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第六章 四種族大戦編

ジュリア VS サラン

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 魔王マモンと魔神ルシフェル、アレクサンドらはまだ動いていない様だ。
 ユーゴはトーマスと魔神ルシフェルの方に飛んだ。ジュリアはエミリーと共にアレクサンドの魔力を探っている。

 魔力が近い。抑えようともしていない。
 奴の傲慢さだ、痛い目を見せてやろう。

 こちらから探さなくとも敵軍に攻撃をすれば出てくるだろう。鬼族共は的が大きくていい。

 まずは挨拶がわりにツヴァイハンダーで魔法剣技だ。
 
『魔法剣技 横薙一閃!』

 聯気れんきで更にパワーアップした魔法剣技が敵軍に飛んでいく。ユーゴ達に、もはや兵器だと言われたジュリアの渾身の一発。
 

『守護術 堅固な城壁ロバストランパーツ

 ジュリアの渾身の剣技はアレクサンドと仙人の二枚の守護術に阻まれ飛び散った。

「ほぅ……良い剣技だね。ナメてたよジュリエット」

 ジュリアの後ろにはエミリーがついている。

「ふん、アンタの相手はアタシじゃないよ。エミリーを舐めない事だね」
「では、あなたはわたくしが相手して差し上げましょうかしら」

 ダークブラウンのロングヘアーをなびかせた仙人が双剣を手に持っている。

 ――アイツが例のパク一族の女か。

「そんなに大きな剣でわたくしの相手をしようと?」
「まぁどっちでもいいんだけどな。どうせなら良い刀を使おうか」
 
 ツヴァイハンダーを、龍王の第一夫人の刀、凛花リンファに持ち替えて正眼に構えた。

「なるほど、良い刀をお持ちのようで」
「アンタもな、そんな良い双剣見たこともない」

 ジュリアには予見眼よけんがんがある。サランと言ったか、この仙人せんじんに負ける事は万一にも無い。
 ただ、一人でジュリアの相手をしようとするくらいだ。サランも眼の力を持っている可能性は高い。この魔力の質だ、かなりの使い手である事は間違いない。

 ――でも、おかしい……なんでコイツの動く方向が視えない……? いや、動く気がないのか……。

 その時だった。
 逆にジュリアが攻撃される未来が視えた。

 咄嗟に守護術と刀でその斬撃をいなす。
 サランは一定の距離を置き、意外そうな顔で話しかけてきた。

「あら、終わりだと思いましたのに。なかなか良さそうな眼の力をお持ちのようですわ」
「ふん、アタシを一撃で殺ろうなんて随分傲慢なんだな」

 精一杯平常心を装う。

 ――何だ……正対していたのにいきなり横から攻撃された……間違いなく目の前にいたのに……。

 こうなれば先制攻撃だ。

 サランは双剣を構えもしない。
 動く気も攻撃する気も無いのはさっきと同じだ。

『剣技 おぼろ

 純粋な気力のみで空を翔けるほどに高めた聯気れんきを纏い、地を強く蹴り、瞬間移動の様な速さでサランに斬り掛かる。

 サランはジュリアの動きについて来れない。
 腰から真っ二つにしたと思った……しかし全く手応え無く刀がすり抜けた。

 そしてすぐに斬りかかってくる。
 斬り伏せたと思った気の緩みから反応が遅れた。サランの双剣はジュリアの右腕を斬りつけた。

「やりますわね。確実に仕留めたと思いましたのに」
「こっちのセリフだ、どんなトリックだ」

 大丈夫だ、傷は浅い。
 守護術を突破して傷つけられた、舐めていた訳ではないが、最大の警戒をするべきだ。

『治療術 継続再生』

 相手はスピードタイプ。ヒットアンドアウェイでいやらしく攻撃してくる。

 ――厄介だな……さっぱり分からんぞ……。

 ニーズヘッグの防具に聯気を纏い、更に守護術を掛け直す。
 継続再生により擦り傷程度ならすぐに治る。

 相手は受け手に回っている。
 しかし、何故か攻撃は当たらず意識の外から斬撃が飛んでくる。
 相手が攻撃してこないのを確認し、分析をしていたその時、ジュリアの予見眼に映る事無く目の前のサランが斬りかかってきた。

 驚きはしたが、警戒は怠ってはいない。刀で迎え撃つ。サランの動きに合わせて袈裟斬けさぎりを放った。

 が……ジュリアの斬撃はくうを斬り、左側から双剣の連撃が飛んできた。
 完全な意識の外からの攻撃。守護術と防具では防ぎきれず、さっきより深い傷を負った。
 しかし、継続再生が時間をかけてそれを癒す。

「間違いなくわたくしが戦った相手の中では最強ですわね。時間をかけて切り刻んで差し上げますわ」

 涼しい顔でそう言ってのけた。
 
 ――これは不味いぞ……。

 ジュリアはいつ来るか分からない攻撃に常に気を張っておかなければならない。事実、この短時間でかなり神経をすり減らしている。

 ――落ち着け、よく見てよく考えろ……アタシの予見眼に映らないって事は……。
 
 実体ではないという事だ。なら刀がすり抜ける様に感じるのには納得がいく。

 ――でも……ずっと動かず目の前にいるんだぞ……? 何だこの能力は……。

 変わらず斬りかかってくる相手をギリギリの所で躱しながら能力を分析する。

 ――能力か……これがコイツの眼の力だろうな。
 
 眼の力にはアレクサンドやレオナードのように、目から相手の脳に直接影響を与える力がある。レオナードの眼の力には勝てる気がしない。

 サランもその可能性が高い。
 彼女は常に目をそらさない、ジッとジュリアの目を見つている。脳に直接影響を与え、虚像をあたかも実体に見せかけて隙を見て斬りかかってくる。
 そう思えば辻褄は合う。

 ――ただ……どうする。

 目を合わせずに戦うか。
 剣術は目の動きである程度相手の行動を読み対処する。しかしサランにそれは通じない。
 ならばいっその事、目を閉じて微かな魔力の動きに合わせてカウンターを入れよう。
 
 ――大丈夫だ、アタシには予見眼がある。

 自分に起こることは全て予見できる。


 刀を右脇に構え、静かに目を閉じる。
 眼は見ていないがサランは間違いなく正面にいた。魔力は全く感じない。実体も姿を伏せるために魔力を極限まで抑えているんだろう、全く感じ取ることは出来ない。

 ジュリアの刀は一度も相手に当たっていない。刀が込め続けた聯気で爆発しそうだ。今のジュリアに斬れない物はない。

 ――集中だ……。

  
 ――来たっ!
 
 一瞬の魔力の昂りを感じ取り、左側からの攻撃を予見した。
 目を閉じたまま、最速の横薙ぎで刀を左側に振る。

 手応えあり。
 目を開けて後ろを確認する。

 サランの胴は二つに別れ、見開いたその目はジュリアを見つめている。

「そっ……そんな……」
「仙人とはいえ人族だってナメてたよ。アタシもまだまだだな……結果は逆だったかもしれない。じゃあな、お前は強かったよサラン」

 サランは目を見開いたまま絶命した。
 
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