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第五章 四種族対立編

剣速

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 少し移動すると、前方にはアルミラージが一匹。

「まずはオレが貰うよ」

 龍胆に風エネルギーを混ぜた練気を纏う。技術的には特に難しい事ではない。

『剣技 撫斬り』

 距離を一気に詰め、大ウサギを斜めに斬りつけた。確かに剣速が増し、刀の斬れ味もかなり増している。

「なるほど。威力は魔法剣技が圧倒的だけど、単純な斬れ味に関してはこっちの圧勝だな」

 トーマスとエミリーも木や岩を試し斬りした。
 
「うん、かなり剣速が上がるね」
「これ一体一ならこっちの方が良いかもよ?」
「そうだな、確かに魔法剣技は威力はあるけど、大振りになるからな」

 ――そうだ、もう一つ試そう。
 
 刀を鞘に納めて重心を落とし、前方を歩くスレイプニルに向け構えた。

『居合術 閃光』

 全力で地を蹴り、風エネルギーで更に抜刀の速度を増した居合術。刀が身体を通過した後、スレイプニルは数歩歩いて倒れた。首は胴から離れている。

「はっや……見えなかったんだけど」
「斬られてからちょっと歩いてたよ……? 斬れ味が凄すぎて斬られた事に気付かなかったって事?」

「居合には確実にこっちだな。エマ達にはまだ魔法剣技は教えてないけど、風エネルギーを混ぜた練気を纏った方がいい。遁術は今から精度を高めるべきではあるけど、自然エネルギーで威力を増した方が良いな。更に魔力を温存するなら仙術の方がいい」

「「「はいっ!」」」
 
「ロンの魔力量はまだ成長過程にある、だから積極的に魔力を使うのはいい事だ。でも、乱発し過ぎていきなり魔力切れなんて事もあるから気を付けてな」
 
「分かったよ!」

 やはり人に教えるのは大事だ。
 絶対に気付かなかった事に気付けた。
 
「なるほどね、為になったよ。使い分けていかないとね」
「あ、王都に帰ったらマシューにも伝えないとな」
「だね、仙術も教えとかないと!」

 剣は奥が深い。一生かかっても完全に理解することは無いだろう。
 

 
「よし、帰るか! Aランクゲットだ!」
「おー!」

 皆で飛び立ち、全力でレトルコメルスに向かった。疲れているはずなのに行きよりも早くついた。

 ギルドに戻り、依頼品をカウンターに提出する。三人の防具分の体皮は多めに取ってある。

「でっかいロックリザードだったみたいだな。あとはアルミラージとスレイプニルが……結構狩ってきたな。全部で60万だな」

「あ、オレ達は良いよ、四人で分けてくれ」
「え、いいの? 授業料は?」
「良いって、金じゃ買えない良い気づきを貰ったしな」

「それと、ほらよ! Aランクおめでとう!」
「やったー!」

 三人は飛び跳ねて喜んでいる、いい笑顔だ。

 
 ギルドを後にし、ロンの防具を作ってもらった職人の所に向かう。

「おぉ、坊主。またサイズの直しか?」
「今日は俺じゃないよ、こっちの三人の防具を作ってもらいたいんだ」
「あんたらが仕留めたのか?」
「はい、ロン君に色々教えて貰って」
「そうか、じゃあ採寸させてくれ」

 オッサンは隠しきれないエロい顔で若い女の採寸をしている。

 ――分かるぞオッサン、オレも真顔で採寸なんて無理だと思うから。

「坊主ん時と同じ一人三万で作るよ、三人分だからな……半月は欲しいな」
「よろしくお願いします!」

 エマと会った時はユーゴもAランクだった。それが今やエマもAランク冒険者だ。
 そして確実にエマの方が強い。

「じゃあ、仕事頑張ってな! 無理はしないようにな?」
「うん、私は大丈夫だけど……ジェニーとニナ大丈夫……?」
「うん、問題なし!」
「私も元気いっぱいですよ!」
「そう……? 無理しないでね?」

 二人は親指を立てて答えた。

 ――タフだな……今日もトーマスと行こうかな……。
 
 ロンとエマたち四人と別れホテルに戻ると、ロビーには里長達がいた。

「おぉ、お主ら今帰りか?」
「はい、友人達の試験に付き合ってました」
「左様か、夕食は決めておるのか?」
「いえ、特には」
「では一緒に行こう、日暮れに玄関口に集合だ」
「御一緒していいんですか? 分かりました!」

 他に誰か来るのだろうか。

「昨日のSSの試験の事聞かないとね!」
「あぁ、そうだった!」
「アタシも行って良いんだよな?」
「そりゃ良いだろ、ずっと行動共にしてるんだからな。じゃあ、シャワー浴びて後でな!」


 ◇◇◇


 シャワーで済まそうと思ったが、割と時間があったのでサウナに入ってきた。トーマスも同じ考えだった。
 今二人でロビーで涼んでいる。我慢できずにフロントに無理言ってビールを貰ったのは内緒にしておこう。さすがは高級ホテル、融通がきく。

「なぁトーマス」
「ん?」
「ジュリアとジェニー、お前を取り合ってるな」
「あぁ……悪い気はしないよね。けど、ジェニーちゃんは全部分かってるよ」
「え……? どういう事?」
「僕は結構前からジュリアが好きだよ。昨日ジェニーちゃんの指導中、ジュリアが外した時に聞かれたんだ。ジュリアが好きなんでしょって、私に任せてってね。あの子ノリノリだったよ」
「え、そうなの……?」
「うん、ジュリアの反応は正直に嬉しかったよ、ジェニーちゃんには感謝してる。ジュリアが少なくとも嫉妬してるのが見えたからね。あとは僕がどう決めるかだ」

 ――ジェニーえらくグイグイ行くなとは思ったんだよな……。

 ただ、店に行った時に一年ぶりの再会でトーマスに抱きついてた。昨日の朝もそうだ。ジェニーはおそらくトーマスに気がある、でも近くで見るとトーマスはジュリアに気があるってのが分かって引いたのだろう。それはジェニーにしか分からないが。
 どちらも付き合いが長い分複雑だ。でも、決めるのはトーマスだ。それを必要以上に詮索するほどユーゴは野暮ではない。

 休んでいるとジュリアとエミリーが降りてきた。

「おう、ずっとここに居たのか? ビアグラス横に置いて」
「え!? 水だけど……?」
「嘘つけ、水でグラスに泡が付くか」
「あぁ、そうか……」

 ――こいつ……たまに鋭く突っ込んでくるのに何で色恋になったら鈍いんだろうか……フロントにグラス返しとこう……。


 少しすると皆が降りてきた。
 里長を先頭に、シャオウ、メイファとヤンガスだ。ギルドの依頼を受けてた四人か。

「待たせたか?」
「いえ、サウナの後にゆっくりしてました」
「左様か、では行こう」

 里長達の足は一直線に冒険野郎に向かった。
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