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第五章 四種族対立編
模擬戦
しおりを挟む一人目は『ミゲル・シルバ』だ。
ユーゴと同い年の22歳。色黒の大柄な男で、武器は両手大剣を持っている。
気は抜けない、お互い正面に構える。
ミゲルの剣戟を守護術で防ぐ。
パワータイプの弱点が全面に出ている。大振りな剣戟で攻撃後の隙が大きく、避ける度に反撃が可能だ。こちらからの攻撃にも反応できていない。
ある程度受けた後に、後ろに周り大きく開いた脇腹に峰打ちを入れた。そもそも模造刀だ、峰で打たなくても良いのだが。
しかし、本気で振れば刃が無くとも斬れてしまう。ミゲルはそのままうずくまった。
「パワーがあってスピードも遅くない。けど、攻撃後の隙が大きすぎます。気力と補助術の精度を更に高めれば剣の精度も増し、その隙も自ずと埋まるはずですよ」
「はい、ありがとうございました……」
脇腹を押さえて引いていくミゲルと入れ違いに女性が前に出る。
二人目は『ミリアム・グレコ』19歳。
色白の小柄な女性だ。小さい身体でスピード重視の双剣使いだ。
二本の剣がユーゴに襲いかかる。
やはり速い。ただ、それだけだ。無数の剣戟を浴びせられるが、剣が軽い。何と言えば良いだろうか、教科書通りの剣といった感じだ。
反撃し、飛んで伏せた彼女の眉間辺りに切っ先を向け動きを止めた。
「速いですね。ただ攻撃が一辺倒で読みやすい、避けるのが容易だという事です。もっと動きにバリエーションを持たせた方がいい。ミリアムさんはサポートで動く事が多いでしょう。騎士団はチームだ、読まれる様な動きはまずい」
「はい……分かりました」
――んー、厳し過ぎるかな……。
毎年五人程しか受からない試験だ、優しすぎるのも良くない。
さて、最後はユリアンだ。オーソドックスな両手剣を持っている。
最初は騎士でもないユーゴに懐疑的な目を向けていたが、二回の模擬戦で認めたようだ。やる気に溢れている。
「よろしくお願いします」
「あぁ、いつでもいいよ」
彼はさっきの二人以上に龍眼で警戒しないといけないだろう。守護術と強化術を張り直し、動きを視る。
――正面から来る……って速っ!
模造剣が重なり金属音が鳴り響く。龍眼で動きは分かるが、変則的な動きで惑わされる。眼前で伸びてくる様なイメージだ、アレクサンドと剣を合わせた時に似ている。
速いうえに重い、そして技が多彩だ。ユーゴの攻撃にも瞬時に反応する。ユリアンは埒が明かないと思ったのか、バックステップで少し離れた。
『剣技 刺突剣』
バックステップからの流れるような剣突。
――ヤッバ……止まれっ!
ユーゴは瞬時に後ろに移動し、ユリアンの背後から首元に模造刀をつけた。ユリアンは両手を上げ降参する。
本気で攻撃ができないとはいえ、思わず神眼で時を止めてしまった。
ユリアンの聯気の精度はかなりのものだ。おそらく早い段階で自然エネルギーの体内増幅が出来ていたのだろう。
「一本入れるつもりで攻撃したんですけどね。目の前で消えるほどのスピードで避けられるなんて……手も足も出なかった」
――いや、殺すつもりで来ただろ……。
驚きを隠しながら平常心を装う。
「オレもかなり修練を積んできたからね、まだ一本取られる訳にはいかない」
見ていた二人はあんぐりと口を開けて放心状態だ。それほどまでに15歳のユリアンは凄かった。ユーゴの対人戦の未熟さが浮き彫りになった。
――気付かせてくれてありがとう、模擬戦を増やそう……。
◇◇◇
全ての試験が終わり、試験官六人で話し合い合格者を決めた。
整列した受験者18人の前にオリバーが立つ。
「皆、本来の力は出せたかな? 早速だが合格者を発表しよう」
皆の緊張が伝わってくる。
「ユリアン・ネール、クララ・ロバーツ」
ユリアンは軽く拳を握ったが表情には出さない。クララはホッとした表情だ。
「ロナルド・ポートマ……」
「ぃよぉ――っし!」
ロンが発表を遮る様に、両手を上げ大声で喜びを爆発させた。
「あっ……すみません……」
「コホン……では最後に、ペドロ・オーランド」
ペドロ・オーランド。
基礎能力試験ではパッとしなかったが、模擬戦で力を発揮したようだ。盾役としての適正と高い攻撃能力で試験官から一本取ったらしい。
「今回の合格者は以上四名。君達はまだ騎士になった訳じゃない、騎士団学校に入学する権利を得ただけだ。まだスタートラインにも立っていないことを忘れないように」
『はいっ!』
「王都の騎士団学校に向け出発するのは二週間後だ、詳細は後ほど伝えよう」
『はいっ!』
大して心配はしてなかったが、ロンが無事に合格した。オリバーの言う通りまだ始まってすらいない、これからが本番だ。
夜はクラブPerchを臨時休業にして、ロンの壮行会が開かれた。
「皆さん、前の店から三年間お世話になりました。俺は夢への一歩を踏み出すことが出来ました、二週間後には王都に向かいます……」
ロンは涙を浮かべ言葉を詰まらせた。エマ達は笑顔でいるが、目には光るものがある。
「本当にお世話になりました!」
皆の拍手で宴会が始まった。
「ロンおめでとう!」
「ありがとう! ユーゴさんに一番お礼を言わなきゃいけない。本当にありがとう」
「いやいや、まずはハオさんだろ。頑張れよ」
「うん、ハオさんの所にも行ってくるよ」
二度と会えない訳ではない、皆がロンの門出を心から祝っているのが分かる。
騎士団学校は三年間、三年後には魔族達が動き出す可能性が高い。順当に行けばロンも前線に立たなければならないだろう。
騎士はロンの夢だ、ユーゴがとやかく言うことではない。それは分かっているのだが。
今は夢を追うロンを応援するだけだ。
【第四章 四種族対立編 完】
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