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第五章 四種族対立編
チームワーク
しおりを挟む【同時刻 レトルコメルス】
ユーゴは主に里で生活し、たまにレトルコメルスまで飛んでくる。
純粋な気力で空を駆ける事が出来る様になるまで一年と少しかかった。それ程までに難易度が高いものだった。しかし、そのお陰でユーゴの気力の質は全くの別物になった。その気力で作る聯気は術を別物に変えた。
「ロンはもう少しかかりそうだな」
「うん、これは難易度が高すぎるね……でも、気力の質は二年前とは別物になってるのを感じるよ」
「刀の斬れ味が更に上がるぞ。オレ達に切れないものは無いんじゃないかと思うくらいにな」
今日は四人でレトルコメルスまで来ている。
トーマスとジュリアは里で居を構え一緒に住んでいる、二人は本当に仲がいい。
あのだらしなかったジュリアは今や家の掃除までする様になった。いや、普通の事なのだが、ジュリアが身の回りの掃除をするなんて考えられなかった、すごい進歩だ。
料理はしない様だが、それはトーマスの趣味だ。全く問題ない。
「ロンは春には騎士団の登用試験だもんな。エマたちももうSSランクに挑戦か……ホント強くなったよな……」
エマ達三人は一年かけて錬気で空を駆けた。聯気も以前とは別物になり、軽くSランクの昇級試験をこなした。今日はロンと四人でSSランクの試験を受ける。
SSランクの冒険者など誰でもなれるものではない。当然世界にも多くない。ロンやエマたちは純粋な人族だ。
仙王の直接指導や、龍族のトップから直接指導を受けたユーゴ達の指導、更にはユーゴ達がアップデートし続けている新たな最高峰の戦闘法をすぐに実践できる事が、戦力の大幅アップに繋がっていることは間違いない。
当然それを習得出来る本人達のセンスや努力ありきではあるが。
「ロン君、待たせちゃったね」
「いいよ、他の冒険者と行くのは嫌だったからね。SSクラスとなると信頼出来る人達じゃないと」
話しながら歩き、冒険者ギルドに着いた。
ユーゴ達は一切口を出さない、何を受けるかはロン達の自由だ。
「SSは……これか」
「フェンリルだってさ、どんなのだろ」
――フェンリルか、二年でまた出てきたのか。
この魔物達は次から次に何処から湧いて出てくるのだろうか。あのレベルの魔物が繁殖するのはまずい、定期的に仕留める者がいないと。
「じゃあ、フェンリルで決まりね!」
腹ごしらえは済んでいる、皆でフェンリルの生息地までひとっ飛びだ。
変わらずユーゴ達は全く口を出さない。
いや、別に喋っても良いのだが。なんかヒント与えてしまいそうで皆喋らない。全て自分たちで討伐してこそのSSランク冒険者だという事で、四人の総意を汲んでの事だ。
「うわ……魔力凄いね……」
「よし、みんなに強化術掛けるね!」
「そうだね、ニナのが一番効果高いし」
「エマさん、俺たちは刀に聯気込めとこうか」
「うん、ロン君がメインで私はサブアタッカーとして動くね。新しい刀にも慣れてきたし、腕が鳴るよ!」
四人は移動速度が跳ね上がった事で、一度里に遊びに来たことがある。
エマ達三人はその時に、ヤンガスから二級品でも上位の刀を貰っている。売りに出すとこだったが欲しいならやるよという事で、払う要らねぇの押し問答の末に手に入れた刀だ。ヤンガスにとっては納得いかない刀の様だが、十分良い刀だ。
ロンには一級品を勧めたが、そのままユーゴが買い与えた刀を使い続けたいらしい。四人全員がヤンガスの二級品上位の刀を扱っている。
盾を構えたジェニーを先頭に、四人はフェンリルの方に飛んだ。
相変わらず目に見える程の禍々しい魔力を垂れ流している。
『守護術 堅牢!』
ジェニーは飛びながら守護術を張る。ティモシーの教えを忠実に守った良い守護術だ。
フェンリルは四人を視界に捉えるなり、強烈な火魔法を放ってきた。
『水遁 大津波!』
ニナの水遁がフェンリルの火魔法を相殺した。いや、少し押し負けたがジェニーの守護術で問題なく防御する。
ニナは魔力操作が上手い。その上魔力の感度が良い為、相手が何を放ってくるかの判断が早い。これはかなりの才能だ。
ジェニーはニナのサポートでフェンリルの攻撃を完璧に受けている。ヤツの敵意は完璧にジェニーに向いている。
問題はアタッカー側だ。
フェンリルは巨体な割にかなり素早い。バックステップで勢い付けて牙を剥いたり、左右に振って牽制したりもする。ジェニーに敵意が向いているとはいえ、不用意に近付いて攻撃を外そうものならどんなカウンターが飛んでくるか分からない。現にニナの途絶がことごとく避けられている。
ユーゴがフェンリルを倒した方法は龍眼ありきだった、ロンとエマはそうはいかない。
するとエマはフェンリルの真横に距離を置き、刀を納めて構えた。そして瞬きもせずフェンリルの動きを見ている。
『居合術 閃光』
聯気を纏ったエマの刀は、自身のスピードと抜刀の速度に乗ってフェンリルの両後脚を斬り落とした。
『剣技 斬罪!』
すかさずロンが後脚を無くし、動けなくなったフェンリルの首を刎ねた。
「お見事!」
「やった!」
ユーゴ達はやっと声を上げた。
「いやぁ……自分の時より緊張したね……」
「あぁ、確かにアタシがハラハラしたな……」
見事にフェンリルを仕留めた四人に近づいた。四人でハイタッチして喜びを分かちあっている。
「もう立派な冒険者だなぁ……」
「ほんと、僕たちも負けてられないね……」
「ユーゴ君、やったよ!」
「あぁ、見事な居合だったよ、ロンとの連携も完璧だ。盾もサポートも、もう一流のパーティーだな」
◇◇◇
レトルコメルスに戻って領主の屋敷に討伐報告に来ている。
「オリバーさん、お久しぶりです」
「やぁ、まさかエマがSSランクの冒険者になるとはね……SSが四人もいる店ならもう何が来ても大丈夫だ」
「はい、最近店も平和なんです。もう安心かな?」
クラブPerchはマフィアの構成員達を女性二人で追い返した店としてかなり有名になっている。有名なナーガラージャの一員だ、下っ端であれ他は知る由もない。そのせいか、娼館から引き戻しに来る奴が激減したらしい。
「ロナルド君、騎士の登用試験はもうすぐだ。形式上試験は受けてもらうが、SSランクの冒険者が落ちる事は万一も無い。人間性の欠落を除けばな」
「人間性の……欠落……ですか? 頑張ります……」
「まぁ、心配する事は無い、騎士団はチームだ。自身の力を過信することなく、仲間を大切にしようと言う事だ。君が今している事と何ら変わりはない」
「分かりました!」
ロンなら大丈夫だろう、四人のチームワークで勝ち取ったSSランクだ。
四人はSSに変わったカードをニコニコ眺めている。誰もこの時の反応は一緒だ。
里長達を除けば。
領主の屋敷を出て各自汗を流しに帰り、予約している冒険野郎に集まった。
「SSランクおめでとー! カンパーイ!」
無駄な言葉は要らない、今日はとことん楽しもう。
「まさか私達が冒険者になったうえにSSランクのカードを持つことになるとはね……」
「ホント、人生何があるか分からないよ」
エマとジェニーはあの時ユーゴとトーマスに声を掛けてなければこうはなっていなかっただろう。確かに何があるか分からない。
「SSの冒険者の防具がロックリザードの革鎧ってのもね、そろそろ新調する頃合じゃない? 」
「そうだなぁ、大量のヤトノカミの皮はあるけど、そんなの貰ったら引くだろ?」
「いやいや……貰えないよそんなとんでもないの……」
防具の素材は自分で討伐してこそだと思う。
トーマスはヤマタノオロチの革盾を貰ったが、師匠からその力があると認められての事だ。
「コカトリスの革はいいけど、正直あれの討伐はおすすめしないね……」
「あぁ……アタシも死にかけたしな……」
「ジュリアちゃんが……私達なら死んじゃうね……」
「じゃあ、手頃なのはワイバーンかな?」
「そうだな、あれは錬気じゃないと斬れない。ジュリアは圧縮仙術で爆発させてたけど……ロックリザードより良い皮なのは間違いない」
もうSランク程度なら一人で仕留められるだろう。昇化してない人族で最強の四人なのではないだろうか。
魔力と気力は少ないため長期戦は向かないが、瞬発力はかなり高い。戦闘のセンスもある。前線には立って欲しくないが。
エマの店は店休日だ、楽しい夜は遅くまで続いた。
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