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第六章 四種族大戦編
騎士団の善戦
しおりを挟む「ロン、次は騎士団に増援要請が来るみたいだ」
ユリアンがロンに声をかけた。
同期で同い年の二人は、出会った頃はお互い苦手意識を持っていたが、今や親友であり良きライバルだ。
ロン達は騎士団に入団して数ヶ月でいきなり軍に駆り出されている。
騎士団の中でも昇化した者が招集された。
騎士団はテオドール団長が仕切り、オリバーが補佐している。
団長とオリバーが昇化済みの騎士二千人の前に立った。
「前線の仙族軍は魔族軍に当たっている。被害は思いのほか多く、多数の負傷兵が後方に下げられた。我々仙人混合軍から増援を送っている」
「これは始祖四種族の争いだよ。僕たち人族の出る幕ではないのかもしれない。だから増援は昇化した者のみで行く。もちろん僕とオリバーもだ」
「そう、我が国の王二人も前線で戦っているんだ。私たちが後方で留守番している訳にはいかない」
皆の唾を飲み込む音が聞こえる。
ロンも張り詰めた空気に飲まれている。
「皆の緊張は分かる、皆が初めての戦だ。在籍十年の兵も一年目の兵も、勿論我々二人もな」
「あぁ、今から僕たちがする命令は残酷な物かもしれない。君たちに死んで来いと言うのに等しいからね。ただ、君たちが敵を一人倒せば味方が死ぬ可能性が下がるんだ」
「私達は聯気のお陰で始祖四種族に劣らないレベルにまで強くなったと思っている。自信を持っていい」
「一つだけ約束して欲しい。友が倒れても振り返るな。その隙が君たち自身を殺す事になる。皆で生き残り、美味い酒を飲もうじゃないか! 行くぞ!」
『オォ――ッッ!!』
騎士団でも昇化した者達はレベルが違う。
ロンとユリアンは今18歳、周りに十代など一人もいない。有り得ない速さで昇化したらしい。
「緊張するね……」
「そうか? 僕はワクワクしてるけどね。王国を守るのが騎士の役目だ、大戦なんてその最たるものだよ。いきなりこんな大舞台に立てるんだ」
「強いなユリアンは……絶対生きて帰ろうな」
「あぁ、僕たちは強いよ」
テオドール団長を先頭に、前線の仙族軍と合流した。
「強化術はしっかりね! 一時たりとも気を抜かないように! いいか! 死ぬなよォ!」
真っ赤な髪に鋭い犬歯。
魔族は見た事があったが、ここまで多いと圧倒される。
一ついい事は、敵が分かり易い事だ。
ユーゴから貰った刀に、ロンは『凪』と名付けた。
代々漁師の家系に生まれたロンは、小さい頃から海に出ていた。風が止んで海面が静まるあの凪いだ状態が大好きだった。
凪の様な静の剣、ロンが目指す境地はそこにある。
移動中に凪には聯気を込め続けている。昇化した事により魔法剣技を軽く扱えるだけの魔力を手に入れた。
『魔法剣技 踊り独楽』
ロンの剣術は始祖四種族にも通用する。
目の前の魔族達が、ロンに手も足も出ないのがその証明だ。
しかし、負傷している味方も多い。
――振り返るな……俺は俺の仕事をするだけだ。
親友ユリアンに背中を預け、敵を斬り続けた。
騎士団の鎧ではない人族の一団が、斬り進んで来ているのが見える。
「なぁユリアン……なんで人族同士が戦ってるんだ……?」
「あぁ、魔族と同じ防具だね。王都にも魔族はいる、逆も然りなんじゃないか? 敵と見ていいだろ」
しかも強い。
先頭で戦っている女性には見覚えがあった。
「えっ……ヴァロンティーヌさん」
「知ってるのか?」
「うん、レトルコメルスのマフィアのボスだよ。人族同士で殺し合いなんて……俺止めてくる」
「おい! 待てロン!」
強すぎるヴァロンティーヌ達を味方は攻めあぐねて対峙している。
ロンは味方の前に出た。
「ヴァロンティーヌさん! 何で魔族軍に……?」
鬼の形相で剣を構えていた彼女の顔が少し緩んだ。
「お前は……エマのところの黒服のガキか? お前こそ何故こんな所に」
「俺は王国騎士になる夢を叶えたんです。止めましょうよ人族同士の争いなんて」
「あぁ? 私はずっとマフィア同士で争って来た、今更なんとも思わん。私に講釈を垂れるなんざ十年早いぞ」
――ダメか……戦うしかないのか……。
「ロン、敵に情けをかけるなんてことは止めろ。知り合いだからと言っても敵は敵だ。分かってるよな?」
「うん、実際そこまで親密な仲じゃない。問題ないよ」
「ならいい」
ロンがこの戦で生き残っているのは、背中を任せられる相棒がいるからだと思っている。
「よし、行くかユリアン」
「あぁ、全力で行くぞ」
周りの騎士達との連携も忘れない。
皆先輩騎士だ、軍事演習でのフォーメーションも身体に叩き込んでいるが、実践で使えるものは多くない。状況に合わせて臨機応変に動かなければならない。
でもこれは幼少期からしている訓練だ。ハオとユーゴに感謝だ。師匠に恵まれた。二人はロンを甘やかすことは無かった。
『火遁 豪炎龍!』
魔聯気で更に威力を上げた渾身の火遁。
ロンが放った赤黒い火遁は、龍の様に繰り返し魔族軍を襲う。致命傷を与えられるとは思っていない。少しのダメージと隙が得られればそれでいい。
騎士団五千人の中でも龍族の遁術を扱うのはロンだけだ。彼等と長きに渡り争ってきた仙族にも、遁術使いはいない。
魔族軍は見慣れない術に戸惑いを見せた。ロンの火遁は思いのほか大きな隙を生んだ。
その隙を騎士たちは見逃さない、一斉に敵に斬り掛かった。
ヴァロンティーヌの一団、元女豹達は瀕死の負傷兵を抱えて後方に引いて行った。
「敵は浮き足立っているぞ! この好機を逃すな! かかれェ――!!」
仙族と仙人の連携は良好。
王国騎士たちの力は始祖四種族に劣らない。十分通用する。
騎士団は魔族軍と互角以上に渡り合い、前線を少しづつ押し上げて行った。
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