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第五章 四種族対立編

四振りの国宝

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 ナグモ山の封印のほこら前。
 広い場所にいるなら、自然エネルギーの体内増幅を皆に伝えよう。

「仙王様、皆に教えてもいいですよね?」
「ん? あぁ増幅か。そうだな、我が教えよう」

 そう言って仙王が皆に方法をレクチャーする。
 ここにいる皆は練気による空中歩行が出来る。何の問題もなく理解した。

「これは素晴らしいな……術が更に強力になる。という事は移動速度も上がるな」
「えぇ、レトコメルスを朝に出て、日没にはルナポートに着きました。そのままだと呼吸が出来ないので、顔の前に守護術を施して空間を作ります」
「なるほどの、これは皆に伝えねば。全ての者が扱えるわけではなかろうがの」

 龍族でも皆が空を駆ける訳ではない、体内増幅もおそらく皆ができる事ではないだろう。

「そういえば、アレクサンドも習得してるんですか?」
「いや、奴は魔族との大戦の後は女にうつつを抜かし鍛錬をほぼせんようになった。奴は強かったが、仙術も仙神剣術も極めたわけではない。体内増幅は教えていない」
「では、向こうは知らない戦闘法という事ですね。こちらの有利に働きそうだ」

 奴らは強い。
 が、奴らの知らない戦闘法を知っているユーゴ達も強い。これからの五年をどう過ごすかで更にその差は広がる。
 しかし、向こうには魔神ルシフェルがいる。魔術の他にどういう戦闘法を持っているかも分からない。

 皆が増幅した自然エネルギーで刀の斬れ味を試したり、守護術や強化術などのパワーアップを確認している。

「これは医術にもさらに良い影響を与えるな。エミリー、研究を手伝え」
「はい! もちろんです!」
「メイファお姉さん、私も元々回復術師なんです。私もご一緒してもいいですか?」
「あぁ、勿論だ。人数は多い方がいい」

 ――母さんも15年のブランクを取り戻さないといけないもんな、父さんもいるしすぐだろう。

「あ、ヤンさん、春雪を母さんに返したんです。オレやっぱり二刀流がしっくりくるんですよね、良い刀売って貰えませんか?」
「あぁ分かった、見繕ってやるから後で来い」

「その事だが……」と里長が口を開いた。

「これから魔族と鬼族との戦になるやもしれん、この里には誰も使っておらぬ特級品が四振りある。それをお主らに託そうと思う」
「里長……まさか……」

「うむ、フドウ達の刀だ」

 その刀を知っている者達は驚きの表情を隠せない。それはそうだ、国宝の四振りだ。

「儂とメイファはリンドウの打った特級品がある。シャオウやシュエン、ヤンガスも特級品の所持者だ。ユーゴ達の一行は四人だ、ヤマタノオロチと同等の化物を倒すほどのお主らにこそ相応しい」

「え……龍族でもないアタシが貰っても良いのか……?」
「うむ、不服か?」
「とんでもない! そんな素晴らしい刀に恥じない戦士になるよ!」
「おいおい……良いのか龍王よ……」
「ユーゴが認めて共にするほどの戦士だ、トーマスとエミリーも龍族ではないが、この里の戦士だ」

 メイファもヤンガスも驚きはしたが、トーマスとエミリーを認めている。顔を綻ばせ二人に歩み寄った。


 四振りの刀がある里長の屋敷に戻った。
 厳重に施錠された蔵から、里長が刀を持って出てくる。

「まずは我が妻リンファの刀だ、名を『凛花リンファ』と言う。妻は参謀であった、指揮を執る時にかざす為リンドウが長めに作った。丁子乱ちょうじみだれの刃紋が美しい」

 里長の妻の刀がジュリアに渡った。両手大剣を使っている上に今の風切かぜきりも長めだ。ジュリアには最適な刀だ。

「ありがとう! この刀に恥じないような剣士になるよ!」


「次に長女メイリンの刀だ、これもそのまま名を冠した刀だ。名を『美鈴メイリン』と言う。直刃すぐはが美しい直刀だ」

 エミリーの刀である青眼も直刀だ、少し長めの直刀を受け取った。

「ありがとうございます! メイリンさんみたいな治療術師を目指します!」


「リンドウの刀だが、長さで言えば大脇差だ。名を『鈴燈リンドウ』と言う。ユーゴの持つ『龍胆りんどう』は一番最後の特級品だが、この鈴燈は奴が初めて打った特級品だ。奴は盾士であったが剣の腕も一流であった、お主の剣の腕もそれに劣らぬと見ておる」

 オレの龍胆と同じく刃紋は逆丁子さかちょうじ。伝説の盾士が扱っていた刀をトーマスが受け取った

「ありがとうございます! この里の盾士として恥じないようさらに精進します!」


「そして最後にフドウの刀だ、名を不動フドウと言う。奴と同じ龍眼を持つお主にこそ相応しい。刃紋は直刃すぐはだ」

 不動は龍胆よりも長い。
 里一番の剣士の刀、不動で攻撃し、伝説の盾士の名を持つ龍胆で防御するのがいいだろう。

 ――特級品の二刀流……またとんでもない刀を貰ってしまった……。

「オレなんかにこんな素晴らしい刀を……その期待に応えられる剣士になる事を約束します!」


「長く眠っておった刀だ、ヤンガスに整備を頼むと良い」
「おう、責任持って仕上げる」

 全ての刀をヤンガスに預け解散した。夜は里長の屋敷で仙王を招いた酒宴が催される。
 刀を貰った四人は、久しぶりの『なから屋』にすき焼きを食べに来ている。ジュリアのリクエストだ。

「美味いな! 野営で食べるすき焼きも美味いけど、本場は違うな……」
「ここにいた時は気が付かなかったけど、これ魔物の肉だよな?」
「だね、この島に牛いたっけ?」

 追加の肉を持ってきた店員に聞いてみた。

「あぁ、牛鬼ぎゅうきの肩肉だよ」
「あぁ、なるほど! 牛いたね!」

 牛鬼は大型の蜘蛛の身体から牛が生えているような魔物だ。確かに肩辺りは牛だ。

 ――まさかアレの肉だとは……多分B~Aランクの魔物だろう、美味いはずだ。

 
 やはり店のすき焼きはひと味違う。
 大満足の昼食を終えてお茶を飲んでいる。

「いやぁ……とんでもない刀貰っちゃったね……」
「うん、龍族の英雄の刀だよ……」
「オレなんて二本も貰っちゃったよ……」
「アタシまで貰えるとはな……」

 
 その後、それぞれ自由な時間を過ごし夜の宴会に備えた。


 ◇◇◇
 

 宴会が行われる広間にはすでにお膳が据えられている。里長と仙王が奥に座り、その横にティモシーとシャオウが座った。
 皆がバラバラと腰を落とした。ユーゴ達もも横並びで座る。

「遠路遥々仙王が来てくれた、ささやかな酒宴をもうけた故、今後の話をしながら腹を満たしてくれ」

 吟醸酒で乾杯し、それぞれが美しく盛り付けられた料理に手をつける。やはり魚は刺身で醤油だ、酒に合いすぎる。

 ある程度食べ進めると、里長が口を開いた。

「酔うてしまう前に話をしておこう、儂は龍族の始祖の思念を見に行こうと思う」
「当然我々も行こう、明日にでも仙神国とウェザブール王都に通信させてくれ」

 里長は頷きユーゴ達の方に顔を向けた。
 
「あとはシュエンとソフィア、ユーゴら四人で共を頼めるか?」
「もちろんです! お供します」

「里長代理はシャオウだ」
「分かったわい」

「それでは日は改めて伝える故、各人自由に過ごすように」

 
 宴会は遅くまで続いた。
 ユーゴはシュエンの屋敷に三人で帰り、家族水入らずの時間を酒を飲みながら過ごした。
 
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