【完結】ミックス・ブラッド ~とある混血児の英雄譚~

久悟

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第五章 四種族対立編

仙術の真髄

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 レトルコメルスの門を出て、錬気と風エネルギーでひとっ飛び。森はそう遠くない、直ぐに到着した。

「皆浮遊術は完璧な様だが、仙術と仙神剣術の更に深いところまでレクチャーしようか」
『よろしくお願いします!』

 仙王自らの指導など受ける機会は無い、貴重な時間だ。

「お祖父ちゃんの指導なんて初めてだな」
「そうだな、全て部下に任せていたからな」

 三人娘達がザワザワし始めた。

「ジュリアちゃんのお祖父ちゃんって事は……この方は仙王……様?」
「え!? なっ、なんの事だ!?」

 ――あ、バレた。オレは知らないぞ。

「はて……? せっ、仙王とはなんだったかな……?」
「おっ……おう! おとぎ話の奴じゃねえか!?」

 ――演技下手かこの人たち……。

「ジュリアちゃんが私は仙族だって……仙王はお祖父ちゃんだって……」

 仙王とティモシーの目がジュリアに突き刺さる。

「まぁよい……シャルロットの玄孫と言ったな、いかにも我は仙王だ。この事は他言せんように頼む」
「まぁ、この青い眼を隠してるのも知ってる奴がいたら面倒くせぇだけの話だしな」
「ふむ、特にバレてどうなるものでも無い。が、我が王国内をフラフラしているのがあの二人にバレたら通信機で怒られる……」

 あの二人。
 レオナード王とシャルロット女王の事だろう。仙王とはそんなに肩身が狭い身分なのだろうか。

「レオナード王とシャルロット女王とは相当仲が良さそうに見えますが、あのお二人は原初の仙族なのですか?」
「いや、あの二人はティモシーと共に我が信頼を置いていた二人の子だ。彼等は魔族との戦で亡くした、それ以来レオナードとシャルロットとは我が子同然に接している」

 なるほど、娘に怒られるパパと言ったところか。
 可哀想だ、他言しないように後から口止めしておこう。

 
 原初の仙族二人による仙術のレクチャーが始まった。
 
「仙術の基本は呼吸にある事は皆分かっておると思うが、呼吸で取り入れた自然エネルギーを体内でさらに増幅出来る事を知っている者は少ない。何故なら習得難易度が高いからだ」

 体内で増幅。
 自然エネルギーを変質するという事だろうか。これはおそらくジュリアも知らない事だ。

 説明が必要な様だ、と仙王は更に話し始めた。
 
「例えば今顔に当たっている風、これは天候によっては木々を倒す程の暴風になる。焚き火の火も、森に燃え移れば天に渦巻く火炎になる。火山噴火のマグマなど、生きているうちに見られるものでは無い。そういう上位の自然エネルギーを体内で作り上げる、それが仙術の真髄だ」

 ――言うのは簡単だけど、そんな事できるのか……?

 見回すと、皆そんな顔をしている。

「まずはやって見せようか」

 仙王はその場で目を閉じ、静かに手を広げた。そして、その手を前方のスレイプニルに翳す。

『仙術 塵旋風ダストデビル

 スレイプニルをとんでもない風の柱が下から突き上げた。途轍もない風切り音と共に跡形もなくなった。

「すっご……」
「これ純粋な仙術だよな……?」

「そうだ、これを気力ではなく錬気に混ぜればその威力は説明するまでも無いな? 更に魔族の様に圧縮して放てばさらに恐ろしい術になる。そして、先程の仙術に関しては魔力を一切使っていない、当然魔力を込めれば更に威力は増す」

 確かに凄い。
 魔力を使わずにこの威力、人族にとっては錬気術と共に扱えばこの上なく相性のいい戦闘法だ。
 しかし、難易度が高いとなれば相当な修練が必要だろう。

「先程も言ったが、これを習得するにはかなりの修練が必要だ。これを言葉でどう伝えれば良いかが難しい。しかし、ジュリエットが持ち帰った錬気術にヒントを得たのだ」
 
「そうだな、自然エネルギーの体内増幅の方法は、錬気術に少し似ている。錬気みてぇに『練る』ってのが言葉で言うとかなり近ぇな。でもこれは自然エネルギーと気力を混ぜる時に使うテクニックと変わらねぇ」

 という事は、ここに居る皆は基礎が出来ている。
 確かに錬気術はかなり良い戦闘法ではあるが、難易度で言えばそうでも無い。基本の仙術となんら変わりない。

「そう、近いが正解では無い。ただ、ジュリエットが習得していた錬気による高速移動からの空中歩行、それが出来るほどに錬気の精度を上げた者には、自然エネルギーの体内増幅はそう難しいことでは無いと見る」
「そうだ、要は自然エネルギーを体内で練ってエネルギーとしての精度を上げろって事だな」

「……て事は、錬気術が扱えるオレ達が自然エネルギーの体内増幅を扱うのに一番の近道は、錬気による空中歩行を習得するって事ですか?」
「あぁ、おそらくな。錬気術による空中歩行が出来る君たちが習得出来ればそういう事だ、理屈はそう遠くない」

 やってみよう。

 ――錬気術の精度が上がった今と習得したての時と何が違うかを考えろ……。
 
 まずは体内にある風エネルギーを錬気術の様に練る。

 ――あ……そうか、もう既に錬気術の精度が高いオレ達は、気力の練り方が以前とは別物なんだ。

 ならば同じ要領で普通に自然エネルギーを練るだけでいい。

『仙術 風魔の罠ジントラップ

 無数の風の刃で前方の岩を粉々にした。以前とは全くの別物だ。

「みんな、空を駆けることが出来るオレ達はすでに錬気の練り方が以前と違う。ただ自然エネルギーをいつも通り練るだけで完成する」

「ほう、やはり我の見立ては間違っていなかったな。我々はすぐに練気術で空を駆ける事が出来たからな、同じような事だろうと思っていた。ジュリエットに教えておくべきだったな。確信が持てず今になった、許せ」

 三人娘はポカーンとしてる。まだ錬気で駆ける事が出来ないからだ。

「エマ達がこれからする事が決まったな。今も目指している最終目的と同じだ、錬気で空を駆けることが出来れば、この仙術は完成する」
「うん、頑張る!」


「そして、この増幅した自然エネルギーで振るう剣は斬れ味が違う。我々の仙神剣術はこの増幅した風エネルギーで剣速を飛躍的に上げる事で完成する」

 そう言って仙王は異空間から両手剣を取り出した。さすがは王が持つ剣、発光してるかのように光っている。
 仙王が前方のスレイプニルに向け剣を構える、八相に似た構えだ。

『剣技 流星斬りメテオスラッシュ

 速い。
 一瞬で間合いを潰し、スレイプニルを斬ってこっちに歩いてくる。

「これが仙神剣術の真髄だ」

 ――え? スレイプニル普通に歩いてるけど?
 
 仙王が皆の所に着いた時、スレイプニルの首は静かに地に落ちた。

「斬られたのに気付かず相当歩いてたぞ……?」
「ユーゴ君の居合術の時よりもかなり長く歩いてたね……」

「剣速はそのまま斬れ味に繋がる。我々の仙神剣術は錬気術によりかなり昇華した。当然この増幅した自然エネルギーを強化術等に使えば、その効果は言わずとも分かるだろう」

 ――凄い……。
 
 これでさらにユーゴ達の戦闘力は上がる。術の追求は本当に終わりがない、まだまだ強くなれる。

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