かる、牽制には最適な武器だ。
『剣技 流星斬り』
アレクサンドは半身引いた片手剣を、とんでもないスピードに乗せて斬りかかって来た。
『守護術 堅牢・楯』
ヤンガスに作ってもらった四本の苦無を四角形に配置し、守護術の盾を張る。
エミリーの周りには武具を媒介とした守護術を張っているうえに、防具には聯気を纏っている。
三枚の防御。
しかし、さすがはアレクサンドの剣。苦無の守護術を突破し、二枚目で止まった。
「どうしても中距離で戦いたいようだね……厄介な相手だよ」
『火魔術 炎魔召喚』
『水遁 大津波』
すぐさま反応し特大の津波で打ち消す。
魔術はかなり強力だ。エミリーの水遁を突破し、守護術で止まった。
強力な術の応酬、周りには誰も居なくなっている。
『剣技 光創の一撃』
間髪入れずにアレクサンドが片手剣を振り下ろした。
咄嗟に堅牢・楯を張る。
が、途轍もない光の刃が二枚の守護術を突破した。
構えた美鈴で防御する。高い金属音が鳴り響いた。
「やっと届いた様だね」
身体強化したアレクサンドの動きは速い。
『剣技 刺突剣』
これを好機と、一直線に突き技で距離を詰めて来た。
慧眼での演算。
身体を回転させギリギリで躱す。
いや、躱しきれなかった、左肩に痛みが走る。
『剣技 剣光の舞』
更に畳み掛けてくる。
踊るような連撃を躱しきれずに深い傷を負った。
隙を見て距離を取る。
戦闘前に掛けた継続再生が傷を癒す。
――舐めてた訳じゃないけど……やっぱり強いな。
致命傷は無い、大丈夫だ。
守りに徹せば確実に突破される。
――私のこの眼と武器であのクズを倒す。
心を決めた。
目からレンズを外し、青い眼を晒した。
「何を今更。何が変わるわけでもないだろう」
「変わるよ。私がどんな想いでこの眼を隠してたかなんて知らないだろ」
苦無を聯気に繋ぎ直す。
美鈴を右手で片手正眼に構えると、アレクサンドも片手剣を半身引いて構えた。
左手に苦無を持ち、渾身の力で投擲する。
守護術の弱い部分。そんなものを見る事ができる眼など、エミリーしか持っていないだろう。
アレクサンドの守護術に突き刺し、風と火の魔聯気を込めた苦無を爆発させる。
吹き飛んだ守護術を確認する事なく、爆発を煙幕に二投目を投げ、鎧の隙間に突き刺した。
そして改めて美鈴を正眼に構える。
「なっ……何をした!?」
途絶を込め続けた苦無。
ニーズヘッグを止めた時より何倍も強力だ、動ける訳が無い。
同等の動の自然エネルギーで相殺される可能性もある。何をされたか分からない今のうちに止めだ。
『剣技 霧時雨』
霧のように霞む程のスピードで一気に距離を詰め、聯気を込め続けた美鈴でアレクサンドの首を飛ばした。
『火遁 炎葬!』
後ろを振り返り、渾身の火遁で燃やし尽くす。この世からこの男の痕跡を消す。骨も残さない。
立派な鎧のみが転がっている。
命乞いすらさせずに焼き殺した。
この男に一族諸共焼き殺された人達と同じ様に。
エミリーの復讐は成った。
アレクサンドを超えるほどに鍛えてくれた皆のお陰で。
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