199 / 241
第五章 四種族対立編
四振りの国宝
しおりを挟むナグモ山の封印の祠前。
広い場所にいるなら、自然エネルギーの体内増幅を皆に伝えよう。
「仙王様、皆に教えてもいいですよね?」
「ん? あぁ増幅か。そうだな、我が教えよう」
そう言って仙王が皆に方法をレクチャーする。
ここにいる皆は練気による空中歩行が出来る。何の問題もなく理解した。
「これは素晴らしいな……術が更に強力になる。という事は移動速度も上がるな」
「えぇ、レトコメルスを朝に出て、日没にはルナポートに着きました。そのままだと呼吸が出来ないので、顔の前に守護術を施して空間を作ります」
「なるほどの、これは皆に伝えねば。全ての者が扱えるわけではなかろうがの」
龍族でも皆が空を駆ける訳ではない、体内増幅もおそらく皆ができる事ではないだろう。
「そういえば、アレクサンドも習得してるんですか?」
「いや、奴は魔族との大戦の後は女に現を抜かし鍛錬をほぼせんようになった。奴は強かったが、仙術も仙神剣術も極めたわけではない。体内増幅は教えていない」
「では、向こうは知らない戦闘法という事ですね。こちらの有利に働きそうだ」
奴らは強い。
が、奴らの知らない戦闘法を知っているユーゴ達も強い。これからの五年をどう過ごすかで更にその差は広がる。
しかし、向こうには魔神ルシフェルがいる。魔術の他にどういう戦闘法を持っているかも分からない。
皆が増幅した自然エネルギーで刀の斬れ味を試したり、守護術や強化術などのパワーアップを確認している。
「これは医術にもさらに良い影響を与えるな。エミリー、研究を手伝え」
「はい! もちろんです!」
「メイファお姉さん、私も元々回復術師なんです。私もご一緒してもいいですか?」
「あぁ、勿論だ。人数は多い方がいい」
――母さんも15年のブランクを取り戻さないといけないもんな、父さんもいるしすぐだろう。
「あ、ヤンさん、春雪を母さんに返したんです。オレやっぱり二刀流がしっくりくるんですよね、良い刀売って貰えませんか?」
「あぁ分かった、見繕ってやるから後で来い」
「その事だが……」と里長が口を開いた。
「これから魔族と鬼族との戦になるやもしれん、この里には誰も使っておらぬ特級品が四振りある。それをお主らに託そうと思う」
「里長……まさか……」
「うむ、フドウ達の刀だ」
その刀を知っている者達は驚きの表情を隠せない。それはそうだ、国宝の四振りだ。
「儂とメイファはリンドウの打った特級品がある。シャオウやシュエン、ヤンガスも特級品の所持者だ。ユーゴ達の一行は四人だ、ヤマタノオロチと同等の化物を倒すほどのお主らにこそ相応しい」
「え……龍族でもないアタシが貰っても良いのか……?」
「うむ、不服か?」
「とんでもない! そんな素晴らしい刀に恥じない戦士になるよ!」
「おいおい……良いのか龍王よ……」
「ユーゴが認めて共にするほどの戦士だ、トーマスとエミリーも龍族ではないが、この里の戦士だ」
メイファもヤンガスも驚きはしたが、トーマスとエミリーを認めている。顔を綻ばせ二人に歩み寄った。
四振りの刀がある里長の屋敷に戻った。
厳重に施錠された蔵から、里長が刀を持って出てくる。
「まずは我が妻リンファの刀だ、名を『凛花』と言う。妻は参謀であった、指揮を執る時にかざす為リンドウが長めに作った。丁子乱れの刃紋が美しい」
里長の妻の刀がジュリアに渡った。両手大剣を使っている上に今の風切も長めだ。ジュリアには最適な刀だ。
「ありがとう! この刀に恥じないような剣士になるよ!」
「次に長女メイリンの刀だ、これもそのまま名を冠した刀だ。名を『美鈴』と言う。直刃が美しい直刀だ」
エミリーの刀である青眼も直刀だ、少し長めの直刀を受け取った。
「ありがとうございます! メイリンさんみたいな治療術師を目指します!」
「リンドウの刀だが、長さで言えば大脇差だ。名を『鈴燈』と言う。ユーゴの持つ『龍胆』は一番最後の特級品だが、この鈴燈は奴が初めて打った特級品だ。奴は盾士であったが剣の腕も一流であった、お主の剣の腕もそれに劣らぬと見ておる」
オレの龍胆と同じく刃紋は逆丁子。伝説の盾士が扱っていた刀をトーマスが受け取った
「ありがとうございます! この里の盾士として恥じないようさらに精進します!」
「そして最後にフドウの刀だ、名を不動と言う。奴と同じ龍眼を持つお主にこそ相応しい。刃紋は直刃だ」
不動は龍胆よりも長い。
里一番の剣士の刀、不動で攻撃し、伝説の盾士の名を持つ龍胆で防御するのがいいだろう。
――特級品の二刀流……またとんでもない刀を貰ってしまった……。
「オレなんかにこんな素晴らしい刀を……その期待に応えられる剣士になる事を約束します!」
「長く眠っておった刀だ、ヤンガスに整備を頼むと良い」
「おう、責任持って仕上げる」
全ての刀をヤンガスに預け解散した。夜は里長の屋敷で仙王を招いた酒宴が催される。
刀を貰った四人は、久しぶりの『なから屋』にすき焼きを食べに来ている。ジュリアのリクエストだ。
「美味いな! 野営で食べるすき焼きも美味いけど、本場は違うな……」
「ここにいた時は気が付かなかったけど、これ魔物の肉だよな?」
「だね、この島に牛いたっけ?」
追加の肉を持ってきた店員に聞いてみた。
「あぁ、牛鬼の肩肉だよ」
「あぁ、なるほど! 牛いたね!」
牛鬼は大型の蜘蛛の身体から牛が生えているような魔物だ。確かに肩辺りは牛だ。
――まさかアレの肉だとは……多分B~Aランクの魔物だろう、美味いはずだ。
やはり店のすき焼きはひと味違う。
大満足の昼食を終えてお茶を飲んでいる。
「いやぁ……とんでもない刀貰っちゃったね……」
「うん、龍族の英雄の刀だよ……」
「オレなんて二本も貰っちゃったよ……」
「アタシまで貰えるとはな……」
その後、それぞれ自由な時間を過ごし夜の宴会に備えた。
◇◇◇
宴会が行われる広間にはすでにお膳が据えられている。里長と仙王が奥に座り、その横にティモシーとシャオウが座った。
皆がバラバラと腰を落とした。ユーゴ達もも横並びで座る。
「遠路遥々仙王が来てくれた、ささやかな酒宴をもうけた故、今後の話をしながら腹を満たしてくれ」
吟醸酒で乾杯し、それぞれが美しく盛り付けられた料理に手をつける。やはり魚は刺身で醤油だ、酒に合いすぎる。
ある程度食べ進めると、里長が口を開いた。
「酔うてしまう前に話をしておこう、儂は龍族の始祖の思念を見に行こうと思う」
「当然我々も行こう、明日にでも仙神国とウェザブール王都に通信させてくれ」
里長は頷きユーゴ達の方に顔を向けた。
「あとはシュエンとソフィア、ユーゴら四人で共を頼めるか?」
「もちろんです! お供します」
「里長代理はシャオウだ」
「分かったわい」
「それでは日は改めて伝える故、各人自由に過ごすように」
宴会は遅くまで続いた。
ユーゴはシュエンの屋敷に三人で帰り、家族水入らずの時間を酒を飲みながら過ごした。
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
【完結】炒飯を適度に焦がすチートです~猫神さまと行く異世界ライフ
浅葱
ファンタジー
猫を助けようとして車に轢かれたことでベタに異世界転移することになってしまった俺。
転移先の世界には、先々月トラックに轢かれて亡くなったと思っていた恋人がいるらしい。
恋人と再び出会いハッピーライフを送る為、俺は炒飯を作ることにした。
見た目三毛猫の猫神(紙)が付き添ってくれます。
安定のハッピーエンド仕様です。
不定期更新です。
表紙の写真はフリー素材集(写真AC・伊兵衛様)からお借りしました。
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?
雪詠
ファンタジー
大学受験に失敗し引きこもりになった男、石動健一は異世界に迷い込んでしまった。
特殊な力も無く、言葉も分からない彼は、怪物や未知の病に見舞われ何度も死にかけるが、そんな中吸血鬼の王を名乗る者と出会い、とある取引を持ちかけられる。
その内容は、安全と力を与えられる代わりに彼に絶対服従することだった!
吸血鬼の王、王の娘、宿敵、獣人のメイド、様々な者たちと関わる彼は、夢と希望に満ち溢れた異世界ライフを手にすることが出来るのだろうか?
※こちらの作品は他サイト様でも連載しております。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる