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第五章 四種族対立編
マフィアからの呼び出し
しおりを挟むディナーはエマの好きなピッツァとパスタのお店、Perchから近い。今日は酒を飲むのはやめておこう。
「オレはここで紅茶飲んで待ってるかな」
「ちょっとだけミーティングするけど、すぐ出てくるね」
少し待っているとエマが入口から手を振っている、魔力を感じ取れるのはこういう時に便利だ。
「おまたせ!」
「いや、もっと待つだろうと思ってたからな、早い方だ」
目的地は歩いてすぐのところだった。
これか、レオパルドだ。さすがはレトルコメルス二大マフィアのアジトだ、一階のバーは規模が凄い。
マフィアに呼び出される目的が読めない。
――魔力を少し解放しておこう。威嚇の為だ。
「後ろに回れば入口があるんだ」
五階建ての建物の後ろに回り、二階の入口に入ると女性が出迎えた。
「エマ・ベルフォール様ですね、ご案内致します」
少し中に入り、スッキリしたセンスのいい応接室に案内された。
言われるがままにソファに腰を掛け待っていると、背の高い巻き髪の綺麗な女性が入って来て向かいのソファに腰かけた。眼が緑色だ、昇化した人族だ。
「おまたせ、久しぶりだねエマ。お店は好調なようで何よりだ」
「はい、お店を開く時には本当にお世話になりました」
入口で出迎えてくれた女性が紅茶を持ってきて三人の前に置くと、女ボスはカップを持ち上げながらユーゴに視線を向けた。
「お前、相当強いな。エマのボディガードか?」
「あぁ、自己紹介が遅れましたね。ユーゴ・グランディールです、エマの交際相手ですよ」
「そうか、私も名乗ってなかったな。ヴァロンティーヌ・シモンだ、その眼の色は初めて見たな……」
「これね、オレもよく分かってないんです」
こんな所で神族の話をしても仕方ない、エマにも伏せてる事だ。
「今日来てもらったのは、私達女豹の今後について伝えておく為だ」
「今後……ですか?」
「あぁ、結論から言うと、私はこの組織のボスを降りる。私だけじゃない、組織の幹部の殆どがレトルコメルスを出る」
「え……? 後任はどなたが?」
遅れて一人の男性が部屋に入ってきた。
「いいタイミングで来たな、こいつが次のボス『エヴァン・ランベール』だ」
エヴァンと呼ばれた男性は、ヴァロンティーヌの横に立ち一礼をした。この人も昇化している。
「何度かお会いしましたねエマさん、次のボスは僕です。よろしくお願いしますね」
エマも立ち上がり、よろしくお願いしますと一礼した。ユーゴも横で同じく一礼した。
「私の他50人近くがここを出る訳だが、それでもエヴァン以下約150人の精鋭達がレパーデスに残る。エヴァンの体制になれば組織の名前は変わるだろうがな」
「いやボス、僕はこの組織の名を変えるつもりは無いですよ」
「とは言っても……男ボスが女豹ってのも締まらないだろう」
「いや、僕はボスの跡を継ぐんです。それは組織の名前も継ぐって事ですよ」
「まぁ、お前の好きにすればいいが……」
相当尊敬されている様だ。
この若さで昇化した女性だ、実力も高いだろう。
「話が逸れたな。エヴァンと部下達が強いとはいえ、西には『蛇神の王』がいる、今のところ住み分けが出来ているが、それは組織の力が拮抗しているからだ。私達が抜ける事でその拮抗が崩れかねない」
――それはエマたちには関係の無い話では……。
「そこでだ、お前の店のあのガキは何者だ? いつも店の前で大男を痛めつけているが」
「うちの黒服です、こちらのユーゴ君が鍛えました。うちの店は元娼婦が多いので、引き戻しに色々な人が来ますから」
「そうか、たまに只者じゃない者を返り討ちにしているからな……昇化もしていないガキがと気になってたんだ」
ヴァロンティーヌは組んでいた腕を解いてエマに正対した。
「このレオパルドとお前のPerchは近い。もしナーガラージャがこちらにちょっかい出してきた時にはお前らにも被害が出る恐れがある。お前の店のあの少年の力を借りる事になるかもしれん」
「ちょっと待ってください。あいつはロナルドと言います、オレの弟子だ。まだ13歳の子供をマフィアの抗争に参加させようと言うのは、オレは賛同できない」
女ボスは目だけをユーゴに向け、もう一度深くソファに腰掛けた。
「そうか、あのガキは13歳なのか……もっと大きいのかと思っていた。それは失礼した」
「マフィアの抗争がエマの店にまで及ぶかもしれないという話はオレも心配です。その、ナーガラージャという組織に釘を刺しておけば良いのでは?」
ヴァロンティーヌはピクリと片眉を上げて聞き直した。
「釘を刺す? どういう事だ?」
「ヴァロンティーヌさんは明日にでもここを出ようという訳では無さそうだ。そのナーガラージャのアジトに精鋭で乗り込んで不戦協定を結んだらどうですか?」
「……決裂すればそれを引き金に抗争になる恐れもある」
「決裂させなければいい。こちらからは手を出す事は無いが、そちらが手を出してくるのなら容赦はしないと脅せばいい。うちのロナルドは勿論、オレも行きますよ。オレの魔力量は脅しになるはずだ」
そう言ってユーゴは魔力を全解放した。
二人は目を見合わせこちらに向き直した。
「そうだな……後進に任せる前に、私がしなければいけない最後の仕事はそれかもな。ユーゴと言ったか、頼めるか? 確かにその魔力量は恐ろしい……」
屋敷中にバタバタと音が響き渡り、応接室に数人が集まった。
「敵意はない、大丈夫だ。持ち場に戻ってくれ」
――あぁ、オレの魔力で皆が駆けつけたのか……悪いことしたな。
「オレはずっとここにいるわけじゃない、不戦協定さえあれば少しは安心だ。ただ、マフィアが相手だろうがエマ達は強いですけどね」
「……分かった。日はこっちで調整する、またPerchに伝言を言付ける」
「分かりました、お待ちしてます」
二人で一礼し、レパーデスの屋敷を出た。
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