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第五章 四種族対立編

魔族の重鎮

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 領主の屋敷の鉄柵の前には部下が一人。

「先程は失礼いたしました、ご案内致します」
「いいえ、こっちからお願いした事だから」

 後に付いて屋敷内を歩く、かなり大きな屋敷だ。「こちらです」とドアの前まで案内された。ノックすると返事があり、中に入る。

「お邪魔するわね」
「よく来た、座ってくれ」

 見た目の年齢は仙王や龍王と変わらない。
 魔力の質が違う、さすがは未だ生き長らえる原初の魔族だ、他の男から生気を奪って生き長らえたリリスとは根本的に違う。

「マモン・シルヴァニアよ。自称レベルだけど、リリスを斃して魔王を名乗ってるわ。よろしくね」

「アザゼル・ヴァルファールだ。わざと部下に横柄な態度を取らせた。それを叱責し、無理矢理入ってくるような奴なら従う事は無いと思ったんだがな。試すような事をして悪かった」

 前魔王があれだ、試されても仕方ない。目の前に置かれた紅茶に手を伸ばし、会話を始めた。

「いいえ構わないわ、今日寄ったのはついでなの。ファーヴニルの討伐に一番近かったからね、全ての町に挨拶しに行こうと思ってたから良かったわ」

 アザゼルはマモンの目を瞬きもせず真っ直ぐに見ている。マモンも目を逸らさない。
 アザゼルはやっと瞬きをして、目の前の紅茶に手を伸ばした。

「その事だ、あれを討伐しに行くのか? 正気なのか?」
「えぇ、今の我が国最強のパーティーでね。ご存知かどうか分からないけど、仙族、人族と鬼族の混合パーティーよ」
「あぁ、分かっている。しかしだ、もう一人の得体の知れない魔力は何者だ……?」
「あぁ、説明が必要ね。アザゼルさん、明日の夜は予定あるの? 討伐後に寄るからその説明がてら食事でもしない?」
「あぁ、分かった、夕食はこちらで準備しよう。しかし、あれに勝つ前提で話している事が信じられん……さすがはリリスを斃す程の戦士だと言うことか」

 とりあえず信頼を得るのに、明日のファーヴニル戦は大事だ。
 こんな魔族の重鎮と話せる機会などない、時間もあるし少し話したい。

「で、アザゼルさん達は何故各地に散らばったの?」
「説明がいるか? リリスが魔王だぞ? そんな国に残っていられるか」
「あの女、昔からクズだったのね……アナタが魔王になれば良かったのに」
「俺が魔王にだと? それこそ御免だ、アスタロスは偉大すぎた。あれの代わりなど誰にも務まらん」

 千年経ってもなお語られる魔王。
 さすがは魔族の象徴と言われた男だ。ただ、三種族の戦闘法を合わせたマモンがそれに劣るとは思えない。

「リリスは氷の能力を持ってたわね、てっきりヤツの能力は生気の吸収かなんかだと思ってたわ。あの異常な若さと魔力の許容量だからね」
「未だにあの若さを保っていたのか? あれは特異能力じゃなく、特異体質だな」

 ――特異体質か……さすがに特異能力を複数持つ事は無いのね。
 
 マモンの記憶に関する能力も恐らく魔力吸収に付随する物だろう。魔力と共に吸収し、魔力に乗せて相手に送る能力だ。

「初代魔王は何か能力を持ってたの?」
「あぁ、アスタロスは単純に術の威力をブーストさせるような能力を持っていた。気力のボールも、どれだけ魔法を詰めた所で弾けることは無かった。禁呪もあいつの能力のうちだ、肉体が持たないレベルまで魔力を増幅して放つ、まぁ自爆のたぐいだな」

 ――え、禁呪って魔族に伝わる術じゃなくて、アスタロスの能力なのね……。

「禁呪ってリリスには扱えなかったのね……直ぐに息の根を止める必要もなかったって事ね……」
「あんなもの皆が使えたら、部下たちの自爆戦法ですぐにこの世は魔族のものだ」

 ――その通りね……間違いないわ。
 

「いい話が聞けたわ、明日も楽しみにしておくわね」
「あぁ、リリスを葬って魔王の座を奪うなど、どんな奴かと思ったが、話せる男で良かった」
「あら、心は女よ?」
「あぁそうだな、失礼した。ファーヴニル討伐、死ぬなよ」
「えぇ、楽しみにしといてちょうだい、面会ありがとうね」

 アザゼルの屋敷を出る頃にはいい時間になっていた。ホテルのフロントで紅茶を頼み、ロビーで皆を待つ。

「あらマモン、わたくしが一番だと思いましたのに」
「少し外出してたの、後で話すわね」

 サランが降りてきてから次々に皆降りてきた。

「さぁ、行きましょうか。夜も美味しいサーモン料理かしらね」

 アザゼルから抜かりなくおすすめのレストランを聞いている、一目で高級だと分かるレストランだ。

 席につき、ビールとおすすめを注文する。ビールで乾杯をして料理を待つ、テンはオレンジジュースを美味しそうに飲んでいる。

 明らかに魔物の物と分かるビーフステーキ、昼とは違うサーモン料理、あとは勿論ルシフェルリクエストの超大盛りフライドポテトが並んでいる。

「さっきね、領主に会ってきたわよ」
「なんだ? 門前払いされただろう?」
「えぇ、わざと横柄な態度を取らせて試させたんだって」
「なるほどね」
「明日ファーヴニルを討伐して帰ってきたら夕食を一緒に頂く事になったわ、領主の屋敷でね」
「今日はゆっくり休んで明日に備えないとですわね。アレク、羽目を外すのは明日ですわよ?」
「あぁ、分かってるさ。相手は最強クラスの魔物だよ」

 美味しい料理と少しのお酒で英気を養った。
 サランの言う通り、今日はゆっくり休んで明日に備えよう。
 
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