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第五章 四種族対立編

それぞれの想い

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 エマはその後、アルミラージとスレイプニルを数頭切り刻んだ。
 夕方になり、皆と合流する為に元の場所に向けて歩く。

「疲れただろ? お店大丈夫か?」
「あれ、言ってなかったっけ? 今日はお店定休日なの」
「あぁ、そうなのか。今日エマの部屋に泊まっていい?」
「もちろん! イチャイチャしようね」

 約一年ぶりのイチャイチャだ。
 ユーゴは一切浮気をしていない。他の女性の裸で勃起したくらいでは浮気には当たらないだろう。

 皆は既に集まっていた。
 トーマスの両手にジュリアとジェニーが抱きついている。

「何してんの二人とも……」
「指導が終わった途端ジェニーがトーマスを独り占めしようとするから、アタシも片腕貰ってるんだよ!」
「ジュリアちゃんと私、どっちがトーマス君を射止めるか勝負するんだよね!」
「なっ!? アタシは……そっ、そんなんじゃないからな!」

 ――よしよし、いいぞジェニー、もっと煽れ。トーマスもさすがに気付いたな。

「それはいいけど、ジェニーの術は?」
「うん、完璧だよ。メイファさん式イメージ法でね」
「あぁ、オレもそれで教えたよ。オレらは切りつけられたけどな……」

 エミリーとニナは意気投合している。
 空気感が似ているとは思ったが、本人達は余計にそう感じたのかもしれない。

「ニナは私と同じ症状で苦手意識持ってたね! 里長さんから貰った魔法の言葉で一発だったよ!」
「エミリーちゃん教え方上手なんだもん! 明日も教えてくれない?」
「いいよ!」

 里長からの魔法の言葉。また教えてもらおう。

「今日は店休みらしいから皆で飲みに行かないか?」
「賛成!」
「よし、エマはオレがおんぶして行くよ」
「じゃ、ニナは私!」
「じゃあジェニーちゃんは僕……」
「ジェニーはアタシだよ!」

 ――ジュリアいいぞ!

「よし、全力で飛ぶからな!」

 エマをおんぶし、全力の浮遊術でレトルコメルスを目指す。エマの二つのふくらみが背中にバウンドする。

 ――はぁ……夜が待ち遠しい……。


 ユーゴ達の全力だ、レトルコメルスにはすぐに着いた。

「速すぎるよ……さすがだね……」
「明日も大丈夫ならAランク試験付き合うぞ? その後にでも浮遊術を教えるけど」
「私はお願いしたいけど、みんな大丈夫?」
「私は大丈夫! こんな機会無いもん!」
「勿論大丈夫です!」

「よし、じゃあ明日の朝ギルドに集合でいいか?」
『はい!』
「では、汗を流して冒険野郎に集合で!」
「了解! もうスッピンで行くよ」

 三人はBランクだが、レトルコメルス在住者だ、検問に並ぶ必要は無い。

 今日の分の報酬は明日まとめて貰えばいいが、肉は当日なら食用として良い値で売れる。紹介された店に売り捌いてロンと三人に分配した。
 皆家に帰って行った。ホテルに帰って部屋のシャワーを浴びよう。


 汗を流しロビーで涼んでいると、バッチリオシャレをしたジュリアが降りてきた。

「おぉ、気合い入ってるなジュリア」
「気合い? いつも通りだろ」

 メイクは勉強中だと言っていたが、ジュリアはスッピンでも十分美しい。オシャレをするだけで他の女性を突き放す。

 しかし、相手はソレムニーアベニューの人気者ジェニーだ。ジュリアも危機感を抱いているようだ。

 ――いやぁ……面白い戦いだ。楽しんでごめんよ、トーマス。

 皆すぐに降りてきた、冒険野郎に直行だ。


 ホテルに帰る前に寄って席を予約しておいた。
 店に入ると、ラフな格好の三人がスッピンでビールジョッキを傾けている。高級クラブでは考えられない姿だが親近感を覚える。彼女達のこの姿を見れるのはかなりレアだろう。

「おまたせ、遅かったかな?」
「いや、私達もさっき来たとこだよ」

 ロンは美味しそうにリンゴジュースを口に含んでいる。

「まずはロン、この三人をここまで鍛えてくれてありがとう。お前をエマの店に押したのは間違いじゃなかった、ロンを誇りに思うよ。あと二年、お前なら騎士団で大出世すると思うよ。その指導を受けた三人は良く一年足らずでここまでの戦士になったと思う。明日はAランクだ、話が長くなったけど、乾ぴゃ……」

 良いところで噛んだ。

「締まらないねユーゴは……私が請け負うよ! カンパーイ!!」

『カンパーイ!』

 エミリーに良いところを取られた。
 トーマスの両サイドにはジュリアとジェニー、両手に花のトーマスはまんざらでも無さそうだが、どちらを選ぶか楽しみではある。

 エミリーの横には一日で意気投合したニナが、ユーゴの横にはエマが座っている。ユーゴとエミリーの間にはロン。

 ロンは二年後には騎士団に入団する予定だ。
 しかし、五年後には例の奴らがこの国に攻めてくる可能性がある。ユーゴ達はもちろんそうだが、ロンもその戦いに参加する可能性がある。さすがに五年で昇化するのは難しいだろう。
 
 ――いくらロンが強いとはいえ、奴らとの戦闘に人族が介入するのは難しい。こいつをあのレベルの戦いに参加させていいものか。しかし騎士団はロンの夢だ。オレがロンのレベルを上げる事でこいつの……

「ユーゴ君!」
「んあぁ! どうした?」
「何難しい顔してブツブツ言ってるの……?」
「え、あぁ……ブツブツ言ってた……? いや、何でも無い、今日は飲もう!」

 そうだ、考えても仕方ない。

 ――前線は王都だ、オレ等が抑えればそれでいい。でも……先日の物見で兵を亡くしている。戦はもう始まってるんだ、戦が始まれば亡くなる兵もさらに増える。さすがにエマ達にまで被害が出ることは無いだろうけど、各町から徴兵があるはずだ。でも、エマ達は今や立派な冒険者だ、明日にはAランクになるだろう。高ランク冒険者が戦に駆り出される事も考えられ……

「ユーゴ君って! 私が横じゃ楽しくない……?」
「あぁーっ!! ごめんごめん! 何か最近考え込んだら止まらなくてさ……ちょっと癒して欲しいかも……」
「もっと甘えてくれて良いんだよ……? 甘えてるの私ばっかりだからさ」
「いや、そんなことない。どれだけエマの存在がオレの支えになってるか」

「ちょっと二人とも、俺が横にいるの忘れてない?」
「えっ、あぁ……昼も気使ってくれたもんな……すまんすまん。よし、飲むぞぉー!」

 そうだ、まだ五年ある。
 
 ――悩むのには十分すぎる時間だ。オレ達も更に強くなれる期間だ、これから里に帰って更なる研鑽も出来るんだ。里からレトルコメルスまでは二日もあれば来れる、今日みたいにオレの大切な人達を鍛えられる時間なんていくらでも……

「おーっと! またループに入りかけた!」
「いや、かけたじゃないよ、入ってたよ」
「ごめん……よし、乾杯!」

 ロンとエマ、三人でジョッキを合わせた。
 こうして皆が楽しく酒を飲めるような世の中を守っていかなくてはならない。

 ロンもジョッキでリンゴジュース。さすがは冒険者の味方、冒険野郎だ。

 結局、冒険者が酒を囲めば盛り上がる。
 しかもエマ達は接客のプロ集団だ。しかし、店よりナチュラルに楽しんでいた感じがする。なんだかんだでジュリアとジェニーも仲良くなっている。良かった。

 明日の約束をして解散した。
 ジュリアとトーマスが二人で腕を組んで帰って行くのをジェニーが見送っている。

 ユーゴは方向が同じロンとエマの家に向かう。

「いやぁ、楽しかったなぁ。ロンも年頃だ、好きな女とかいないのか?」
「いやぁ……そんな暇ないよ……」
「ロン君はねぇ、ニナが好きなんだよねー」
「アァーッ! エマさんバカァ!」
「私は応援してるんだよ?」
「そうか、いい子だもんなニナちゃん。あの子からしたら、ロンが居たから今の店にいる事ができてるのもあるしな、あながち無謀な恋じゃ無いかもよ? お前の弟子だし」
「ユーゴさん、笑わないの……?」
「笑うわけないだろ、年の差なんて関係ない。たかが五歳くらいだろ? うちの両親なんて100歳以上差があるしな」

「……は? 100歳?」
「あっ! いやっ……10歳の間違いだ! 酔っ払ってるなオレ!」

 ――ふぅ、何とも思わず喋ってた……二人が昇化したら言おうかな……。

 そうだ、エマがこれから武術に打ち込み続けて昇化する可能性もある。そうなればずっと一緒に居る事が出来る。

 エマの家に着いた。
 ロンを見送り部屋に入る。二人でシャワーを浴び、そのままベッドの上で愛を確かめ合った。
 出会いは最悪だったが、今となってはいい思い出だ。ユーゴはエマを愛している、この女性を一生守っていくと心に決めた。
 
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