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第五章 四種族対立編
咒力
しおりを挟む【二年後 魔都シルヴァニア】
冬ももうすぐ終わる。
昼食後、演習場では鳥のさえずりが聞こえ始めている。春はもうすぐそこだ。
「ようやく咒力を物にできたわね」
「このボクですら一年半近くかかったからね……」
アレクサンドに遅れること約半年、マモンとサランとテンが咒力を物にした。ベンケイ達鬼族は元々魔力が少ない為、かなり非効率なようでまだ習得には至っていない。
ルシフェルは半年ほどで錬気による空中歩行を体得し、更に最近になって魔眼を開眼させた。
「やっぱり習得出来るとすればお前らだったか。他はまだ掴めねぇみてぇだな」
「魔力の少ない鬼族達にはキツそうね、あとは兄さん達三人も習得したわ。あとはグラシエルの皆がどうか。あと三年でどれだけ習得出来るかね」
ファーヴニルの様な魔物はもちろん、SSクラスの魔物が放つ魔法は純粋な魔力だけで何故あんなにも威力が高いのかと思っていた。
どうやら咒力を使った魔法のようだ。咒力の精度の高さで威力が更に増す。
咒力は変質させているとはいえ元は魔力だ、ファーヴニルの魔法をマモンが吸収できたのは本当に良かった。
「単純な魔法でこの威力だわ、錬気に自然エネルギーと混ぜたら凄そうね」
それを聞いてルシフェルが首を傾げた。
「何でわざわざ錬気に混ぜるんだ?」
「どういう事……?」
「闘気に混ぜたら魔術だって言ったじゃねぇか」
――何を言い始めたんだろうかこの男は……。
「は……? 闘気はアナタや鬼族しか扱えないじゃない」
「いやいや、魔力を咒力に変える要領で気力を掻き混ぜてみろよ、それが闘気だ」
「へ……? ワタシ達も闘気を扱えるって事?」
言われた通りにやってみると、気力が錬気とは全く違う物に変質した。
「これは凄いわ……全くの別物よ……」
「あれ、オレ様もしかして最初に言わなかったか……?」
「咒力の話しか聞いてないわよ」
「……おい、テン。キミは闘気が扱えるのに、何で咒力に二年もかかった……?」
「オラ達は闘気なんて子供の頃から扱えたから、やり方なんか分からねぇよ……今でも全くの別物に感じるけどなぁ……」
「悪魔族も闘気は皆が扱える。けど、魔力を咒力に変質させるのは全員が出来る訳じゃねぇ。方法は同じでも難易度が違うってことだ」
魔力と気力の扱いは確かに大きく異なる。魔力を変質させることに成功したマモン達には、気力を変質させるのは容易だったという事だ。
とにかくマモン達も闘気を習得した。
「前にも言ったが、属性咒力を闘気に混ぜ込んで放てば『魔術』だ。それを武器に纏って戦うのが天魔剣術だな。自然エネルギーを組み込めば更に威力や斬れ味は増す」
「闘気は気力の節約っていう点では錬気に劣る。ただ、武器の斬れ味は闘気と自然エネルギーの圧勝だ。使い分けが必要だね」
確かに魔族は気力がそこまで多くない、闘気で魔術を乱発すれば気力切れという事もある。自分の気力量を知っておく必要がある。
その日は魔術を放ったり剣に纏って斬れ味を確かめたり、実のある一日だった。
◇◇◇
城で汗を流し、談話室で紅茶を飲んでいる。座り心地のいいソファを置いて寛げる、皆のお気に入りの部屋だ。
「そろそろお呼ばれに行こうかしらね」
今日は食事会に招待されている。
アレクサンドとサランと三人で城下に降り、一際目を引く屋敷の呼鈴を押すと、一人の女性が出てきて円卓のある広い部屋に案内された。テーブルには既に料理が並んでいる。
「よく来た、座ってくれ」
「お招きありがとうね、ヴァロンティーヌ。楽しませてもらうわよ」
「気にするな、こんないい屋敷まで準備して貰ってるんだ。たまには振る舞わせてくれよ」
「ここに呼んだのはワタシよ? 気にしなくていいのに 」
弟のフェリックス、元カポの四人が同席している。皆にワインが行き渡り、乾杯した。
ヴァロンティーヌ達は結局40人程で一年半ほど前に移住してきた。元幹部たちの部屋はそれぞれ用意したが、他は屋敷内の部屋に住み込みで働く者、外に居を構える者それぞれらしい。移住者皆がヴァロンティーヌに心酔している者達だ。
「お陰様で私の洋服はこの国に認められたようだ。この国の女は総じて背が高い、私の作る服のコンセプトに合ってるんだと思うな」
「そりゃ売れるわよ。アナタ程のデザイナーこの国には居ないんだから」
ヴァロンティーヌの屋敷で働く者は基本的には魔都の兵士扱いだ。その他は秘書の女性がいたり、屋敷の維持管理などの仕事、外で仕事を見つけた者もいたりする。皆自由にして欲しいというヴァロンティーヌの願いだ。
「私達の戦闘は錬気術で変わったな、今やほとんどの者が錬気で空を駆ける。今は皆で咒力の習得中だ、あれは高難度だな……」
「えぇ、ワタシ達もやっと習得出来たからね。気長にいきましょ」
元々気心知れた間柄だ、酒を酌み交わせばおのずと盛り上がる。
「マモン、そろそろ鬼国に行かないか? 魔術も習得した事だしね」
「そうね、三日後くらいにする?」
「あぁ、ボクはそれで構わない」
「わたくしも構いませんわ、ルシフェルとテンには伝えておきますわね」
ヴァロンティーヌ達には天界やルシフェルの事など、全てを話している。
「とんでもない魔物がいるんだろうな、気をつけろよ?」
「えぇ、ただの腕試しよ」
男達は外に飲みに行き、マモンとサランは秘書を含めた女達と夜更けまで楽しんだ。
◇◇◇
三日後、予定通り鬼国へ向けて通り飛び立った。ベンケイのヤトノカミに関する記憶はもらっている、場所も完璧だ。
「一週間もかからないはずよね、全力で飛ぶわよ」
旅は順調に進み、五日後。
「大鬼族様のお生き残り様達がせっせと国を建て直してらっしゃるぞ」
テンがたっぷりと皮肉を交えて言った。
「ゼンキ達は全て討ち取ったって言ってたけど、逃れた者もいたみたいね」
仕方なく差別に加担してた者もいたようだ。見逃した人もいたのかもしれない。
「魔術ぶっぱなして全滅させてやろうか」
「まぁ気持ちは分かるがそっとしておいてやれ、これから強敵と戦うのに魔力の無駄遣いは良くない。悪いのは上層部だったのは間違いないんだからね」
「まぁ、そうだな。確かに放っておいてもオラ達に害はない」
更に北西に飛び、午後に目的地に着いた。
「ねぇ……何故ヤトノカミがいないの?」
「気配もありませんわね、本当にここで合ってますの?」
「えぇ、記憶を貰ってるんだもの、間違いないわ。ほら、それらしい洞窟もあるし」
「まぁ、とりあえず入ってみりゃいいじゃねぇか」
魔力を完全に抑えるタイプの魔物である可能性もある。警戒は怠らず、アレクサンドを先頭に洞窟の中に入った。
火魔法で中を照らし進む。
「おい、どういう事だ……」
奥には何も無い。
代わりに粉々になった何かが散乱している。
「何者かが台座を壊したって事……? 誰がそんな事」
「そんな事すんのはここの存在を知ってるモンだろ」
――仙族と龍族達が来て壊したって事?
「だとしたら何のために……壊さなければならない理由があったって事よね」
「これは考えても分からないね……」
確かに考えて分かる事ではない。
これは持ち帰るしかない。
「無駄足だったわ。でも、向こうで何かが起きた事は間違いないわね」
「そうだろうな、じゃなきゃわざわざここまで来てこんな事しないだろうね」
これを収穫と見るかどうか、鬱憤晴らしに魔物を蹴散らしながら魔都への帰路に着いた。
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