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第五章 四種族対立編
言い伝えの理由
しおりを挟む昨日は程よく身体を動かしサウナでリフレッシュした、爽やかな朝だ。リナの元気な声と笑顔に癒されながら朝食を頂く。
準備を終え、門前に行くとエミリーが一番乗りで待っていた。
「おはよう、マシューはどんな感じだった?」
「おはよう! 守護術も治療術も強化術もかなり精度が上がってたね。昨日は仙神剣術を主に教えたんだけど、もうSランクも問題ないんじゃないかな? 刀もしっかり整備して大事に使ってたよ!」
「ほほー、マシューはセンスいいもんな。その後のデートも楽しかったか?」
「え!? あぁ……うん、すっごく楽しかった」
「そうかそうか、そりゃ良かった」
話しているとトーマスとジュリアが来た。
「おはよう!」
「おう、元気だなジュリア」
「あぁ、昨日はリフレッシュできたよ」
「うん、楽しかったね」
二人はいい笑顔だ、とりあえずはユーゴに言えたのが良かったのだろう。
少しして皆が揃った。
シュエンとソフィアもゆっくりと楽しんだらしい。夫婦仲が良いのは素晴らしい事だ。
「よし、とりあえず北西に真っ直ぐだ。方向は間違ってはおらぬであろう、全力で飛ぶぞ」
レイは流石だ、普通に付いてきている。もしかしたら本気は皆より速いのかもしれない。
今日の分の昼食は作ってもらっている。正午に昼食を済ませ、更に飛ぶ。
夕方に良い河原を発見し、野営地に決めた。
途中ホーンオックスを見つけ、処理済みだ。
「今日は久しぶりに私に作らせて! 皆はテントよろしく」
ソフィアが張り切っている。
――母さんの野営料理は初めてだな、楽しみだ。
皆がそれぞれ仕事を与えられて動いている、野営の分担は王であろうが関係ない。
ソフィアの料理が出来上がったようだ、皆を呼ぶ声が聞こえる。
「出来たわよ! やっぱり野営は楽しいね、どうぞ召し上がって!」
ソフィア特製のソースがかかったステーキ、肉が浮いたスープ、切り分けられた生レバーもある。
皆がフォークで口に運んだ。
「美味い! このソースどうやって作ったんですか!? 焼き加減も絶妙だ……このスープは何? 肉がトロトロだ、どこの肉ですかこれ!?」
トーマスが興奮している。
確かにこれは美味い、ソフィアの料理の腕は健在だ。
「赤ワインをベースに香味野菜を使ったソースよ。このスープの肉はね、牛のシッポなの。美味しいでしょ? テールスープよ」
「凄い……僕の料理なんてまだまだだな……ソフィアさん、僕に料理を教えてください!」
「そんな大袈裟な……いいわよ、明日から一緒に作りましょ」
「オレにも教えてくれ!」
「分かったわよ、みんなで作りましょうね!」
皆がソフィアの料理を平らげた。料理が無くなった調理器具を見てニコニコしている。
明日からトーマスと二人で弟子入りだ。食器や鍋を川で洗い異空間に入れる。
皆で焚き火を囲み、食後の紅茶を飲んでいる。話が途切れたところでトーマスが立ち上がった。
「仙王様、お話があります」
「何だ、唐突に」
「僕は……ジュリアとお付き合いさせて頂いています。ジュリアは仙族で僕は人族だ……でも、この交際を認めては頂けませんか!」
突然の告白に皆がカップを持つ手を止めた。
当の仙王が口を開く。
「そのような事とうに知っている。仙神国に来た時には既にそうであったな? ジュリエット、君は分かりやすい。それがいい所ではあるのだが、少し内に秘める事も覚えた方が良い」
ジュリアは顔を赤らめて俯いた。
「……では?」
「我の許可など不要、ジュリエットが良いのなら我が言うことはない」
そう言って仙王はにっこり微笑んだ。
「やったー!!」
トーマスとジュリアは飛び跳ねて抱き合っている。皆が拍手で祝福した。
「ただ、ライアンには挨拶に行くように。親に言わぬ訳にもいかんだろう」
「よぉーし! これは飲まねぇとな!」
ティモシーが異空間からワインを取り出し、宴会へと突入した。
皆ほろ酔いではあるが人数は多い、交互に見張りを置いてもかなり寝ることができる、何事もなく朝を迎え旅を続ける。
◇◇◇
野営を四泊はさんで正午前、鬼国ソウジャが見えてきた。
「鬼国か、本当にもぬけの殻だ。奴ら相当派手に暴れたようだ」
そのまま鬼国を通過し、更に北西のアタゴ山を目指す。
「地図は正確なようだ、あの山だな」
「うむ、もう魔力を感じる……禍々しさは無いな、かつてのヤマタノオロチとよく似ておる。良し、皆防具をつけよう」
軽装でここまで来たが、SSSクラスの魔物に備え完全武装する。
「よし、ではティモシーとトーマスを盾役にサポートはソフィアとエミリーだ、後は皆で攻撃する」
皆が静かに頷いた。
盾役二人はそれぞれ盾を構えてアタゴ山の山頂を目指す。
――いた、あれがヤトノカミか。
白蛇の頭部からは長い角が生えている。かなり長い蛇だ、とぐろを巻いてこちらを警戒している。
どんな魔物なのか、こちらも警戒しないといけない。
まずはトーマスが前線に出る。
『守護術 堅牢・八岐大蛇』
革盾の特性を写した守護術だ。
しかし、トーマスはその場で倒れた。
――モヤの様なものが……これは……。
『毒霧だァ――!! 息を止めて皆でトーマスを守って! エミリー! 快癒だ!』
皆がそれぞれトーマスを守るように息を止めて動いた。
トーマスに快癒をかけたエミリーはトーマスを連れて後ろに引いた。
「大丈夫かトーマス!」
「あぁ……早く気付いてくれて良かった……」
――ゴンが言ってた……姿を見ただけで皆死に絶えると……こういう事か、かなり強い神経毒だ。
トーマスを救出し、ティモシーを殿に山を離れ安全な場所まで引いた。早く気付いた為に、ヤトノカミがその場から動かなかったのが幸いした。
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