上 下
227 / 241
第六章 四種族大戦編

開戦

しおりを挟む

 各自朝食を済ませ、軽食を持参して整列している。
 各軍隊長の指示で北に向け進軍を開始した。

 仙族軍 仙王ラファエロ
 龍族軍 龍王クリカラ
 仙人混合軍 仙王長兄ライアン
 王国軍一隊と二隊はそれぞれ二人の王の実弟が軍隊長を務めている。
 それぞれ二万づつの五軍隊で、合計十万。

 二人の国王は、王国軍上層の反対を押し切って仙族隊に所属している。
 
 皆が聯気れんきによる浮遊術を習得している。が、十万の兵士の進軍だ、速度はどうしても落ちる。しかし午後には山間の平地を越えるだろう。

 光エネルギーによる光速通信機の小型機を各軍に二つづつ配布されている。里長以外の各軍隊長が付けているようだ。各軍それぞれもう一人づつ付けている。

 ある一定以上の精度の聯気で送信が出来る。仙王からの通信が飛ぶ。

「わざわざ皆を集める事はせんかったが、敵は我々とほぼ同じタイミングで進軍を始めた」
「えっ……たまたま今日進軍を開始する予定だったのか、オレ達に合わせたのか……」
「まさかとは思いますが、向こうにもこちらの動きを見ることが出来る者がいるのでは……?」

 皆が各々の考えを述べる中、仙王が話を進める。

「何とも言えんな、はなから一日休んでそのまま出る予定だったのかもしれん。我が軍の方が数が多い、このままいけば予定通り山間の平地でぶつかるだろう。そのつもりで各軍指示を出してくれ」

『了解』


 ◇◇◇
 

 順調に行軍し、間もなく戦場の平地。

「敵も間もなく戦場に差し掛かる、皆の気を引き締めよ。龍族軍、我々仙族軍と並び山間の平地に入るぞ」
「承知しました」
 
 仙王の通信にメイファが答えた。

「間もなくか。シュエンよ、魔力障害であったとはいえ、お主にとって奴らは数年行動を共にした仲間であろう?」
 
「……そうですね。気の良い奴らでしたが、中身はあの通りの悪党です。あの魔神を復活させようと画策するような奴らですから。錬気術を奴らに指南してしまった事に責任を感じています……」
「気に病むでない。あの話を聞いてお主を責める者などおらぬ」
「はい……俺は龍族です。我々に仇なす敵なら誰であれ斬り捨てますよ」
「左様か、ならば良い」

 そして、里長は皆に鋭い目を向けて念を押すように言った。

「お主ら、周りの誰が倒れようとも後ろを振り返るな。目の前の敵から目を逸らさぬ様に」

 そこにいる皆が静かに頷いた。
 里長が常に皆に伝えていた言葉だ、一瞬の隙が命取りの戦場で他事を考えている暇は無い。

 
 仙龍両軍を先陣に山間の平地に差し掛かり、魔鬼連合軍と対峙した。

 我が軍の先頭には仙王と龍王、その両脇にそれぞれの幹部が並んでいる。

 敵軍の先頭には魔王マモンと鬼王シュテン、その脇にはアレクサンドと、サランと呼ばれていたダークブラウン髪の仙人、そして魔神ルシフェルだ。

 ――あれ……ヴァロンティーヌさん達がいる……何でだ?
 
 マモン達が滞在中に交流があったという事か。

 新旧四王が睨み合っている。
 先に口を開いたのはマモンだった。

「お久しぶりね。この日を心待ちにしてたの、せいぜい楽しみましょ」
「戦を楽しむだと……? 貴様らの暇潰しで命を落とす者も出るのだ。ここで再起不能になるまで叩き潰してやろう」

 アレクサンドが前に出る。

「お祖父様、久しぶりだね。国外追放にしてくれたお陰で毎日が楽しいよ。さぁ、ショータイムといこうか!」

 アレクサンドは自分に注目を集めるように、浮遊して大袈裟に手を広げている。

 ――これは……不味いぞ……。
 
 ユーゴは脳裏に映る惨状を視て叫んだ。

「みんなァ! アレクサンドの眼を見るなァ――!!!」

『魅了眼 死の誘惑テンプテーション!』

 ユーゴの声が届いた者は目を伏せたが、この軍勢だ。皆が大きく前に出たアレクサンドに注目している。

「さぁ皆! 殺し合うがいいよ!」
 
 アレクサンドと目が合った味方達は武器を抜き、後方の兵士たちに斬りかかった。

「まずい……アレクサンドの奴あの様な力を……」
「私に任せて!」

 エミリーが空高く浮遊し、頭上に大きな聯気れんきの玉を作った。

『治療術 快癒かいゆ!』

 聯気の玉は大きく弾け、味方同士で争っている皆に降り注いだ。
 圧縮と聯気で更に効果の上がった治癒のシャワーがアレクサンドの眼の力を打ち消し、皆の武器を持つ手が止まった。
 同時に負傷した兵士の傷を癒す。が、全ての兵士を治療出来た訳では無さそうだ。

「なっ……なんだと……?」

 アレクサンドは信じられないといった表情でエミリーを睨みつけている。
 エミリーはアレクサンドに見向きもせず叫んだ。

「怪我人を後ろに下げて治療して! 誰も死なせちゃダメだよ!」

 同時にメイファが通信で後方の軍に指示を出す。

「怪我人を後方に下げて治療だ。四肢の欠損がある者は適切に保存する事。そして増援を頼む」
 
「了解」と仙王の長兄ライアンが自軍に指示を出し始めた。

 一瞬の攻防、エミリーの快癒は万能だ。
 敵はアレクサンドの眼の力で、こちらの戦力の大半を削ぐつもりだったのだろう。予想外の事に驚き敵の動きが止まっている。
 
 それを好機と里長が動いた。

「若造共が、身の程を知るが良い。儂が『龍王』たる所以ゆえんを見せてやろう」

 里長が浮遊術で浮き上がり、軽く両手を開く。

 雷霆万鈞らいていばんきん

 ――雷遁らいとん
 
 雷属性の特異能力だ。
 気力で空を駆ける程に精度を高めた聯気れんきで、更に威力が増しているだろう。
 無数の雷の柱が敵軍に降り注ぐ。

『ギィヤァァ――!!』

 無数の雷に打たれた敵兵達の叫びが木霊する。
 しかし奴らの幹部を筆頭に能力の高い者たちは、各自見たことも無い守護術を張って降り注ぐ雷を防いでいる。

「ほう……やりおる」

 かなりの数を削った。しかし、敵の回復術師も優秀だ。
 敵を襲う里長の強力な遁術を目の当たりにして、軍の士気が上がっている。
 仙王の怒号が響き渡った。

「仙龍連合軍! 奴らを根絶やしにしてしまえ! かかれェ――!!」

 お互いの攻撃で兵士を減らしたが、味方は補充済だ。
 互いの兵士が入り乱れる大混戦となった。


 
 最前線で雷遁を放った里長の傍に、シャオウとヤンガス、シュエンが駆けつけ両脇についた。里長の警護はあの三人なら十分すぎる。
 
 ユーゴは魔神ルシフェルを探す。
 奴は眼の色が琥珀色になっていた。魔眼の相手はユーゴにしかできない。

 その時、四人に向けて術が飛んできた。

『守護術 堅牢・陣』

 その術はヤンガスの守護術に打ち消された。

「ほう……懐かしい術が飛んできたと思うたらお主か」
「お互い年を取ったのぉ、龍王」

 老人が里長に話しかける。見たところ原初の鬼族か。その横には鬼王シュテン。青年と一際大きい初老の男。 
 四人の鬼族が里長達四人の前に立ちはだかった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理! ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※ ファンタジー小説大賞結果発表!!! \9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/ (嬉しかったので自慢します) 書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン) 変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします! (誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願 ※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。      * * * やってきました、異世界。 学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。 いえ、今でも懐かしく読んでます。 好きですよ?異世界転移&転生モノ。 だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね? 『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。 実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。 でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。 モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ? 帰る方法を探して四苦八苦? はてさて帰る事ができるかな… アラフォー女のドタバタ劇…?かな…? *********************** 基本、ノリと勢いで書いてます。 どこかで見たような展開かも知れません。 暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...