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第五章 四種族対立編
狭き門
しおりを挟む「まずは基礎能力の確認です。ここから南東に行くと山があり、そこにしか咲かない山百合があります」
そう言って、燃えるように真っ赤な山百合を皆に披露した。
「これを正午までに取ってきて頂きます」
――あの山か、常人が普通に歩けば野営一泊だな。
それを正午までにとなると普通の人族なら無理だ。仙術を習得して間に合うかどうかといったところか。
軍人なら聯気を習得している者もいる、その精度と使い方次第だ。
試験官の合図と共に皆が飛び立った。浮遊術を扱えないものは補助術で強化し走って行った。
あの山にはAランクの魔物が出る。これは個人戦だ、戦闘能力も試される。死人が出ないように数人の騎士が同行して飛んで行った。
◇◇◇
正午まではまだまだある、試験官は特にする事が無い。優雅に紅茶を啜っていると、早くも一人目が帰ってきた。
年の頃はロンと変わらない。
かなり美形の少年が、息も乱さず持ち帰った山百合をオリバーに手渡した。
「ほぅ、やはり一番は君か、ユリアン」
「えぇ、待ち望んだ登用試験ですから。一番は誰にも譲りませんよ」
オリバーがやはりと言うくらいだ、かなりの使い手なのだろう。ロンが一番で帰ってくると思ったが、上には上がいるものだ。
その後、二十歳前くらいの女性の後に、少し時間を置いてロンが帰ってきた。
「俺、何番だった!?」
山百合をユーゴに手渡しながらロンが問いかけた。
「三番だ」
一番取るつもりだったのだろう。しかし、悔しい思いをするのはいい事だ。
「三番!? やったー! やるじゃん俺!」
――あぁ……こいつそっちのタイプなのか。
さっきユリアンという少年は、待ち望んだ試験だと言った。ロンと同い年だろう。
「ロナルド君、さすがユーゴ君が推薦するだけある。ユリアンの良きライバルになってやってくれ」
「はい! よろしく、ユリアン君!」
「あぁ、こちらこそ」
ユリアンはクールにそう答えた。
甘いマスクがさらにクールを際立たせる。
審査員は名簿を渡されている。
まずは『ユリアン・ネール』15歳。
オリバーの側近の息子らしい。
二番目はオリバー直属の部下『クララ・ロバーツ』18歳。
領主の推薦枠で受験しているようだ。
そして三番目にロナルド・ポートマン。
この三人が飛び抜けて早かった。
正午までに帰ってきたのは18人、総受験者の十分の一以下にまで減っている。
「それでは昼食にしましょう。食堂で済ませ、午後にここに集まってください」
試験官には別室で昼食が用意されている。
「18人か、まぁ大体例年通りだね」
「えぇ、ちょうど三人づつですね。キリがいい」
――三人づつ?
分けてチーム戦でもするのだろうか。
「上位三人を誰が持つかだね」
「えぇ、あの三人は強いですね」
――ちょっと話が読めないな……。
「あの……試験の内容説明いただけますか?」
「あぁそうだね、午後からは我々試験官との模擬戦だ。実際手合せするのが一番手っ取り早く分かり易いからね」
「なるほど……オレたちは守護術等で防御しながら攻撃を受けるって事ですね」
「あぁ、受けながら少し攻撃もしてやって欲しい。騎士団が必要とするのはオールマイティな戦士だ、模造剣を使うとはいえ油断してたら大怪我するよ」
「そうですね……本気で守らないと」
各町の領主や、その上層の部下達のほとんどは騎士団出身者らしく相当戦闘能力が高い。そんな人達と手合せできるという事だけで、この試験を受ける価値があると受験者は相当張り切っている様だ。
「ユリアンはほぼ身内だからね、ユーゴ君に頼めないかな?」
「はい、分かりました」
「ロナルド君は私が見ようか。クララはダミアンに任せる、ユリアンが心配だろうがね」
「分かりました」
ダミアンはユリアンの父親らしい。あの子を育てた上にオリバーの側近だ。相当強いに違いない。
他の受験者を到着順に割振って、食後のティータイムを楽しんだ。
本気で守らないと殺されてしまいそうだ。しっかり鎧を身にまとう。他の五人は明らかに質のいい金属鎧だ。
「ほぅ……それがニーズヘッグの革鎧か……」
「え? あぁ、そうですね」
皆がユーゴの革鎧を舐め回す様に観察している。伝説の魔物の革だ、当然の事だろう。
食事を終えて演習場に戻ると、受験者達は軽く身体を動かしていた。それぞれ用意された模造剣を振って手に馴染ませている。
模造刀もある。ユーゴもロンも使うから用意してくれたのかもしれない。模造刀を手に取り軽くウォーミングアップだ。
「皆、これから二次試験を行う。内容は我々試験官との模擬戦だ、全力で掛かってきてくれて構わない」
そう言って、先程決めた割振りを皆に告げ、受験者が六人の試験官の周りに集まる。
ユーゴの所にも三人。
順番は到着順位が低い者から行うという事だった。移動速度が早いということは、気力の精度が高いという事だ。能力が高い者の戦闘を見て萎縮しないようにという配慮だろう。
「どうも、ユーゴ・グランディールと言います。王国騎士団の出身ではありませんが、縁あって試験官を任されました。早速始めましょうか」
ユーゴの礼の後に三人も一礼し、一番目の男を残し二人は下がった。
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