196 / 241
第五章 四種族対立編
王の苦悩
しおりを挟む早速皆が刀を抜いた。
まずは強化術だ、剛力と迅速を増幅エネルギーで施す。全くの別物だ。
更に増幅した風エネルギーを錬気に混ぜ込み、龍胆に丁寧に纏う。前方にはウサギの魔物アルミラージ。
『剣技 朧』
技の名の通り、姿が霞む程のスピードで一気に距離を詰め、アルミラージを斬る。
斬られたウサギは三度飛び跳ね、空中で真っ二つになった。
皆が自身の刀の斬れ味に驚いている。というより、斬れ過ぎて引いている。
エマ達も目をキラキラさせて皆の剣技を見ている。
「ロン君! 空を駆ける練習また付き合ってね!」
「うん、もちろん!」
錬気銃を撃てるエマ達はすぐにコツを掴むだろう。ユーゴは我ながらいい方法を編み出したものだと練気の玉を指先に出した。
「さぁ、俺の番かな。この増幅した自然エネルギーは当然守護術も別物にする、自然エネルギーには硬さもあるからな。ただ、身を守るってのはそれだけじゃねぇぞ」
ユーゴ達アタッカーも当然習得しなければいけない。
けど、特にヤンガスとトーマスとジェニーの食い付きが違う。
「身を守るには硬さだけじゃなく、攻撃を受けるしなやかさも必要だ。例えば、どれだけ硬い物でもとんでもねぇ負荷がかかれば割れちまうだろ? それを割れなくするには、それにしなやかさを持たせて衝撃を吸収する事が大事だ」
――なるほど……考えたことも無かった……。
確かに、樹木は嵐の中でも柔軟に受け流して倒れない。あまりにも強ければ折れるが、折れないほどの硬いものに柔軟性を持たせるとさらに強度は増すという事だ。
「しなやかな物って言えば、木とか竹とかだな。他にもあるだろうが、身近にある物がいい。そういう自然エネルギーを増幅させて守護術に使う」
ティモシーの教えを腹に落としたトーマスが、ヤマタノオロチの革盾を構え守護術を張った。
「いい感じだが……おい、お前それ『臨眼』じゃねぇか……」
「え? りんがん?」
「盾の特性を守護術に写してるだろ。それ眼の力だぞ」
「あぁ、これ特異能力じゃ無かったんですね……」
「人族が特異能力なんて得る訳ねぇだろ。特異能力を得られるのは魔族と龍族だけだ」
トーマスの力は眼の力だったらしい。
ユーゴに特異能力があるのは龍族の血か。色々知らない事が多すぎる。
ヤンガスも今までとは全く別物になった守護術を張って興奮している。
「こりゃすげぇ……トーマスの力にゃ及ばねぇが、俺の刀の硬さをそのまま出せる」
「そうだな、その鋼のエネルギーを増幅するからな。その刀の硬さ以上の守護術が自然のしなやかさを得て更に強靭な盾になる」
ロンも剣に纏ったり守護術を張ったりと、色々試している。強いとはいえ、まだ子供のロンは魔力が少ない、ロンの戦闘法は決まった。エマ達の指導はロンに任せて良さそうだ。
各自が仙王とティモシーに質問しながら、自身の術を高めていく。エマ達も自然エネルギーの扱い方を一から指導してもらい、術の効果を上げた。その基礎はユーゴ達の仙術もパワーアップさせた。
やはり基礎をしっかり学ぶ事は大切だ。ジュリアも仙術の天才である事は間違いないが、仙術や仙神剣術の始祖から学ぶ事はまた別物だ。
ユーゴ達も龍王である里長から学ぶ事で、それぞれの術の効果が格段に上がっていたのだろう。
素晴らしい講習会は皆の戦闘力を高めた。
仙王達に礼を言い、ギルドに依頼達成報告に戻った。
◇◇◇
皆で個室のある酒場に来ている。
ポロッと重要な話が漏れてはユーゴ等が責任を取れるものではない。仙王達もたまにはとビアグラスを傾ける。
「いやぁ、俺ぁまだ強くなれるなんて思ってもなかったな。仙術と魔族の圧縮で限界まで強くなった気でいた」
「武術の鍛錬に終わりは無い。君は見たところ鍛冶師だろう? その道にも終わりは無いはずだ」
「確かに、違ぇねぇ」
原初の仙族二人は国を出る事があまり無いのだろう、自由に動ける事が楽しそうだ。仙神国とは違う庶民の料理を美味しそうに頬張っている。
「トーマスは眼の力を開眼してるって言ってましたよね? エミリーも何か開眼してるっぽいんですよ」
「ほぉ、どんな能力だ?」
「うん、説明が難しいんだけど……皮膚の弱いところが分かったり、攻撃しなきゃいけない所が分かったり、治療で言えば術をかける患部が分かったり、そんな感じかな……」
仙王とティモシーさんは顔を見合わせて考え込んだ。
「何だったか……昔そんな力を開眼した者がおったな……」
「そうだな……何だったか……」
思い出した仙王はあっと声を上げて言った。
「思い出した! 『慧眼』だ」
「そうだ、それそれ。物の本質を見抜く眼だな、洞察力も備えている。って、お前の前の妻の力じゃねえか」
「……あぁ、そうだったな。思い出すのも恐ろしすぎて忘れていた……」
相当な恐妻家だったらしい。この人は本当に偉い人なのだろうか。
「やっぱりそういう眼の力があったんですね! 色々試してみないと!」
「あぁそうだな、どんな力も完全に解明されている訳ではない。自己研鑽は必要だ」
奥様の話はしたくはないようだ。当然こちらから触れる事じゃない。
「お聞きしていい話かどうか分からないですが……リーベン島にはどういう用事で?」
「まぁ……我の持つ玉に用があるらしい」
なるほど、さすがにそれはこんな場所では聞けない。それには触れずに普通に宴会を進めよう。
エマ達三人はプロだ、普通に飲んだ所で相手を楽しませようとする。もう職業病なのだろう。隣の仙族二人は身分を忘れて楽しんでいる。
「なぁ、アタシよりもお祖父ちゃんの方がこの国で冒険したかったんじゃないのか?」
「え!? まぁ……確かにお前の目線で冒険した気になっていたのは事実ではあるが……」
仙王は眼の力で同族の青い眼を通して視界を共有することが出来る。確かに今まで見ていると、王というのは窮屈な存在なんだろうと思う。
「正直に言おう。ティモシーだけだ……我の気持ちを分かってくれるのは。王と言うだけで、単独行動はなりません! とか……仙神国を一人で行動するのも儘ならん……」
「まぁお前の気持ちが分かるからこそ俺が共で来たんだが……部下のお前を心配する気持ちも分かってやれよ」
切実だ。
仙王やティモシー程の使い手なら放っておいても問題はなさそうだが。確かに里長が単独で何処かに行こうとするならユーゴもついて行くだろうが。
島に着いたら宴会が開かれるだろう。
そこで王同士鬱憤を吐き出してもらえればいい。その横にはティモシーとシャオウあたりが横に居るのが良いだろう。
宴会もお開きになり、仙族の重鎮二人は領主の屋敷に戻った。素直に戻ったかは知らない、ユーゴの知る所ではない。ただ、寄り道して楽しんで欲しいとの思いはある。
明日にはリーベン島に向けて出発する。
朝食を済ませた後、各自領主の屋敷前に集まる様に打ち合わせて解散した。
0
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました
鈴宮ソラ
ファンタジー
オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。
レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。
十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。
「私の娘になってください。」
と。
養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。
前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる