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第五章 四種族対立編

実のある食事会

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 沈みかけた夕日が湖を赤く染めている、日中とはまた違った美しさだ。
 グラシエルに着き、各自ホテルで汗を流す。皆がロビーに集まった時には、もう日は沈んでいた。

「さて、夕食を頂きに行こうかしら」
「今晩もサーモンかな、気に入ったよあの魚」
「えぇ、海の魚とはまた違いますわね」
「オラ、肉より好きかもしんねぇ!」
「確かにありゃ美味い。でもまぁ、オレ様はフライドポテトがあればいいがな」


 ヴァルファール家の門前に着き呼鈴を鳴らすと、すぐに案内された。

 広間の円卓には既にアザゼルが座っている。
 隣には、歳の頃はアザゼルと変わらない女性が座っている、夫人だろうか。

「よく戻ったな、あの化物は倒せたのか? 逃げてきたのか?」
「倒したわよ、思った以上に強かったわ」
「そうか、そう思って労いの料理を用意させた、座ってくれ」
「ありがとう、遠慮なく頂くわ」

 各自が円卓に着き、目の前のグラスに赤ワインが注がれた。

「俺達は魔王マモンに従おう、この宴はその近付きのしるしと思ってくれ」
「あら、認めてくれるのね」

 皆がグラスを掲げる。

「乾杯」

 領主アザゼルの乾杯で宴会が始まった。
 しばしの歓談で空腹を満たす。

「マモン、その赤い目は何だ? そんな色では無かっただろう?」
「あぁ、ファーヴニルとの戦いの最中に眼の力を開眼したみたいなの、人族の血でしょうね」
「なるほどな。では次の話はその男が落ち着くまで待とうか……」

 アザゼルの目線の先のルシフェルは、早速ビールをオーダーして料理を貪っている。彼にはマナーも何も無い。

「キミは先の大戦で見たな、ボクを覚えているかな?」
「あぁ前線で大暴れしていたな、お前らさえ居なければアスタロスの元に行けた」
「そうだね、あそこでボクと仙王がキミの足止めを務めた、そちらのレディもね」

 アレクサンドはアザゼルの横の女性とも面識があるようだ。

「あら、覚えてて下さったのね、光栄です」
「ボクは強くて美しいレディは忘れないよ」
「あら、嬉しいこと言ってくれるのね」

 アレクサンドが足止めするような者。凄い女なのかもしれない。

「アザゼルさんの奥さんじゃないの?」
「やめて下さる? こんな男の妻なんて死んでも御免です」
「紹介する、この女は『ラミア・エリュシオン』という。原初の魔族だ」
「初めまして、挨拶が遅れましたね。私は魔都シルヴァニアの北に町を作った。けど、リリスの悪政で潰された……それでここに頼み込んで移住しました。リリスの元に行くよりも、アザゼルに頭を下げる方が何百倍も良かったから」
「なるほどね、ラミアさんの町には今、鬼族の生き残りが移住してるわ」
「へぇ、是非有効活用して欲しいわね、私はこの町を気に入ってますから」

 二つの町が合併したらしい。
 シルヴァニア城下よりも大きな町かもしれない。


 ようやくルシフェルが、ビールとフライドポテトループに入った。

「あら、ルシフェルが落ち着いたわ。紹介するわね二人とも、ルシフェル・ドラクロワよ、ご察しの通り魔族じゃないわ」
「あぁ、美味い飯ありがとな、オレ様は天界から来た魔神だ」

 二人の頭にハテナが浮かんでいるのがよく分かる。ルシフェルの出生について掻い摘んで話した。

「何と……そんな世界が……」
「2000年以上生きてるけど……そんな話聞いた事もないですね……」

 そして、ファーヴニルの守る洞窟の中の出来事を話した。

「ワタシ達の創造主である魔将サタンは、天界の二種族に強い恨みを持ってる、他の三人もね。この話を聞いてどう思うかは個々に委ねると言ってたわ」

「……にわかに信じられる話では無いが、確かに我々には、この世に生まれ落ちる前の記憶が無い。その記憶があれば、四種族協力して天界という所に攻めていたかと問われればなんとも言えんな」
「えぇ、それは無いですね、宝玉を他種族から奪って攻めるでしょうね。事実、最初は宝玉を求めて争ってましたから。あぁ、封玉だったわね」

 原初の魔族の言葉だ、これが総意なのだろう。

「でも、龍王クリカラは協力する道を選んだと思いますね、あの男は甘いから。事実、仙王に頭を下げて隠居しましたからね」
「まぁ、我々がそれに協力する事は無かっただろうがな。当然イバラキもだろう」

 ルシフェルとテンは、我関せずといった表情でフライドポテトを口に運んでいる。

「で、魔王であるお前はどう考えている?」
「そうね、とりあえず城に持ち帰って話し合う必要があるわね。向こうは仙族と龍族が協力関係にある、人族の国でワタシ達に対して厳戒態勢を敷いているわ。魔都を建て直す期間も必要だから、五年はお互い手出しはしないよう約束してきたわ。口約束だけどね」
「そうか、向こうも創造主の思念を見るだろうからな、話はそれからか」

 話が途切れるのを待ってアレクサンドが口を開いた。

「アザゼル、キミはさっきマモンに従うと言ったが、それは軍事的な事も含むのかい?」
「あぁ、勿論だ。要請があれば軍を派遣しよう」
「リリスが何をしてくるか分かりませんでしたから、軍を鍛える事は怠っていませんよ」

「そうか、ではそれについて話がある。ボク達は見ての通り異種族でパーティーを組んで行動してる、以前は龍族もいた。だから各種族の戦闘法を取り入れ、各自戦闘力を大幅に上げた」
「そうね、二人とも、信頼する者をワタシ達に預けてくれない? 龍族と仙族の戦闘法をここに持ち帰って貰うわ、皆の戦闘力が跳ね上がるわよ」

 二人はなるほどと頷いている。

「では俺達の孫を鍛えて貰おうか」
「分かりました、私も伝えておきます」
「じゃあ、後日で良いからシルヴァニア城に派遣してくれる?」
「あぁ、分かった」

 
 やはりサーモン料理は美味しかった。
 二人に礼を言いホテルに戻った。

「明日は早めに出るから、朝食は早めに済ませてね」

 皆軽く頷き各自部屋に戻る。
 アレクサンドだけは夜の街に消えていった。


 ◇◇◇


 東の空は白んでいるが、まだ日は登っていない。皆朝食を終え、ホテルのロビーに集まっている。
 ルシフェル以外は。

「困った男ね……アレクサンド、どんな事しても良いわ。叩き起してきてくれる?」
「あぁ……分かったよ」


 少しすると、目を擦りながらアレクサンドに手を引かれてルシフェルが降りてきた。

「だらしないわね……しっかりしなさい」

 ルシフェルは返事の代わりに欠伸あくびを返した。

「さぁ、野営一泊して夕方には着きたいわね。全力で飛ぶわよ」

 ホテルに頼んでサーモンサンドを作って貰った。昼食を楽しみにシルヴァニア城に向けて飛び立った。
 
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