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第五章 四種族対立編
SSSの冒険者
しおりを挟む【同日早朝 レトルコメルス】
カーテン越しに空が白んでいるのが分かる。
隣には静かに寝息をたてるエマ。
ヤンガスのお供でトーマスとジュリアが仙神国に向かって今日で六日目の朝だ。昨日は帰ってこなかった、おそらく今日帰ってくるだろう。
――エマはもう少し寝るかな、昨日も忙しかったみたいだしオレが朝食を作ろう。
味噌汁を作ってみよう、島の米はまだ残っている。
島の卵は適切な処理をして生食が出来るようにしているらしい。大陸の卵も新鮮ではあるが生食の習慣は無い。ユーゴには菌すら死ぬ異空間がある、よく洗って少し異空間に入れておけば問題なく生食が可能だ。
野菜の味噌汁を作り終える頃には米が炊き上がった。野営に使うメスティンは米を炊くのに役立つ。
味噌汁の匂いにエマが目を覚ました。
「おはようユーゴ君、何この匂い? 朝ごはん作ってくれたの?」
「あぁ、おはよう。リーベン島の朝ごはんを作ったんだ、食べてみてくれ」
島の物とは食器が違うが、味は変わらないからいい。配膳してエマの前に並べる、箸は無いからスプーンでいいだろう。
「えぇっと……生の卵があるんだけど……?」
「うん、それを混ぜてご飯にかけて食べてみてくれ」
「えっ……ホントに言ってるの……?」
生卵に醤油をかけ、よくかき混ぜてご飯にかける。
「美味いんだよこれが、騙されたと思って食べてみて」
エマは意を決して卵かけご飯を口に入れた。
「えっ、美味しい」
「だろ? 何でこれが流行らないのか不思議で仕方ない。あ、でもこれちゃんと処理した卵だから普段は火を入れて食べてくれよ?」
「このスープも美味しい!」
エマは未知の食事に大喜びだ。
「味噌汁も気に入ったみたいだな、味噌を少し分けてやろうか」
そう言ってユーゴは味噌を空間から取り出した。
「え……ユーゴ君……それを私に食べさせた訳……?」
――え、何が? あぁ、見た目か……。
「確かに、見た目は完全にウ〇コだよな……」
「ちょっと! 食事中にそんなの出さないでよ!」
「いやいや! これウ〇コじゃねーって!」
「連呼しないでよ!」
味噌を認めてもらうまで少しウ〇コ問答が繰り広げられた。
「ふぅ……美味しかったぁ……ユーゴ君ありがとう!」
「いやいや、いつも作ってもらってるからな、こちらこそありがとう。また作るよ」
トーマス達が出かけてから一度ロンと三人娘に術の指導をした。仙術をメインに教えたが、やはり魔力の少ない人族には自然エネルギーが有効だ。燃費がいい上に効果が高い。
今日の予定はユーゴ達がもう一泊する事が確定した為、エミリーと一緒にロンと三人娘に術の指導をする約束をしている。皆夜の仕事に忙しい、今日は店が休みとはいえゆっくりと寝てもらいたい。昼食を済ませてからギルドで待ち合わせだ。
昼前までゆっくりと過ごし、二人でランチに出かけた。
「あれ、トーマス達の魔力を感じるな、帰ってきたか」
「あ、そうなんだ、行ってみる?」
「そうだな、でも……何故か違う魔力も混ざってるけど……」
魔力を辿ると、ユーゴ達がランチによく使う店に着いた。
――やっぱりこの魔力、あの人達だよな……。
「ユーゴ、さっき戻ったよ。ただいま」
「あぁおかえり、で……? 仙……いや、ラファエロ様まで……?」
仙王がラフな平服で座っている。
目にはジュリアと同じ色付きのレンズだ。
「ユーゴか、龍……あぁいや、クリカラから連絡を受けてな。別に我が行く必要も無かったのだが、久しぶりにリーベン島に行くのも良いと思ってな」
「こいつ一人で行こうとするんだぜ? 信じらんねぇよ全く」
仙王の側近『ティモシー・プロヴァンス』も一緒だ。暗めのシルバーの髪と口髭が特徴的で、背が高くかなり体格がいい。原初の仙族らしい。
エマがユーゴのシャツをクイクイッと引っ張る。
――あぁ、紹介しないとな。
「ラファエロ様、オレの彼女のエマです。シャルロット女王の玄孫です」
エマは笑顔で一礼した。
「そうか、シャルロットの。どうだ? 昼食を共にしよう」
「いいんですか? ではお邪魔します」
お偉いさんとのランチ会が始まった。
「午後からエマ達の術の修練に付き合おうと思ってたんだ」
「そうなんだ、じゃあ僕たちも付き合おうか」
「そうだな、アタシも行くよ。もうホテルにはチェックインしたからな」
「ほう、では我々も行こうかティモシー」
「まぁ、特にやる事もねぇしな、いいぞ」
――え? 仙王様達が指導してくれるの……?
「良いんですか……?」
「あぁ、仙術くらいなら指導できるだろう」
「ティモシーさんが教えてくれるってんなら俺も行きてぇ!」
「オレ達も教えてもらいたいです!」
ヤンガスの参加も決まった。
ものすごい勉強会になりそうだ。
ランチを終えギルドへ向かう。
ロンとジェニーとニナを連れたエミリーの顔が驚きの表情で固まってる。
「え! 何で!? 」
「お二人が直々に指導してくださるらしい」
「いいの……? 凄いね……」
当然他の皆はこの人達が何者なのかは知らない。ただ、ユーゴ達の反応でとんでもない人だという事は察している様だ。
「いつも適当に依頼受けて行くんですよ。アルミラージが多いですね」
「依頼か、懐かしいな。我々も久しぶりに受けるとするか」
そう言って仙王とティモシーは冒険者カードを出した。
「え……お二人はSSSなんですか!?」
「ん? あぁ、我々二人とレオナードとシャルロットがSSS冒険者だ。君達の様にSSSランクの魔物を倒した訳では無いがな」
「SSを複数体ですか?」
「そうだな、大昔にケルベロスが二体のオルトロスを従えていてな、それを討伐しに行った事がある」
――SSランク三体を四人で……ウェザブール王の二人も凄いんだな……。
「SSS冒険者が六人も……ユーゴさんよぉ、あんたの周りすげぇな……」
「そうだよな……すごい世界に足を踏み入れてると思うよ……」
適当に依頼を受け、ギルドを後にした。
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