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第五章 四種族対立編
ルシフェルとポテト
しおりを挟む【同日 魔都シルヴァニア城】
「さぁ皆、長旅お疲れ様。魔都とウェザブールの往復はさすがに遠かったわね。久しぶりのシャワーは最高だったわ」
「あぁ、しかし目的は果たしたな。清々しい帰陣だよ」
軍を率いての移動はやはり骨が折れる。
正午を過ぎて到着し、ゆっくりと身体の垢を落とせるようディナーを食べながら皆で話す事にした。
仲間の間に序列は作らない。だから長机から円卓に変え、席次は特に決めない。
円卓にはマモンとアレクサンドにサラン、三兄弟と鬼族からはシュテンとベンケイ。新顔のルシフェルは、早く食わせろと言った顔で料理を睨みつけている。
「皆でディナーを囲んだ理由は、見たら分かるわよね? ここに座ってるルシフェルの紹介よ」
「あぁ、オレ様は『ルシフェル・ドラクロワ』だ。なぁ……もう食ってもいいか?」
「待ちなさい、はしたないわね。メイド達がワインを注いでるでしょ」
皆にワイングラスが行き届いた。
「さっきアレクサンドが言ったけど、ワタシ達の当面の目的は果たしたわ。それを祝して乾杯しましょ」
皆でグラスを掲げた。
ワインを飲む前にルシフェルは目の前の料理にかぶりついた。
長い間封印されてた上に霊体だった。野営の食事も悪くないが、テーブルに並べられた料理はかなり久しぶりなのだろう。
「さて、食べながら話しましょ。ワタシ達はここに移動しながら何となく聞いたけど、全て聞いた訳じゃない、椅子に座ってゆっくり聞きたかったから。ルシフェル、自己紹介してくれるかしら?」
……。
「……ルシフェル?」
ディナーに夢中だ。食べながらにしようという提案は大失敗だったのかもしれない。
「ルシフェル、ディナーは逃げないよ……」
「んあぁ……美味すぎるなこれ。この棒の食いもん何て言うんだ? 止まらねぇ」
ルシフェルはフライドポテトに夢中だ。
ステーキやピザを頬張り、ワイングラスをビアグラスに持ち替えて流し込んでいる。
ようやくフライドポテトをつまみながら話し始めた。
「名前はさっき名乗ったな。まずオレ様はこの世界の者じゃねぇ。天界で悪魔族と神族の間に生まれた魔神だ」
最初に聞いた時は驚いた。魔神の正体は想像以上の存在だった。
ルシフェルは、創り上げられた二種族にゼウスとサタンが追いやられた事、最期の力でこの下界を創り上げた事、下界の四種族の祖はゼウスとサタンとそれぞれの従者である事を皆に説明した。
「で、その天界からはどうやって来ましたの?」
「それを言うにはまず他の話からがいいな」
ルシフェルはフライドポテトを平らげ、仕方なくビールを飲みながら話を続ける。
「神族と悪魔族が争ってたのは大昔の話だ。今や二つの種族が共存してる地域もあるくらいだ。オレ様はそこの出身なんだがな」
「二種族間で子が出来る事は稀にあるのか?」
「いや、後にも先にもオレ様だけだ。絶対に出来ることはないと言われていた。オレ様が生まれ落ちたのには色んな奇跡が重なったからだって言ってたな。詳しくは知らんがな」
「確かに、この世界の四種族間も子が出来ることはほぼ無いからな」
「最初は良かったよ、悪魔族の王族たちが興味を持ってオレ様の英才教育が始まった。良いもん食わせてもらって、欲しいもんは何でも手に入った。ある日、オレ様は『魔眼』を開眼したんだ。悪魔族には無い神族の眼の力。オレ様は時を止める程の力を手に入れた」
ルシフェルの横柄な態度は王族にチヤホヤされた時に形成されたのだろうか。
ユーゴが開眼したのは神眼というルシフェルの魔眼に対抗するほどの力らしい。ルシフェルは今、眼の力を失っている。それがあそこで引いた理由だ、それは皆すでに聞いている。
「神族と悪魔族は異常にゼウスとサタンの報復を恐れている。下界の事が何も分からないからだ」
天界の二種族が恐れる下界四種族の祖の名。
『仙神 ゼウス・ノルマンディ』
『神龍 レイ・フェイロック』
『魔将 サタン・シルヴァニア』
『悪鬼 ラセツ』
彼らは天界二種族に弓を引かれ、下界を創造し各自種族を生み出した。
「我らに弓を引きし愚者共よ。仙、龍、魔、鬼、我等の創りし四種族が、四つの封玉と共に天界を滅ぼすであろう」
彼等の最期の言葉が天界二種族の戦を止めた。彼等は下界四種族に対して備える道を選んだ。
「奴らは気付いたんだよ。ゼウスとレイの神族、サタンとラセツの悪魔族。その二種族の間に生まれたオレ様がこの世で唯一、下界四種族の全ての因子を持っている事にな」
「……それでアナタを恐れて手のひらを返したって事?」
「あぁ、そうだ。異常に多い魔力と気力、特異能力の他に眼の力まで持っていたオレ様は、奴らの恐怖の対象になった。そして神族、悪魔族、両方に命を狙われ始める。さすがに多勢に無勢、オレ様は身体を失い特異能力である体外浮遊で憑依を繰り返し生き長らえた……」
ルシフェルはビアグラスをドンッと勢いよくテーブルに叩きつけた。思い出したくない過去なのだろう。
「ビールとフライドポテトおかわり!」
「……こんな重い話の最中にどんだけ食べるのよ……」
――締まらない男だわ……。
「ねぇ、さっき出た『封玉』ってのは何? ワタシ達は宝玉って呼んでるんだけど」
「その事じゃが、ワシも今思い出した。あれは昔、封玉と呼んでいた。いつの間にか宝玉と呼んでいたのぉ……」
伝達ゲームの様に長い年月で呼び名が変わってしまったらしい。誰も忘れてしまうほどに。
「申し訳ございません……フライドポテトを切らしてしまいまして……」
ルシフェルが絶望の表情を浮かべる。
「あぁ、構わないわ。ポテトチップスでもかじらせときなさい」
「フライドポテトが……無いのか……」
ルシフェルの落胆をよそにベンケイが話を続ける。
「我ら四種族の祖たちの意図が分からん。何故ワシらの記憶が無いのか」
「そうだね、天界二種族への復讐が目的なら、その憎悪の念を創り上げた種族に植え付けるべきだ。何故それをしなかったのかは確かに疑問だな」
皆がルシフェルの発言を求めて視線を送る。
ルシフェルは目の前のポテトチップスに夢中だ。
「これも美味いな……なんだここの料理は。中毒性が凄いぞ……ビールおかわり!」
――なんなのコイツ……食べ物取り上げてやろうかしら……。
「はぁ……聞いてた? ルシフェル」
「あぁ? そんな事オレ様が知る訳ねぇだろ」
まぁ、そうだろう。
考えて分かる話でもない。
ルシフェルはポテトチップスをバリバリ音をたてて食べながら、ふてぶてしく話を進めた。
「で、話の続きだが、憑依を繰り返し逃げてきたオレ様は……バリバリ……とうとう追い詰められ二種族に封印された。封印術は30年で一気に効果が……バリボリバリ……弱まる事が多い。その隙を狙って封印から逃れたオレ様はたまたま目に……バリボリボリボリ……付いた子供に憑依して走り続けた」
「バリボリうるさいわね! 話が入ってこないわ!」
「良いじゃねぇかよ! 飯食いながら話そうって言ったのテメェだろうがよ!」
「……まぁまぁ、マモン。イライラせずに気長に聞こうじゃないか」
――ふぅ……コイツのペースに慣れないとイライラして仕方ないわ……。
ワインを一口飲んで心を落ち着かせた。
「失礼、で?」
「あぁ、ビールとポテトチップスおかわり!」
――コイツ……落ち着けワタシ。
「天界には下界に繋がると言われているゲートがある。が、通る方法は分かっていない。下界からも繋がったことは無い。追い詰められたオレ様は一か八かそのゲートに飛び込んだ。気が付くと知らない山にいた、下界に飛んだ事はすぐに理解したがな。ただ、オレ様は憑依する奴を間違えた。テメェらも知っての通り、魔封眼を開眼したガキだったんだよ」
「そのゲートをアナタが通れた理由はおそらく、アナタが持つ四つの因子ね」
「あぁ、それしか無いだろうな」
話を聞いているのかどうなのか、変わらずルシフェルはポテトチップスをビールで流し込んでいる。
沈黙の中、ポテトチップスをかじる音が響いている。
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