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第六章 四種族大戦編
開戦
しおりを挟む各自朝食を済ませ、軽食を持参して整列している。
各軍隊長の指示で北に向け進軍を開始した。
仙族軍 仙王ラファエロ
龍族軍 龍王クリカラ
仙人混合軍 仙王長兄ライアン
王国軍一隊と二隊はそれぞれ二人の王の実弟が軍隊長を務めている。
それぞれ二万づつの五軍隊で、合計十万。
二人の国王は、王国軍上層の反対を押し切って仙族隊に所属している。
皆が聯気による浮遊術を習得している。が、十万の兵士の進軍だ、速度はどうしても落ちる。しかし午後には山間の平地を越えるだろう。
光エネルギーによる光速通信機の小型機を各軍に二つづつ配布されている。里長以外の各軍隊長が付けているようだ。各軍それぞれもう一人づつ付けている。
ある一定以上の精度の聯気で送信が出来る。仙王からの通信が飛ぶ。
「わざわざ皆を集める事はせんかったが、敵は我々とほぼ同じタイミングで進軍を始めた」
「えっ……たまたま今日進軍を開始する予定だったのか、オレ達に合わせたのか……」
「まさかとは思いますが、向こうにもこちらの動きを見ることが出来る者がいるのでは……?」
皆が各々の考えを述べる中、仙王が話を進める。
「何とも言えんな、はなから一日休んでそのまま出る予定だったのかもしれん。我が軍の方が数が多い、このままいけば予定通り山間の平地でぶつかるだろう。そのつもりで各軍指示を出してくれ」
『了解』
◇◇◇
順調に行軍し、間もなく戦場の平地。
「敵も間もなく戦場に差し掛かる、皆の気を引き締めよ。龍族軍、我々仙族軍と並び山間の平地に入るぞ」
「承知しました」
仙王の通信にメイファが答えた。
「間もなくか。シュエンよ、魔力障害であったとはいえ、お主にとって奴らは数年行動を共にした仲間であろう?」
「……そうですね。気の良い奴らでしたが、中身はあの通りの悪党です。あの魔神を復活させようと画策するような奴らですから。錬気術を奴らに指南してしまった事に責任を感じています……」
「気に病むでない。あの話を聞いてお主を責める者などおらぬ」
「はい……俺は龍族です。我々に仇なす敵なら誰であれ斬り捨てますよ」
「左様か、ならば良い」
そして、里長は皆に鋭い目を向けて念を押すように言った。
「お主ら、周りの誰が倒れようとも後ろを振り返るな。目の前の敵から目を逸らさぬ様に」
そこにいる皆が静かに頷いた。
里長が常に皆に伝えていた言葉だ、一瞬の隙が命取りの戦場で他事を考えている暇は無い。
仙龍両軍を先陣に山間の平地に差し掛かり、魔鬼連合軍と対峙した。
我が軍の先頭には仙王と龍王、その両脇にそれぞれの幹部が並んでいる。
敵軍の先頭には魔王マモンと鬼王シュテン、その脇にはアレクサンドと、サランと呼ばれていたダークブラウン髪の仙人、そして魔神ルシフェルだ。
――あれ……ヴァロンティーヌさん達がいる……何でだ?
マモン達が滞在中に交流があったという事か。
新旧四王が睨み合っている。
先に口を開いたのはマモンだった。
「お久しぶりね。この日を心待ちにしてたの、せいぜい楽しみましょ」
「戦を楽しむだと……? 貴様らの暇潰しで命を落とす者も出るのだ。ここで再起不能になるまで叩き潰してやろう」
アレクサンドが前に出る。
「お祖父様、久しぶりだね。国外追放にしてくれたお陰で毎日が楽しいよ。さぁ、ショータイムといこうか!」
アレクサンドは自分に注目を集めるように、浮遊して大袈裟に手を広げている。
――これは……不味いぞ……。
ユーゴは脳裏に映る惨状を視て叫んだ。
「みんなァ! アレクサンドの眼を見るなァ――!!!」
『魅了眼 死の誘惑!』
ユーゴの声が届いた者は目を伏せたが、この軍勢だ。皆が大きく前に出たアレクサンドに注目している。
「さぁ皆! 殺し合うがいいよ!」
アレクサンドと目が合った味方達は武器を抜き、後方の兵士たちに斬りかかった。
「まずい……アレクサンドの奴あの様な力を……」
「私に任せて!」
エミリーが空高く浮遊し、頭上に大きな聯気の玉を作った。
『治療術 快癒!』
聯気の玉は大きく弾け、味方同士で争っている皆に降り注いだ。
圧縮と聯気で更に効果の上がった治癒のシャワーがアレクサンドの眼の力を打ち消し、皆の武器を持つ手が止まった。
同時に負傷した兵士の傷を癒す。が、全ての兵士を治療出来た訳では無さそうだ。
「なっ……なんだと……?」
アレクサンドは信じられないといった表情でエミリーを睨みつけている。
エミリーはアレクサンドに見向きもせず叫んだ。
「怪我人を後ろに下げて治療して! 誰も死なせちゃダメだよ!」
同時にメイファが通信で後方の軍に指示を出す。
「怪我人を後方に下げて治療だ。四肢の欠損がある者は適切に保存する事。そして増援を頼む」
「了解」と仙王の長兄ライアンが自軍に指示を出し始めた。
一瞬の攻防、エミリーの快癒は万能だ。
敵はアレクサンドの眼の力で、こちらの戦力の大半を削ぐつもりだったのだろう。予想外の事に驚き敵の動きが止まっている。
それを好機と里長が動いた。
「若造共が、身の程を知るが良い。儂が『龍王』たる所以を見せてやろう」
里長が浮遊術で浮き上がり、軽く両手を開く。
『雷遁 雷霆万鈞』
――雷遁?
雷属性の特異能力だ。
気力で空を駆ける程に精度を高めた聯気で、更に威力が増しているだろう。
無数の雷の柱が敵軍に降り注ぐ。
『ギィヤァァ――!!』
無数の雷に打たれた敵兵達の叫びが木霊する。
しかし奴らの幹部を筆頭に能力の高い者たちは、各自見たことも無い守護術を張って降り注ぐ雷を防いでいる。
「ほう……やりおる」
かなりの数を削った。しかし、敵の回復術師も優秀だ。
敵を襲う里長の強力な遁術を目の当たりにして、軍の士気が上がっている。
仙王の怒号が響き渡った。
「仙龍連合軍! 奴らを根絶やしにしてしまえ! かかれェ――!!」
お互いの攻撃で兵士を減らしたが、味方は補充済だ。
互いの兵士が入り乱れる大混戦となった。
最前線で雷遁を放った里長の傍に、シャオウとヤンガス、シュエンが駆けつけ両脇についた。里長の警護はあの三人なら十分すぎる。
ユーゴは魔神ルシフェルを探す。
奴は眼の色が琥珀色になっていた。魔眼の相手はユーゴにしかできない。
その時、四人に向けて術が飛んできた。
『守護術 堅牢・陣』
その術はヤンガスの守護術に打ち消された。
「ほう……懐かしい術が飛んできたと思うたらお主か」
「お互い年を取ったのぉ、龍王」
老人が里長に話しかける。見たところ原初の鬼族か。その横には鬼王シュテン。青年と一際大きい初老の男。
四人の鬼族が里長達四人の前に立ちはだかった。
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