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第六章 四種族大戦編

首脳会議

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【三年後 ウェザブール王都】

 今年の冬は例年よりも厳しかった。
 平地で雪が積もる事は稀だが、今年は積雪で商人の馬車が動けなくなる日もあったらしい。
 もうすぐ春だ、ユーゴ達は里から王都に来ている。
 
 龍王である里長は同族を守るために移住を決意した。
 しかし、有事の際には仙族と共闘する事を約束している。今がその有事だが、里の民がこぞって戦への参戦を志願した。
 聯気れんきは全ての龍族の戦闘力を更に底上げした。リーベン島を直接攻められる心配は殆ど無く、全ての兵が前線に来ることが可能だ。 
 フドウの里の民およそ八万のうち、二万の兵が里に控えている。通信を受け次第、最短二日で王都に到着する。留守の里の民の戦力もかなり高い、里の守りは問題ない。

「龍王、レイ殿以下龍族の皆、招集に応じて頂き感謝申し上げる。魔王達の襲来からまもなく五年、魔族と鬼族の連合軍が動き出す日も近い。皆に集まって貰ったのは意思共有の為だ、自由に発言して貰って構わない」

 仙王の挨拶から始まったこの会は、二つの城の間にある大ホールで行われている。
 龍族側からは里長と神龍レイ以下、シャオウやメイファ、ヤンガスやシュエン等約20名。仙族と王国の上層部が集まりかやりの人数になっている。各町からも領主以下数人づつが招集されている。

 まずはシャルロット女王が挙手し、演台に立った。

「ウェザブール国王の一人、シャルロット・ベルフォールです。まずは私から一つ皆様に紹介したい物がございます」

 ――おぉ……シャルロット女王が普通に喋っている……。

 明らかなよそ行きの声は拡声器に乗って良く通る。

「まず、私は光の自然エネルギーを利用した長距離通信システムを発明しました。現在の所、我が城とオーベルジュ城と各町、北の砦と仙神国、龍国にそれぞれ設置しています。情報があれば優位に戦を進めることが出来る、そこで開発したのがこちらです」

 そう言ってシャルロット女王は小型の機械を頭上に掲げた。

「これは小型の光通信システムです。片耳に装着する事で受信した声を聞くことができ、内蔵したマイクで声を送信することが出来ます。ここまでの小型化に成功したのは、聯気れんきのお陰です。ただ、ある一定以上の精度でなければ扱えません。各軍に二つづつ渡す事になると思います」

 皆が感嘆の声を上げている。
 素晴らしい発明だ、確実に優位に戦を進めることが出来る。女王の発明を皆が大きな拍手で称えた。女王は両手を上げてそれに応える。


 次にレオナード王が挙手し発言を求め、演台に立った。

「ちゃんボク……コホン……私はウェザブール国王の一人、レオナード・オーベルジュです。私からは最前線の状況についてです」

 ――ギリギリ普通に喋ってる……ボロが出そうだけど……。

「まず、大昔の大戦の時からあるデートリ……いや、砦は常に改修を重ね今もそのまま残っています。その東に更に大規模なデッ……砦を建設しました。東西二つの砦には十万以上の兵が収容可能です。この砦の建設にあたり、徴税に応じてくれた全ての国民に感謝申し上げる。皆様には近日中に砦の案内を致しましょう」

 ウェザブール王国は500年ほど前から税金を取っていない。それは二王家とその関連企業の財が途轍とてつもないのと、各町の企業からの寄付金で全てが賄えるからだ。今回の大幅な軍備拡張の為、王は500年振りの徴税を決定した。
 しかし、ほとんどの国民は税金を納めずとも豊かな暮らしを提供してくれる王家に対し、喜んで徴税に応じた。賢王の善政がこの国の平和を守っている事を国民は知っているからだ。


 その他、各々の軍に関する報告がなされた。
 仙族三万、龍族二万、ウェザブール王国軍八万。ただ、王国内の全ての兵を動員してしまうと町の警備ができない。残念ながら町には無法者がいる、警備に当てる兵も必要だ。割ける王国軍は五万程だろうという話だ。

 仙王が総括して締めの挨拶を始めた。

「魔族と鬼族を合わせて、多くとも五、六万程であると見ている。数ではこちらが圧倒しているが、奴らは新たな戦闘法を習得していると見て良い。しかし、我々の戦力も五年前とは比にならん程に向上した。殆どの兵が戦争を知らない。しかし安心して欲しい、君達は強い。敵に動きがあればすぐに連絡する、それまで英気を養ってくれ。以上、解散!」

 皆が立ち上がり敬礼をする。龍族は一礼してその場を離れた。

 
「やぁ、ユーゴ君。久しぶりだね」
「あぁオリバーさん、お久しぶりです。試験以来ですから三年ぶりですか」

 オリバーとその部下達だ。レトルコメルスは王都に次ぐ都市で兵も多い。オリバーはその軍のトップ、言わば王国軍の重鎮だ。

「そう、あの試験から三年経つからね、あの時の四人は無事に騎士団に入団したよ。今から会いに行こうと思っているんだが、ユーゴ君もどうかな?」
「そうですか! 気になってたんです。是非ご一緒させて下さい」
「あー! 私も行きたい!」

 後ろからエミリーが手を挙げて割り込んで来た。

「おぉ、見違えたねエミリー君。美しい女性に成長したもんだ」
「おっ! オリバーさん見る目あるねぇ!」

 ユーゴ達はもうすぐ25歳になる。
 一番変わったのはエミリーだ。背が少し伸びて大人びたのは勿論だが、母親のリヴィアに似てかなりスタイルが良くなった。憧れの胸の膨らみを手に入れている。アレクサンドも顔だけは良い。
 ただ、性格とギャンブル狂いは全く変わらない。


 城から北エリアに移動し、騎士団の詰所を目指す。
 騎士団は八万の王国軍のうちでも五千人に満たない精鋭だ。昇化した者も多く、かなり戦闘能力が高い。

 立派な鉄格子の門前、守衛の連絡で軍服を着た騎士が奥から出てきた。

「これはオリバー団長、ようこそいらっしゃいました」
「久しぶりだね、でも現団長に失礼だよ」
「あぁ……失礼いたしました……どうぞこちらへ」

 ――団長? オリバーさんって元騎士団長なの……?
 
 騎士団長室に案内され中に入る。

「これはオリバー団長。お久しぶりです」
「テオドール……君もか……」
「ハハハッ! 冗談だってオリバー! 随分と久しぶりだな、元気にしてたか?」

 騎士団長『テオドール・ロペス』だ。ユーゴ達も何度か顔を合わせている、会えば話す仲だ。

「あら、エミリーちゃん! 会わないうちに随分と美味しそうになったじゃない!」
「うん! お久しぶりです! けど、美味しそう? 何が?」
「エミリー君……この男には気をつけた方が良いぞ……」

 テオドールは女好きで軽い。
 部下に手を出すような事は無く、問題を起こしたことはない様だが。
 エミリーは首を傾げながらとりあえずスルーした。

「今回の卒業生は粒揃いだったね。その中でも特にオリバーのとこの子がとんでもない事をやってのけたよ。しかも二人もね」

 ――とんでもない事……? まさかロンが……。

 この言い方は悪いほうでは無さそうだ。

「とりあえず案内するよ、会ってやってくれ」

 テオドール団長の後について施設内を移動した。
 
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