213 / 241
第五章 四種族対立編
真面目な男
しおりを挟むまだ夕方にもなっていない。
明日には王都を出るという事で、久しぶりにジュリアとエミリーはギャンブルに出かけた。
「オレはここを出る前にサンディを見て来ようかな。教えてしまった手前何も言わずに帰るのもな……」
「じゃあ、僕もついて行くよ」
あれから一週間近く経っている。家に居ない可能性もある。
住所は東エリアだ、いなければそのまま繁華街に遊びに行こう。
城を出て東の大通りに出る、住所は深く路地に入った所だ。
着いた、階層の高いマンションだ。
その一室の呼鈴を鳴らすと、少しして額に汗を浮かべたサンディが出てきた。
「おぉ、師匠じゃねぇか。あんたも久しぶりだな、まぁ上がってくれ」
「誰が師匠だよ、お邪魔するよ」
一人暮らしには割と広い部屋だ、修練用に片付けたのか、何も無い部屋が一部屋。
「練気を纏う修練なら動く必要はねぇからな、部屋の中で十分だ」
サンディはコーヒーを淹れながら喋り始めた。
「ここ一週間で守護術、回復術、補助術の基礎を学んだよ。まだまだ初歩的な事しか出来ねぇが、あとはこれを地道に繰り返して行くだけだな」
「サンディ、意外と真面目なんだね……」
「あぁ、俺は強くなりてぇ」
「これはまだ王都の兵士しか知らないんだけどな」と前置きし、聯気について解説した。練気と自然エネルギーを理解しているサンディには造作もない事だった。
「ほぉ……これはまた別物だな……これを剣に纏う修練は変わらねぇって事だな」
「あぁ、やる事は一緒だ、オレ達は明日ここを出る。おそらく当分帰ってこないからな、最後に顔出したんだ。頑張ってな」
「おう、ありがとよ。なぁ、良かったら飯奢らせて貰えねぇか? こないだだいぶ儲けさせてもらったからな」
シャワーで汗を流すサンディを待っているといい時間になった。
東エリアの繁華街、シャンガルド通り。
東門から城を繋ぐ王都一賑やかな場所だ。商業施設も金持ち向けのハイブランドが多く、飲食店も規模が大きい上に高級だ。深く路地に入ればリーズナブルな店もあるらしい。
大きなバーに入り、メニューを開く。
「オレ東エリアでご飯食うの初めてだな……へぇ、見た事ないメニューだ」
「骨付きの大きなステーキや少し変わったピッツァ、フライドポテト等が俺のお気に入りだ。聞くところによると、ここのオーナーは魔族らしいぞ」
「へぇ、って事は魔族の料理なのか」
切り分けられたステーキを一口頬張る。これは上手い。
「肉はもちろんだけど、ソースが美味しいね。これは売ってるのかな」
「あぁ、ボトルで売ってるはずだ」
三人でテーブルに並んだダイナミックな料理をビールで流し込んだ、フライドポテトが止まらない。
サンディは仲良くなったらよく喋るしよく笑う、最初の印象は悪すぎたが鼻を折ってしまえば良い奴だ。意外に努力家だ、強くなるだろう。
「なぁ、俺もこの先もう一度パーティーを組むことがあるかも知れねぇ、その時は仲間にこの戦闘法教えても良いのか?」
「そうだな、誰にでも教えるってのは問題かもしれないけど、信頼する仲間なら教えてもいいんじゃないか? 元々はオレ達も教わった身だし」
「そうか、信頼出来る仲間を見つけてSSランクを目指すよ」
「そうか、頑張れよ」
サンディはまだ三十歳過ぎ、まだ現役バリバリの年齢層だ。取り戻した情熱で頑張って欲しい。
サンディにたらふく奢ってもらい、城に戻った。明日はレトルコメルスだ、ゆっくり休もう。
◇◇◇
ゆっくりと朝食を頂く、いつも通りの朝だ。
いつもと違うのはリナとの距離間だ、いつもの元気な挨拶と癒しの笑顔は変わらない。ただ距離を感じる、何だろうか。
「さて、とりあえず夕方にはレトルコメルスには着くであろう、そこで一泊して里に帰るかの」
「分かりました、昼食はお願いしてます。オレが預かりますね」
朝食を終え、皆が準備に部屋に戻る。
「昼食のサンドイッチです、ユーゴ様にお渡しして宜しいですか?」
「あぁ、はい頂きます。ありがとう、お世話になりました!」
頭を下げるユーゴにリナはニッコリ微笑んで会釈し、奥に下がって行った。
――何だ、何が違うんだろう……。
レオナード王に礼をし、全力でレトルコメルスに向かって飛んだ。
風属性の魔聯気で飛んでみたが、魔力を無駄に消費するだけであまり意味は無いようだ。
ひたすら黙々と飛び続け、夕方前には目的地に到着した。
「予定より早く着いた、明日までゆっくりとするかの」
「オレはエマのとこ行ってきますね」
「そっか、私もニナのとこに行ってこようかな。泊まるのはこのホテルだよね? いなかったらここに泊まろうかな」
里長とレイは勿論一人部屋、トーマスとジュリア、両親はツインルームに泊まるようだ。
「エマちゃん紹介しなさいよね!」
「あぁそうだな、明日の朝連れてこようかな……では明日の朝にここに来ますね」
エマの部屋の前、呼鈴を鳴らす前にドアが開いた。
「うぉっ! びっくりした」
「やっぱりそうだ、おかえり! 私、魔力を感じることが出来るようになったみたい」
「へぇ、オレの魔力が分かるのか?」
「うん、この前微かに感じてたんだ、魔力量まで分かる訳じゃ無いけどね。まぁ上がってよ!」
部屋に上がりコーヒーを淹れてもらった。
「ありがとう。新しい戦闘法習得したんだ、すぐにできるような事だから教えとくよ」
そう言って聯気への変質方法を教えた。
「なるほどね、順番が違うだけで全然別物だね……今日仕事行ったらみんなに教えとくね」
「目標は変わらず練気で空を駆ける事だな、聯気の精度を上げるのに一番いい方法は変わらない」
「うん、頑張るよ!」
エマは店の周りの事について話し始めた。
「レトルコメルスには主に東西二つの繁華街があるのは知ってるよね? 店がある東のソレムニーアベニューを縄張りとしてるマフィアのボスが女性なの。今のお店結構大きいでしょ? 店を開く時に一度会ってるんだけど、今晩ボスの所に来るように言われてるんだよね」
――マフィアのボスに呼び出されるって……。
「大丈夫なのかそれ……?」
「ソレムニーアベニューの土地の殆どは女豹の所有なの。あ、レパーデスはその組織の名前ね。私は店を借りてる身だからね、呼び出しには応じなきゃ」
「そうか、じゃあオレがついて行くよ」
「ロン君にお願いしようと思ってたんだけど、ユーゴ君ならもっと安心だな……お願い出来る?」
「もちろん! 待ってる方が心配だ」
エマは一度お店に出勤してからマフィアのアジトに行くらしい。出勤前に一緒にディナーを食べてから店に向かおう。
0
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!
つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。
他サイトにも公開中。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。
まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」
そう、第二王子に言われました。
そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…!
でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!?
☆★☆★
全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。
読んでいただけると嬉しいです。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる