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第五章 四種族対立編

王の苦悩

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 早速皆が刀を抜いた。
 まずは強化術だ、剛力と迅速を増幅エネルギーで施す。全くの別物だ。
 更に増幅した風エネルギーを錬気に混ぜ込み、龍胆に丁寧に纏う。前方にはウサギの魔物アルミラージ。

『剣技 おぼろ

 技の名の通り、姿が霞む程のスピードで一気に距離を詰め、アルミラージを斬る。
 斬られたウサギは三度飛び跳ね、空中で真っ二つになった。

 皆が自身の刀の斬れ味に驚いている。というより、斬れ過ぎて引いている。

 エマ達も目をキラキラさせて皆の剣技を見ている。

「ロン君! 空を駆ける練習また付き合ってね!」
「うん、もちろん!」

 錬気銃を撃てるエマ達はすぐにコツを掴むだろう。ユーゴは我ながらいい方法を編み出したものだと練気の玉を指先に出した。


「さぁ、俺の番かな。この増幅した自然エネルギーは当然守護術も別物にする、自然エネルギーには硬さもあるからな。ただ、身を守るってのはそれだけじゃねぇぞ」

 ユーゴ達アタッカーも当然習得しなければいけない。
 けど、特にヤンガスとトーマスとジェニーの食い付きが違う。

「身を守るには硬さだけじゃなく、攻撃を受けるしなやかさも必要だ。例えば、どれだけ硬い物でもとんでもねぇ負荷がかかれば割れちまうだろ? それを割れなくするには、それにしなやかさを持たせて衝撃を吸収する事が大事だ」

 ――なるほど……考えたことも無かった……。
 
 確かに、樹木は嵐の中でも柔軟に受け流して倒れない。あまりにも強ければ折れるが、折れないほどの硬いものに柔軟性を持たせるとさらに強度は増すという事だ。

「しなやかな物って言えば、木とか竹とかだな。他にもあるだろうが、身近にある物がいい。そういう自然エネルギーを増幅させて守護術に使う」

 ティモシーの教えを腹に落としたトーマスが、ヤマタノオロチの革盾を構え守護術を張った。

「いい感じだが……おい、お前それ『臨眼』じゃねぇか……」
「え? りんがん?」
「盾の特性を守護術に写してるだろ。それ眼の力だぞ」
「あぁ、これ特異能力じゃ無かったんですね……」
「人族が特異能力なんて得る訳ねぇだろ。特異能力を得られるのは魔族と龍族だけだ」

 トーマスの力は眼の力だったらしい。
 ユーゴに特異能力があるのは龍族の血か。色々知らない事が多すぎる。

 ヤンガスも今までとは全く別物になった守護術を張って興奮している。

「こりゃすげぇ……トーマスの力にゃ及ばねぇが、俺の刀の硬さをそのまま出せる」
「そうだな、その鋼のエネルギーを増幅するからな。その刀の硬さ以上の守護術が自然のしなやかさを得て更に強靭な盾になる」

 ロンも剣に纏ったり守護術を張ったりと、色々試している。強いとはいえ、まだ子供のロンは魔力が少ない、ロンの戦闘法は決まった。エマ達の指導はロンに任せて良さそうだ。

 各自が仙王とティモシーに質問しながら、自身の術を高めていく。エマ達も自然エネルギーの扱い方を一から指導してもらい、術の効果を上げた。その基礎はユーゴ達の仙術もパワーアップさせた。
 やはり基礎をしっかり学ぶ事は大切だ。ジュリアも仙術の天才である事は間違いないが、仙術や仙神剣術の始祖から学ぶ事はまた別物だ。
 ユーゴ達も龍王である里長から学ぶ事で、それぞれの術の効果が格段に上がっていたのだろう。

 素晴らしい講習会は皆の戦闘力を高めた。
 仙王達に礼を言い、ギルドに依頼達成報告に戻った。
 
 
 ◇◇◇
 
 
 皆で個室のある酒場に来ている。
 ポロッと重要な話が漏れてはユーゴ等が責任を取れるものではない。仙王達もたまにはとビアグラスを傾ける。

「いやぁ、俺ぁまだ強くなれるなんて思ってもなかったな。仙術と魔族の圧縮で限界まで強くなった気でいた」
「武術の鍛錬に終わりは無い。君は見たところ鍛冶師だろう? その道にも終わりは無いはずだ」
「確かに、違ぇねぇ」

 原初の仙族二人は国を出る事があまり無いのだろう、自由に動ける事が楽しそうだ。仙神国とは違う庶民の料理を美味しそうに頬張っている。

「トーマスは眼の力を開眼してるって言ってましたよね? エミリーも何か開眼してるっぽいんですよ」
「ほぉ、どんな能力だ?」
「うん、説明が難しいんだけど……皮膚の弱いところが分かったり、攻撃しなきゃいけない所が分かったり、治療で言えば術をかける患部が分かったり、そんな感じかな……」

 仙王とティモシーさんは顔を見合わせて考え込んだ。

「何だったか……昔そんな力を開眼した者がおったな……」
「そうだな……何だったか……」

 思い出した仙王はあっと声を上げて言った。

「思い出した! 『慧眼けいがん』だ」
「そうだ、それそれ。物の本質を見抜く眼だな、洞察力も備えている。って、お前の前の妻の力じゃねえか」

「……あぁ、そうだったな。思い出すのも恐ろしすぎて忘れていた……」

 相当な恐妻家だったらしい。この人は本当に偉い人なのだろうか。

「やっぱりそういう眼の力があったんですね! 色々試してみないと!」
「あぁそうだな、どんな力も完全に解明されている訳ではない。自己研鑽は必要だ」

 奥様の話はしたくはないようだ。当然こちらから触れる事じゃない。

「お聞きしていい話かどうか分からないですが……リーベン島にはどういう用事で?」
「まぁ……我の持つ玉に用があるらしい」

 なるほど、さすがにそれはこんな場所では聞けない。それには触れずに普通に宴会を進めよう。
 
 エマ達三人はプロだ、普通に飲んだ所で相手を楽しませようとする。もう職業病なのだろう。隣の仙族二人は身分を忘れて楽しんでいる。

「なぁ、アタシよりもお祖父ちゃんの方がこの国で冒険したかったんじゃないのか?」
「え!? まぁ……確かにお前の目線で冒険した気になっていたのは事実ではあるが……」

 仙王は眼の力で同族の青い眼を通して視界を共有することが出来る。確かに今まで見ていると、王というのは窮屈な存在なんだろうと思う。

「正直に言おう。ティモシーだけだ……我の気持ちを分かってくれるのは。王と言うだけで、単独行動はなりません! とか……仙神国を一人で行動するのもままならん……」
「まぁお前の気持ちが分かるからこそ俺が共で来たんだが……部下のお前を心配する気持ちも分かってやれよ」

 切実だ。
 仙王やティモシー程の使い手なら放っておいても問題はなさそうだが。確かに里長が単独で何処かに行こうとするならユーゴもついて行くだろうが。
 
 島に着いたら宴会が開かれるだろう。
 そこで王同士鬱憤を吐き出してもらえればいい。その横にはティモシーとシャオウあたりが横に居るのが良いだろう。


 宴会もお開きになり、仙族の重鎮二人は領主の屋敷に戻った。素直に戻ったかは知らない、ユーゴの知る所ではない。ただ、寄り道して楽しんで欲しいとの思いはある。

 明日にはリーベン島に向けて出発する。
 朝食を済ませた後、各自領主の屋敷前に集まる様に打ち合わせて解散した。
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