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第五章 四種族対立編
開眼
しおりを挟む皆はあまりの事に動けずにいる。
それよりシュエンだ。
「エミリー! 頼む!」
言い終える前にエミリーは駆けつけて、シュエンに快癒をかけた。傷だらけだった身体が癒える。大丈夫だ、生きている。
「そっちの女性はおそらくオレの母さんです! 手当てお願いします!」
「よし、治療施設へ二人を運べ!」
ソフィアであろう女性は砦内に運ばれて行った。その声でシュエンが目を覚ました。
「ん……」
「父さん! 大丈夫か!?」
「あぁ……ユーゴか……俺は……そうか、あの魔神にやられたんだな……」
「あぁ、エミリーが治療した、大丈夫だ。オレへの恨みはまだあるか?」
「お前への……恨み? 何の事だ……?」
魔力障害が治っている。
エミリーの快癒はやはり万能だった。
「良かった……父さん、魔力障害に冒されてたんだぞ……」
「俺が、魔力障害に……? そうか……マモンやアレクは?」
――そうか、マモン達が仲間だという記憶のままか。
「それは後で話す、立てるか?」
「あぁ、大丈夫だ」
「シュエンよ、正気を取り戻した様だの」
「あぁ、父上。正気……か……迷惑をかけたようだ」
「お前ぇ……良かった……」
「おいおい、ヤン。泣く奴があるかよ」
想定外の事が起きすぎた、軍議にかける他ない。皆が砦に向け帰陣した。
ユーゴとシュエンは治療施設に向かった。
エミリーとメイファがベッドの脇にいる。横たわる女性は間違いなくソフィアだ。ユーゴの記憶が鮮明に呼び起こされた。
「ソフィア……また会える日が来るとはな。姉さん、大丈夫だよな?」
「あぁ、問題は無い。気を失っているだけだ、直ぐに目覚めるだろう。念の為エミリーが快癒をかけている」
いつ目覚めるか分からないが、シュエンは傍を離れない。皆で見守っていると数分後、ソフィアは目を開けた。
「ソフィア! 俺だ、分かるか!?」
「大きな声出さないでよシュエン……」
「良かった……」
シュエンは、両手でソフィアの手を握り泣いている。
「息子の前で大泣きしないでよ……ユーゴ、久しぶりね。夢で会ったっきりかしら?」
「あぁ、今日一瞬だけど時が止まったよ。母さんの言う通りだった」
「そうね、両眼の色が揃ったわね。『神眼』の開眼よ、気付いてる?」
――両眼……?
「うん、ユーゴの両眼は青紫になってるよ、ほら」
エミリーから鏡を受け取り確認する。
ユーゴの両眼は、ソフィアと同じ青紫に変わっていた。新しい眼の力だ、扱い方はまだ分からないが。
「眼の力を使ったんだな、ごっそり魔力持っていかれたよ……多用できる力じゃないな」
「それでもすごい能力だよね……最強だよユーゴ」
ソフィアは身体を起こし、ベッドから脚を下ろして座った。
「おいおい、無理をするなよ?」
「大丈夫です。シュエンのお姉さん、エミリーちゃん、ユーゴが大変お世話になってます。こんな息子ですが、これからもよろしくお願いします」
座りながらではあるが、ソフィアが頭を下げている。
――なんだろう、凄く恥ずかしい……。
「母さん……今言うことかよ……」
「ずっと伝えたかったのよ。他の皆様にもお礼を言わないと」
「いいって! オレが皆様に伝えてるから!」
「いや、ユーゴ、母親ってのはこんなものだ。いつまで経ってもお前は子供なんだよ」
「はぁ……そんなもんですか……」
メイファに言われるとそう答えざるを得ない。
それより、ソフィアはユーゴの中に居ながら外の出来事は把握していたという事だ。メイファやエミリーを知っているという事はそういう事だろう。となるとあの魔神もだ。
「さぁ、お腹は空いてないか? 炊き出しのいい匂いがする、昼食にしよう」
そういえば、もう正午を過ぎてだいぶ経ってる。皆で炊き出しを頂き、腹を満たした。ソフィアにとっては約15年振りの食事だ、本当に美味しそうにスープを味わっていた。
炊き出しを食べた後に軍議に顔を出す様に伝言があった。シュエンとソフィアもだ、当然最重要人物だ。
ホールに入ると、席に着いている皆の注目を集めた。
「目が覚めたか、我はラファエロ・ノルマンディだ。席についてくれ」
「初めまして仙王様。俺は龍王の末子、シュエン・グランディールです。こちらは妻のソフィアです。ご迷惑をおかけした様で……」
「ソフィアです。皆様、息子がお世話になっています。そしてシュエンがご迷惑をおかけしたようで……」
――母さん……目を覚ましてからずっと頭下げてるな……。
「君達の話はユーゴから聞いている。魔王マモンから君の記憶を見せられた様だ。君達二人は人知れずこの世を守ってくれていたようだ、礼を言う」
「いえいえ、そのような事は……結果的に失敗に終わった様です……」
ユーゴ達が席に着いた事で軍議が開会した。
「さて……想定外の事態が起きすぎた。何から話を始めて良いやら分からん……まず、物見も帰って来ん、おそらく見つかって命を落としていると見る他ないようだ……後は、我々が動けんかった故に皆が動けんかったのは理解している。完全に我々の落ち度だ……」
「儂からも詫びさせてもらおう……すまんかった……まさか異空間内の宝玉が共鳴するとはの、完全にやられた。ユーゴ、宝玉を出してくれ」
ユーゴは空間内から宝玉を出し、里長と仙王の方に歩いた。仙王に近づくにつれ、翠の宝玉は淡い光を放ち始めた。
「これに気が付いていればこの結果にはならなかったかもしれぬ……もう遅いがな」
確かに、皆すぐに取り出せる様に常に少し空間を開いている。完全に閉じても共鳴するのだろうか。里長の言う通りもう遅いが。
「さて、ソフィアと言ったかの。お主は何者なのか、そしてあの魔神は何者なのか。もう隠すのは難しいと思わぬか?」
母さんは真っ直ぐに里長を見つめて口を開いた。
「はい、お察しの通り私はこの世界の者ではありません。私が分かることであれば全てお話しします」
ソフィアの正体が明かされる。30年以上連れ添ったシュエンですら知らない事だ。
皆の視線がソフィアに集まる。
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