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第五章 四種族対立編
門前払い
しおりを挟むファーヴニルが生息するのは『ファーヴニル山』と言う。山の名前が先なのか、魔物の名前が先なのかは知らないしどうでもいい。
ルシフェルも浮遊術を扱うが、風魔力を浮力に使う魔族タイプのものだった。自然エネルギーの扱い方を教えながら移動をしている。自然エネルギーは魔力を使わない分、燃費がいい。
ルシフェルの戦闘は興味深かった。
剣の腕もアレクサンドを唸らせた。
「オレ様の剣は、悪魔族の王族から習ったもんで『天魔剣術』って呼ばれてたな。しかし良く斬れるなこの刀ってのは、気に入ったぞ。いや、自然エネルギーを組み込んだからか、更に斬れるな」
天魔剣術は属性魔力を闘気に混ぜ込み、武器に纏う悪魔族特有の剣術だ。テンは方法を聞いても出来なかった。
目の前には今日の夕飯の牛の魔物がいる。
皆名前は知らないが、ホーンオックスの上位種の様だ。
「良し、オレ様が仕留めよう」
ルシフェルは刀を構えた。
足を前後に開き、顔の横に刀を構えている。シュエンから習った『八相の構え』に似ているが、少し深く腰を下ろしている。確かに通ずるものはありそうだ。
『剣技 悪魔の鎌』
速い。
一気に距離を縮め、牛を頭から真っ二つにした。錬気術を教えて空を駆けることが出来れば更にスピードは増すかもしれない。そうなれば恐ろしいレベルではある。
「アナタ、相当強いわね……」
「いや、まだ魔眼を失ってる上に、愛剣が無いからな。まだまだだ」
野営を一泊挟み、予定より早く昼過ぎにはファーヴニル山に一番近い町に到着した。
湖畔の町『グラシエル』
湖側から見ると水面に浮いている様に見える。湖に面して発展した美しい町だ。
「さぁ、着いたわね、まずは領主様に魔王就任挨拶でもしてきましょうか」
町に入り、ホテルにチェックインし、領主の屋敷を目指す。
魔都シルヴァニアは元々、シルヴァニア城周辺を囲んだ城下町があるだけの国だった。
およそ千年前の大戦で初代魔王アスタロスが討死した事により、原初の魔族である魔王の側近達はこぞって隠居した。各自が気に入った土地に一族と信頼する部下達を連れて町を作り、発展したのが魔都の各町のようだ。
ここグラシエルは、初代魔王アスタロスの右腕『アザゼル・ヴァルファール』が治める町だ。アスタロスとリリス亡き今、数少ない原初の魔族だ。
「さて、会ってもらえるかしら」
マモン達の魔力を感じたからか、屋敷の入口の鉄柵付近に数人並んでいる。
「マモン・シルヴァニア殿と見受けるが、ここは領主ヴァルファール家の屋敷である。要件はここで聞こう」
「えぇ、分かって来てるの。領主様に面会は願えるかしら? ワタシ一人でいいから」
「いや、要件はここで聞く」
「あらそう、仕方ないわね。じゃあ、明日の朝からワタシ達はファーヴニルの討伐に向かうから、その後にでも面会出来るか聞いといてくれる? これ、ホテルの名前と部屋番号よ」
「ファーヴニルを……討伐? わっ……分かった、伝えておく」
「じゃ、よろしくね」
昼食には少し遅いが、とりあえず腹ごしらえだ。
「兄さんが各町に触れ回るとは言ってたから、一応は伝わってるみたいね、でも残念だわ。とりあえず何か食べてシャワーを浴びたいわね」
「横柄な態度の部下だったな、いいのかあれで?」
「向こうからしたら、自称の魔王に従ってやる義理も無いって事でしょ? リリスの時からそうなんだから。でも一応納税はしてる様ね、アスタロスに対する義理かしらね」
「ふんっ、生意気な奴は殺してしまえば良いだろ」
「そんな事したらどんどん国力が落ちるわよ、良いのよこれで。無理して認めさせることも無いわ」
ホテル近くのレストランに入る。
「やっぱり、湖で採れる魚の料理がメインですわね」
「サーモンか、どんな魚なのかしら」
「ビールとフライドポテトも頼むぞ!」
「好きねアナタ……」
生のまま燻製にしたスモークサーモン、パン粉で揚げたものをパンで挟んだサーモンサンド、グリルもあるし、サラダにも乗っている。サーモン尽くしだ。
「うんめぇ――! オラ達が食ってた川魚とは全然違うぞ!」
「これは美味いな……スモークサーモンは素晴らしいぞ。この魚はカルパッチョにすると美味しいんじゃないか?」
「そうね、カルパッチョが良さそうだけど、ここには無いわね。サーモンが相当採れるんでしょうね、広い湖だもの」
皆でサーモン料理を楽しみ、ホテルに帰った。少しゆっくりしてディナーに出かけよう。
シャワーを浴び少し横になった。その後、メイクを直すが、それでもまだ時間はある。どこかブラブラしようかと思った時、呼鈴が鳴った。
「お客様、お手紙がフロントに届きましたのでお持ちしました」
「あら、ありがとね」
――手紙? なんだろう。
封を開けてみると、アザゼルからの手紙だった。
内容は、今日いつでも面会を受けよう、無理なら明日でも構わないと言う返事だった。
――門前払いしたくせに、どういう風の吹き回しかしら。
夜まで暇だ、行ってみよう。
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