228 / 241
第六章 四種族大戦編
龍族 VS 鬼族
しおりを挟む――また原初の鬼族と会うことがあるとはの。永く生きておると何があるか分からぬ。
もう一人の巨体はイバラキを思い出す。確かゼンキと言ったか。あと一人は見たことも無い。
そしてあの男が鬼王シュテン。
自我崩壊で箍が外れていたとはいえ、魔族と鬼族を半壊させた怪物だ。更に修練を積んだと見える、魔力の質が良い。
しかし、五百年前の姿のままとは。宝玉の力には驚かされる。
「久しいなベンケイ。最後の大戦で名を聞かんかった故に死んだとばかり思うておったが」
「色々あってのぉ、今は魔都に世話になっている」
「左様であるか。昔話もしたいものだが、死んでもらおうかの」
「こちらの台詞じゃ。最期にシュエンをこちらに寄越す気は無いか?」
「儂に聞くでないわ、本人に聞くがよい」
四人の鬼族はシュエンに目を向ける。
「爺さん、残念だが勧誘を受ける訳にはいかない、正気に戻った今が本当の俺だ」
「そうか、残念だ。では諸共くたばれ」
ベンケイ達が薙刀を構えた。
懐かしい。
里の刀の柄を伸ばしたような独特な武器だ。ベンケイは鍛冶師であり薙刀術の創始者だと聞いた。だとすれば鬼王シュテンはその弟子だろう。
ゼンキは金棒だ。クリカラは今はっきりと思い出した、彼のあれを振るう姿を。
しかしこちらには今やクリカラの右腕であるシャオウがいる。里一番の盾士であるヤンガスもだ。シュエンはあの化物の首を斬り飛ばした。
「良し、守りは任せたぞヤンガス。皆で奴らを斬り刻んでやるとしよう」
「へい! あんたらにゃ傷一つ付けさせねぇぜ!」
「本気で戦闘するたァ千年ぶりじゃ。覚悟せぇよ、おどりゃァ!」
「悪いなお前ら、死んでくれ」
まずは鬼王が何かをしようとしている。
『火魔術 炎熱領域』
『守護術 堅牢!』
ヤンガスの幅広で刀とも呼べない武器で鬼王の術を防御した。シャオウの父、シャガラの愛刀で特級品だ。
「おぉ……シュエンの守護術を消し飛ばした悪魔族の術だな。確かに聯気とティモシーさんの教えがなけりゃ厳しかったな……」
「問題ないかの?」
「いや、やっぱ俺の足止めの能力は魔物向けらしい。鬼族の戦士四人を一身にってのは厳しいな。すんません里長」
「左様か、では始祖四王の端くれとして新しい鬼王は儂が貰おうかの」
「では、ヤンと俺がゼンキとサンキチを抑えます」
シャオウは昔からの顔見知り、ベンケイの相手を。
シュエンとヤンガスには自身の倍はあろうゼンキの相手を任せる。もう一人はサンキチと言っていたか。ヤマタノオロチを斬り伏せた二人だ、問題ないだろう。
若いとはいえあのイバラキを斬って鬼王を名乗る者に余裕は見せられない。
倶利伽羅刀を正眼に構える。
「さて、若い鬼王よ。儂ですら相手をした事は無いが、イバラキはどうであった?」
「あんなもんに勝っても何の自慢にもなりゃしねぇ、弱すぎたよ。オラが強すぎたのか、始祖四王が弱いのか。あんたがそうじゃねぇ事を願いたいけどな」
鬼王シュテンの眼は灰色。鬼族では見た事のない色だ。当然人族でも見た事のある色ではない。
里に来た時の魔王マモンは今のような紅い眼ではなかった。人族の血で昇化していると見て良いだろう。そうなると鬼王もだ。
ゼウスとレイの因子で青紫、サタンで赤く、ラセツで灰色に眼の色が変わると見ていい。眼の力を警戒する必要がある。
――フッ……儂のこの分析癖は、亡くなった妻の教えであったな。見ておるか、リンファよ。この大戦を無事生き抜いた暁には、お主の墓に礼をせねばならんの。
『風魔術 風魔召喚』
『土遁 土塁壁』
土遁の土壁は風属性に対する防御に良い。
土遁は何も足止めの術だけのものではない。龍族の鍛冶師の始祖であるシャガラの開発した術だ。大地の自然の力を組み込んで更に強固になった。
「流石は修練を続けている四王だな、中距離の小細工は通じねぇみてぇだ」
「確かに、お主らにも儂の渾身の雷遁を封じられたからの」
刀で戦う他ない。
――儂は術より剣技の方が得意である、望むところだ。
鬼王は薙刀を正面に構えた。
鬼族特有の変質気力とはまた違う、あの魔術に似たものを纏っている。更に自然の力か、これは全力で立ち向かわなければならない。
――成程、薙刀術を極めておる、隙が無い良い構えだ。
愛刀の倶利伽羅刀には聯気を注ぎ続けている。
『薙刀術 水車』
――ほう、速い。
間合いを見切り、少し後ろへと下がって避ける。
「へぇ……守護術で受けねぇんだな。オラの斬撃がそんなに怖いか?
「自惚れるでない。守護術に頼りすぎては良い剣士にはなれぬぞ」
間合いを制す者が勝負を制す。
そのような事を敵に教えてやる程甘くはない。
縦横遠心力を利用した自在の斬撃、素晴らしい。しかし、かつて見慣れたベンケイの薙刀術だ。
「ふぅ……流石だな……かすりもしねぇとはな……」
「こうも涼しい顔で避けられては絶望すら覚えよう、降参するなら早い方が良いぞ」
そうは言ったが、薙刀の間合いの長さは厄介だ。戦には駆け引きも必要、焦らせて隙をつくとしよう。
懐に入れば薙刀の間合いは潰せる。防戦一方は終わりだ。
聯気に満ちた刀に一気に雷遁を圧縮する。雷の速さは風どころではない。
『魔法剣技 雷鳴斬り』
薙刀を引いた一瞬の隙をつき、一気に間合いを詰めて懐に入る。
仕留めたと思った刹那、クリカラの渾身の一振りは空を切った。
「なん……だと……?」
――見切られたか……刀の切っ先をすり抜けるように……あやつの動きが見えんかった……。
「オラも避けるのには自信があるんだよな。当てるのは至難の業だと思うぞ」
クリカラの驚く顔を見てか、鬼王はそう言った。
確実に当たるはずだった、しかし外した。
――いや……儂の慢心か。こやつは鬼王を名乗る者、今までで最強の敵である事を認めねばならん様だ。
「お主も守護術で受けぬところをみると、儂の斬撃が余程恐ろしいと見える」
「守護術に頼ったらいい剣士になれねぇんだろ?」
「その通り。良い弟子を持ったの、ベンケイの奴も」
普通の攻撃では埒が明かない。常識では考えられないあの見切り、眼の力である可能性が高い。
であれば、その力を上回らなければならない。
――となると……儂も覚悟せねばならん。
そんな事を考えているうちにも、薙刀の斬撃は止まらずクリカラを襲い続ける。聯気を纏った刀でいなし、隙をうかがいつつ間合いを取る。
――儂の奥の手は長くは持たぬ。
勝負は一瞬。
クリカラの特異能力は雷属性だ。
今も雷で全身を活性化させ、優位に立っているはずだった。更に出力を上げて鬼王を圧倒しない事には勝てない。
そうなればクリカラの身は持たない。それでも敵を斬れればそれで良い。
覚悟は決まった、あとは隙を見て斬り伏せるのみ。
『薙刀術 腰車』
――焦ったか。
雷の出力を上げ、全身の細胞を叩き起こす。
常識では有り得ぬ速度で鬼王の斬撃を避け、後ろへ下がる。
筋肉が悲鳴を上げているのが分かる。が、痛みは無い。ガラ空きの首元を目指して大地を強く蹴った。
倶利伽羅刀は雷を纏い破裂寸前だ。
『魔法剣技 雷光一閃』
自身でも制御出来ない程の渾身の斬撃。
手応えはあった。
一気に現れる全身の痛みに、クリカラは身体を支えられずそのまま地面に伏せた。
最期の力で後方を振り向くと、鬼王は立っていた。
ただ、左腕と頭を無くして。
そして物も言えず地に倒れ込んだ。
――他の三人はどうだ……。
シュエンとヤンガスは、ゼンキとサンキチを傷だらけにしている。流石はヤマタノオロチを斬り伏せた二人だ。
シャオウは互角か押している。
――流石は優秀な儂の弟子だ、次の龍王はお主だ……。
鬼王を名乗る者と刺し違えた、十分な戦果だ。
友に恵まれ部下にも恵まれた。
皆が平穏に暮らせる地も手に入れた。
長く生きたが、悔いはとうに無い。
メイファが何かを叫んで指示を出している。
――もう耳も聞こえぬ、もう良い……皆のところに行かせてくれ……。
クリカラは静かに瞼を閉じた。
――良い生涯であった……皆、礼を言う……
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる