200 / 253
第五章 四種族対立編
門前払い
しおりを挟むファーヴニルが生息するのは『ファーヴニル山』と言う。山の名前が先なのか、魔物の名前が先なのかは知らないしどうでもいい。
ルシフェルも浮遊術を扱うが、風魔力を浮力に使う魔族タイプのものだった。自然エネルギーの扱い方を教えながら移動をしている。自然エネルギーは魔力を使わない分、燃費がいい。
ルシフェルの戦闘は興味深かった。
剣の腕もアレクサンドを唸らせた。
「オレ様の剣は、悪魔族の王族から習ったもんで『天魔剣術』って呼ばれてたな。しかし良く斬れるなこの刀ってのは、気に入ったぞ。いや、自然エネルギーを組み込んだからか、更に斬れるな」
天魔剣術は属性魔力を闘気に混ぜ込み、武器に纏う悪魔族特有の剣術だ。テンは方法を聞いても出来なかった。
目の前には今日の夕飯の牛の魔物がいる。
皆名前は知らないが、ホーンオックスの上位種の様だ。
「良し、オレ様が仕留めよう」
ルシフェルは刀を構えた。
足を前後に開き、顔の横に刀を構えている。シュエンから習った『八相の構え』に似ているが、少し深く腰を下ろしている。確かに通ずるものはありそうだ。
『剣技 悪魔の鎌』
速い。
一気に距離を縮め、牛を頭から真っ二つにした。錬気術を教えて空を駆けることが出来れば更にスピードは増すかもしれない。そうなれば恐ろしいレベルではある。
「アナタ、相当強いわね……」
「いや、まだ魔眼を失ってる上に、愛剣が無いからな。まだまだだ」
野営を一泊挟み、予定より早く昼過ぎにはファーヴニル山に一番近い町に到着した。
湖畔の町『グラシエル』
湖側から見ると水面に浮いている様に見える。湖に面して発展した美しい町だ。
「さぁ、着いたわね、まずは領主様に魔王就任挨拶でもしてきましょうか」
町に入り、ホテルにチェックインし、領主の屋敷を目指す。
魔都シルヴァニアは元々、シルヴァニア城周辺を囲んだ城下町があるだけの国だった。
およそ千年前の大戦で初代魔王アスタロスが討死した事により、原初の魔族である魔王の側近達はこぞって隠居した。各自が気に入った土地に一族と信頼する部下達を連れて町を作り、発展したのが魔都の各町のようだ。
ここグラシエルは、初代魔王アスタロスの右腕『アザゼル・ヴァルファール』が治める町だ。アスタロスとリリス亡き今、数少ない原初の魔族だ。
「さて、会ってもらえるかしら」
マモン達の魔力を感じたからか、屋敷の入口の鉄柵付近に数人並んでいる。
「マモン・シルヴァニア殿と見受けるが、ここは領主ヴァルファール家の屋敷である。要件はここで聞こう」
「えぇ、分かって来てるの。領主様に面会は願えるかしら? ワタシ一人でいいから」
「いや、要件はここで聞く」
「あらそう、仕方ないわね。じゃあ、明日の朝からワタシ達はファーヴニルの討伐に向かうから、その後にでも面会出来るか聞いといてくれる? これ、ホテルの名前と部屋番号よ」
「ファーヴニルを……討伐? わっ……分かった、伝えておく」
「じゃ、よろしくね」
昼食には少し遅いが、とりあえず腹ごしらえだ。
「兄さんが各町に触れ回るとは言ってたから、一応は伝わってるみたいね、でも残念だわ。とりあえず何か食べてシャワーを浴びたいわね」
「横柄な態度の部下だったな、いいのかあれで?」
「向こうからしたら、自称の魔王に従ってやる義理も無いって事でしょ? リリスの時からそうなんだから。でも一応納税はしてる様ね、アスタロスに対する義理かしらね」
「ふんっ、生意気な奴は殺してしまえば良いだろ」
「そんな事したらどんどん国力が落ちるわよ、良いのよこれで。無理して認めさせることも無いわ」
ホテル近くのレストランに入る。
「やっぱり、湖で採れる魚の料理がメインですわね」
「サーモンか、どんな魚なのかしら」
「ビールとフライドポテトも頼むぞ!」
「好きねアナタ……」
生のまま燻製にしたスモークサーモン、パン粉で揚げたものをパンで挟んだサーモンサンド、グリルもあるし、サラダにも乗っている。サーモン尽くしだ。
「うんめぇ――! オラ達が食ってた川魚とは全然違うぞ!」
「これは美味いな……スモークサーモンは素晴らしいぞ。この魚はカルパッチョにすると美味しいんじゃないか?」
「そうね、カルパッチョが良さそうだけど、ここには無いわね。サーモンが相当採れるんでしょうね、広い湖だもの」
皆でサーモン料理を楽しみ、ホテルに帰った。少しゆっくりしてディナーに出かけよう。
シャワーを浴び少し横になった。その後、メイクを直すが、それでもまだ時間はある。どこかブラブラしようかと思った時、呼鈴が鳴った。
「お客様、お手紙がフロントに届きましたのでお持ちしました」
「あら、ありがとね」
――手紙? なんだろう。
封を開けてみると、アザゼルからの手紙だった。
内容は、今日いつでも面会を受けよう、無理なら明日でも構わないと言う返事だった。
――門前払いしたくせに、どういう風の吹き回しかしら。
夜まで暇だ、行ってみよう。
0
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる