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第五章 四種族対立編

人族の血

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 皆の息は上がっている。
 呼吸が整い始めた時、サランが気付いた。
 
「あら、マモン……眼が赤いですわよ……?」
「え? 充血? 何か目に入ったかしら。痛くはないけど」
「違いますわ、瞳が赤くなってますの」
「ホントだな……なんだその眼の色は」
「ほぉ、これは何か開眼したな、赤色か」

 ――赤色……? なんでかしら。

「マモン……キミ、昇化したんじゃないか?」
「昇化……? あぁ、ワタシに流れる人族の血かしらね……なぜ緑じゃないのかしら……」

 サランから鏡を受け取り、自分の眼を見る。本当だ、ただの赤じゃない不思議な色だ。

「オレ様は開眼すれば琥珀こはく色だ。アレクサンド、テメェの眼はゼウスの因子で青色だ。ゼウスと神龍の因子が合わされば青紫、マモンはサタンとゼウスの因子が混じり合って赤色って事だな」

 ――なるほどね……青紫は実際に見てるもんね、ワタシの眼もそういう事か。

「テンも昇化する可能性があるわよね? ゼウスと悪鬼の因子の掛け合わせはどうなのかしら。ルシフェルは全ての因子を持ってるから琥珀色って事でしょ? それぞれの因子が複雑に混ざりあって色が変わるのね」
「そうだろうな……オレ様の他に例がねーからな、なんとも言えんが」
「まぁ、そうね……考えるだけ無駄だわ」

 ――眼の力か……多分あれよね。

「ねぇ、一瞬ファーヴニルが止まったの分かった?」
「あぁ、マモンの刺突剣がヒットする前だろ?」
「そう、止まりなさいって叫んだあと本当に止まったの。で、今のこの眼でしょ? だとしたらワタシの眼の力は相手を止める力なのかしら。事実、結構魔力が減ってるからね……」
「そんな力の持ち主がいたな……『劫眼ごうがん』だったかな」

 天界に能力者がいたらしい、また後日能力の確認はしないといけない。
 とりあえずお腹が空いた。

「さぁ、ファーヴニルの処理をしてお昼にしない?」
「うん! オラ腹減った!」

 特に防具になりそうな体皮でもなさそうだが、このレベルの魔物はそうそういない。素材になりそうなものは全部持って帰ろう。

 処理を終え火葬する。

「こんな魔晶石見た事ありませんわ……」
「これは凄いわね……」

 小さい魔晶石が五個、拳大の魔晶石が二個出てきた。

「シュエンは小さい魔晶石を腕防具に付けてたな。術の増幅効果があるんだろ? ちょうど五個だ、ボク達のガントレットにつけようか」
「そうね、帰ってベンケイ爺さんにお願いしようかしらね」

 さて、ワタシの眼の色が変わったって事は、異空間が開くと言う事だ。アレクサンドの記憶はある、開き方は知っている。

「やっとワタシ専用のクローゼットが手に入ったわね、羨ましかったのよね。素材はワタシが持って帰るわ」


 異空間に素材を入れ、少し移動して昼食を広げた。
 昼食はミンチ肉を焼いてバンズに挟んだハンバーガーとフライドポテトを食べた。ソースが美味しくて気に入った、明日も買って帰ろう。

「フライドポテトは揚げたてじゃねーとな……フニャフニャじゃねーか」
「まぁ仕方ないわ、夜に食べなさい」

 ハンバーガーを食べながら気になった事をアレクサンドに問いかける。

「ねぇ、アナタ何かした? 途中からファーヴニルが標的をアナタから外さなかったわ」
「あぁ、ダメ元でボクの眼の力を使ってみたんだ。すると、ヤツの気を引く事が出来た。実は盾役タンクとしてかなり相性が良い能力なのかもしれない」
「アレクの眼の力はどんな能力ですの? 見た事がありませんわ」
「あぁ、多人数戦で効果を発揮するね、またお披露目するよ。戦闘も恋も一緒だな、本気な時ほど気を引くことくらいで精一杯だ」

 能力も自分の意図しない使い方があったりするのかもしれない。マモンの力は手に入れたばかりだ。

「オラ何にも役に立ってねぇな……」
「オレ様もだ、こんなに無力感を味わったのは初めてだ……」
「テンは500年封印されてたとはいえ、まだ子供よ。これからアナタは更に成長するわ、恐ろしい程にね。ルシフェルは、身体が戻って日が浅い上にまだ眼の力も失ってる。これから皆で修練しましょ、軍事演習もして魔都全体の戦力もあげないといけないわ。まずは他種族の戦闘法の習得ね」

「……あぁ、そうだな、オレ様は自分の力を過信してたのかもな。あの化物が気付かせてくれたって訳か、感謝だな」

 ルシフェルは、シュエンの記憶でとんでもない怪物だと思っていたが、マモン達と何ら変わらない。横柄な態度の裏で、意外と努力家なのかもしれない。

 
 食事の後は本来の目的、天界へのゲート探しだ。

 ゲートがあるとすれば、ファーヴニルがいたこの辺りに違いない。手分けして探す。

「おーい! これじゃないか!?」

 アレクサンドが何かを見つけ、声を上げた。
 石柱の様なものが入口にあしらわれた洞窟だ。植物に覆われてはいるが、明らかに自然に出来たものではない。

「中に魔力は感じないな、念の為ボクが先頭を歩こう」

 中は暗い。
 アレクサンドを先頭に、火魔法で中を照らしながら奥へと進む。

「何かあるわよ」
「あぁ、四つの窪みだ、宝玉をはめる以外無いな」

 アレクサンドの言う通り、四つの窪みがある台だ。装飾が施してあるでもなく、ただ台座があるだけだ。
 アレクサンドがその台座を照らす。

「なぁ、この窪みだけ赤くないか?」

 四つ並んだ窪みのうち、確かに右上だけが赤く染まっている。

「ここにあかの宝玉をはめろって事かしら」

 アレクサンドから紅の宝玉を受け取り、赤く染まった窪みにはめ込んでみる。宝玉は赤く光を発し、洞窟内を明るく照らした。

 台座の上に、赤髪の鋭い犬歯の男が浮かび上がった、外見は魔族そのものだ。

「え、霊体……?」
「いや、これは思念じゃねーか?」

 浮かび上がった男は透けている。時々ノイズが入るが、良く通る声で話し始めた。

我輩わがはいはサタン・シルヴァニア。我が子等よ、この思念を見ておるという事はあれを倒したという事だ、相当に汝等うぬらの能力が上がったものと見える。この『下界』は我々が創った世界だ、天界で何が起きたのか、我々の恨みを汝等に見せよう。どう思い、どう行動するかは汝等次第だ」

 サタンがそう言うと、皆の脳裏に思念が流れ込んで来た。マモンの記憶操作によく似ている。
 
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