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第五章 四種族対立編
リナの手作り菓子
しおりを挟む「コンコン」
ドアをノックする音で目を覚ました。
ドアを開くとリナがいる。
「あ……もしかしてお休みになられてましたか……?」
「いや、結構寝たから大丈夫だよ」
「申し訳ございません! クリーニングする物がありましたらとお伺いしたのですが……」
「あぁ、旅で水洗いだけだったからな、お願いしようかな」
シルクシャツとデニムパンツを麻袋にまとめてリナに渡した。
「ではお預かりしますね。あと……これなんですが……」
リナは小箱をユーゴに差出した。
「マドレーヌを焼いてみました……お口に合うか分かりませんが、宜しければお召し上がりください」
箱を開けてみると、貝殻を型どったお菓子が入っている。
「へぇ、初めてだな、ちょうど小腹が空いてたんですよ。頂くね、ありがとう」
「今日焼きましたので明日までは持つはずです、夕飯に差し支えても困りますし、宜しければごゆっくりお召し上がりください!」
そう言ってリナは一礼して帰って行った。
「リナさん! クリーニング!」
「あぁっ! 申し訳ございません!」
麻袋を持って小走りで戻って行った。あのおっちょこちょいがまた可愛らしい。
折角だ、寝起きのティータイムにしよう。
紅茶を淹れてマドレーヌを一口頬張ると、程よい甘さとバターの香りが口いっぱいに広がった。
「美味いなこれ……」
今まで食べたお菓子の中でもトップクラスだ、これは美味い。口の中に広がる余韻を紅茶で流し込んだ。全部食べるのも勿体ない、半分は明日に残しておこう。
誘惑に負け全部食べてしまいそうだったが、箱の蓋を閉めた。美味かった、お礼言わないと。
そのままティーポットの紅茶を飲みながら読書をしていると、ディナーの時間が近づいている。
着替えてベルフォール城に行き、ホールに案内された。
給仕のメイドが忙しく動いている。
――なんかいつも申し訳ないな……あれ? リナさんだ。
「あ、リナさん、マドレーヌすごく美味しかったです。全部食べちゃいそうだったけど、勿体ないから明日にも残しときました」
「そうですか、お口に合って良かったです!」
「オーベルジュ城から手伝いですか?」
「はい、こういうお食事会等の時はお手伝いに来る事があるんです」
「そうなのか、いつもお世話になります……」
ニッコリと微笑んで仕事に戻って行った。
皆が円卓に座った。
今日も色々な料理が大皿に盛り付けられて並んでいる、メイドが給仕してくれるスタイルだ。
皆の前のグラスに赤ワインが注がれた。
「良し、皆に行き届いたな、とりあえず鬼国での仕事は終えた。シャルロットが酒宴を開いてくれた、存分に楽しんで欲しい」
仙王がグラスを掲げると、皆もグラスを持ち上げた。
各町の料理が並んでいる。
――やっぱりソーセージはあるな、これにはビールでしょ。
席に戻りピッツァやソーセージをビールで流し込む。
暫しの歓談。
シャルロット女王が思い出したように叫んだ。
「あーっ! そう言えば、ジュリジュリとトムちゃん付き合い始めたんだって!?」
「えぇ、仙王様には報告させて頂きました。近々仙神国にもご挨拶に行かないとと思っています」
トムちゃんとはトーマスの愛称だ、女王しか言ってないが。
――そうだ、この流れで女王にエマとの事を報告しとこう。
「シャルロット女王、オレはエマと交際させて頂いてます。エマはレトルコメルスで頑張って……」
『ガシャ――ン!!』
――なんだ!?
振り向くと、リナが食器を落として呆然としている。数枚の皿が粉々だ。
「リナさん大丈夫!? 怪我ない!?」
「はっ! もっ……申し訳ございません!」
他のメイド達が駆け寄り、割れた皿の掃除を始めた。
「申し訳ございません……申し訳ございません……」
リナは涙ながらに破片を片付けている。
「ちゃんリナがミスって珍しいんじゃない? 怪我が無いようにしなよ?」
「泣かなくても大丈夫だょ。ウチも手伝うね」
「女王様いけません! 私共が片付けますので!」
リナは泣きながら頭を下げ、奥に下がって行った。
――大丈夫かな……心配だ。
エミリーが下がっていったリナの方に歩いていく。彼女と仲良くしているエミリーが慰めてくれると安心だ。
◇◇◇
エミリーはリナがミスしてしまった原因が分かっている。後について行くとメイドの皆に慰められて泣いていた。
「リナさん大丈夫?」
「エミリー様……申し訳ございません……」
「謝る事ないよ。皆さん、リナさんと少しお話してきていいですか?」
「えぇ、では私達は持ち場に戻りますね。リナちゃん、大丈夫だからね」
リナは皆に深々と頭を下げている。
「ちょっと! リナさん手切ってるじゃん! ちょっと見せて」
「あっ、これくらい大丈夫です!」
『治療術 再生』
「えっ……綺麗に治った……ありがとうございます」
エミリーはコップを両手に持ち、生成した水を入れてリナに渡した。
「向こうで座って話そうよ」
二人で夜風に当たりベンチに座った。
少し沈黙が流れる。
「エミリー様……私、無謀な恋をしてるって分かってました、叶うことなんてないって。でも……いざユーゴ様の口から交際相手のお名前が出ると……身体の力が抜けてしまって……」
そう言って肩を震わせて泣き始めるリナ。
エミリーはその背中をさする事しか出来ない。
「私……メイド失格ですね……」
「そんな事ないよ! リナさん程のメイドなんて探してもいないんだから!」
「……今日もユーゴ様に手作りのマドレーヌを差し上げたんです……用事なんて無いのに、クリーニングを口実にお休み中のお部屋をノックしてまで……私……最低です……」
「そんな事ない、ユーゴに喜んで欲しいってリナさんが一生懸命考えてとった行動だよ?」
――自分を責め始めちゃった……これはダメだと思うな……。
「私は言えなかった……リナさんの気持ち知ってたのに、ユーゴには好きな人がいるって言えなかった……」
涙が出てきた。
エミリーにはどうする事も出来ない。
――これが失恋なんだ……。
二人で抱き合って泣いた。エミリーは一緒に泣いてやる事しか出来なかった。
「よし! リナさん、遊びに行くよ! 次の休みはいつ?」
「えっ……? 宜しいのですか……? 次のお休みは明日です」
「明日なの!? ジャストタイミングじゃん! 明日の朝、門前に集合ね!」
リナは更に顔を歪めて泣き始めた。
「えっ……行きたくなかった……? ごめんごめん!」
「違うんです……エミリー様のお優しさが嬉しくて……ありがとうございます……」
リナは少しの間泣き続けた。
そしてフゥっと一息、涙を拭いて立ち上がった。
「よし……もう大丈夫です、お仕事に戻ります。エミリー様、本当にありがとうございました、明日楽しみましょう!」
二人でホールに戻った。
リナは深々と頭を下げる。
「皆様、大変申し訳ございませんでした」
「いいょいいょ、仕事多いもんね……少しお休み増やしてあげてもいいんじゃない?」
「そうだなぁ……少し働き方を見直すべきなのかもね、皆の不満を聞くことにしよう」
「そんな! 滅相もございません!」
テキパキと元気な普段のリナに戻った。
「リナさん、怪我はなかった?」
「はい、驚かせてしまい申し訳ございませんでした……あっ、ユーゴ様お飲み物はいかが致しましょう?」
「あぁ……そうだな、ビールお願いしようかな」
「かしこまりました!」
ユーゴへの受け答えも笑顔だ。
宴会は大盛り上がりで終わった。
――明日はリナさんと思いっきり楽しもう。
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