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第四章 新魔王誕生編
魔族軍との対峙
しおりを挟む次の日の朝、予定通り皆がベンケイの屋敷の前に集まっている。酔い潰れて伝わっていない可能性も危惧したが、そんな心配も杞憂だったようだ。
ベンケイとその弟子たちの鍛治道具は、アレクサンドとサランがしっかり運ぶ。
「よし、皆集まったな! 今から魔都に向けて進軍する。オラ達の復讐はこの四人の協力で成った! 次はオラ達が力を貸す番だ!」
『オォ――ッ!!』
テンにも自覚が出てきたのか、皆の先頭に立とうとしている。
自分に非があればすぐに頭を下げる事が出来る、テンは人の上に立つに相応しいのかもしれない。
外の鬼族達はゼンキ以下、各部隊長の元で纏まっていた。合流して東の魔都に向けて進軍を開始した。
村の小鬼族達は浮遊術を使うが、鬼国の鬼族達は闘気で身体を強化して移動している。個々の能力は高いが何せ三万もの軍勢だ。中には子供もいる為、移動速度はどうしても落ちる。
マモン達はそれに合わせて浮遊術で話しながら移動している。
「二千人で魔都を攻めようとしてたものね。無謀だったかしら」
「いや、今のボク達なら可能だと思うが。しかし、さすがに今から自分の物にしようというシルヴァニア城に術をぶっぱなす訳にもいかないな」
この人数の進軍だ、魔族の斥候が報告に行くだろう。城からは離れたところで対峙する事になるのは間違いない。
「ワタシね、リリスへの憎悪の念はあるけど、魔族に対しての恨みは無いのよ。でも確実にリリスは出てこない、ワタシの三人の兄達が軍を率いて出てくると思うのよね」
「あぁ、傾いた国をせっせと建て直してるんだろう?」
マモンの三人の兄は、リリスのせいでかなり苦労をしている。いつもリリスの撒いた種を三人で回収して回っていた記憶しかない。それを見てマモンは欠陥品を演じたという過去がある。
「兄達はリリスに対しての忠誠心を持ってない。あの女が強いから仕方なく従っているに過ぎないとワタシは考えてる」
「魔王リリスはそれ程までに強いという事か」
「えぇ、あの女には特異な能力がある。見たらビックリすると思うわ」
「千年以上魔王として君臨してますものね、強そうですわ」
リリスをどう城から引きずり出すかをずっと考えていた。あの女は殆ど城から出ることは無い。
「兄達との交渉になるでしょうね、ワタシは彼らとは争いたくないから。これからの魔都にはあの三人の手腕が必要だからね」
「そうか、とりあえず会ってみないと分からないね」
この速度の進軍だ、考える時間はたっぷりある。シミュレーションをしておくに越したことはない。
◆◆◆
村を出て二十日が経った。
今は春だ、気候が良い分野営のストレスもそこまでではない。大きな湖や川などで十分に休養を取りつつ進んでいる。
魔都まではあと少し、向こうも気付いているだろう。そろそろ気を引き締めなくてはいけない。
更に二日後の正午を過ぎた頃、遥か先に布陣している魔族が見えた。距離的にはおそらく早朝に魔都を出たのだろう。かなりの数の魔族がいる。
「皆、まずは対話よ。ワタシ達が前に出るわね」
マモン達四人を先頭に、テンやベンケイ、サンキチ達と小鬼族二千が続き、その後ろにゼンキ率いる三万が控えている。
魔族の軍も同じ位いるだろうか、やはりマモンの兄三人が先頭に立っている。三人とも1500年以上生きる魔族だ、見た目もアレクサンドよりもかなり上の印象を受ける。
「久しぶりね、兄さん達」
「その異常な魔力量は変わらないな。しかし見違えたよ、マモン」
真中に立つのは長兄『べアル・シルヴァニア』だ。その明晰な頭脳で父アスタロスからの信頼を一身に受けていたらしい。
「始祖四種族で攻めて来るとは随分派手な里帰りだねぇ。それにしても久しぶりだねぇ、アレクサンド君」
「あぁ、千年ぶりくらいかな? 覚えていて貰えて光栄だよ」
次男『アグレス・シルヴァニア』はモレクの父だ。
三男『マルバス・シルヴァニア』は寡黙な男だ、マモンは一度も声を聞いたことがない。相変わらずのへの字口で、腕を組んでこちらを見つめている。次男アグレスと共に魔都の軍事を総括している。
「魔都を攻撃しようと思って来た訳じゃないの。まずは話をしない?」
「ほぅ、話を? まぁ、こちらとしてもいたずらに兵を失いたくない、聞こうか」
長兄べアルならそう言うと思っていた。
この人に嘘は通じない、本心を伝えよう。
「順を追って話すわね。まず、鬼王イバラキは死んだわ。その周りの鬼国の幹部もね。ワタシの後ろにいる鬼族はイバラキ達に恨みを持っていた者達よ」
「イバラキが……落ちたのか……?」
「えぇ、イバラキを一体一で斬り殺したのが一番前にいる少年よ。見覚えない?」
「……鬼人か、封印が解けたのか。正気に戻っているな」
「えぇ、色々あってね」
魔都の皆にはマモンの能力は伝えていない。どう転ぶか分からない今、それは言うべきではない。
「彼らには魔都に対する敵対心は無いわ。だから兄さん達も構える必要は無い。ワタシが聞きたいことは一つだけ」
「聞こうか」
「兄さん、アナタ達は心から尊敬してリリスに付き従ってるの?」
兄達は同じ反応を見せた。
三人とも眉をひそめた。
「そんな訳無いだろう……父アスタロスの時代は良かった、あのカリスマに付き従う事が皆の喜びだった。あの人に褒めてもらう事に全力を注いだ」
「あぁ、アスタロス様がお亡くなりになってからは地獄だったねぇ……魔族全盛期を支えた幹部の皆様は城を出て隠居してしまったからねぇ」
「じゃあ、何故そうまでして付き従ってるの?」
「君も知ってるだろう、あの女が強すぎるからだよ。恐らくこの軍でかかっても敵わない。かと言ってこの国を潰してしまう訳にはいかない」
確かにマモンもそう思っていた、あの女は強いと。でも今は違う。
「兄さん、ワタシは始祖四種族の戦闘法を全て見てきた。可能なものは全て採り入れて、考えられないくらい強くなった。城に籠って何の鍛練もしていないあの女に負ける事は無いわ。リリスが戦ってる姿を見たことあるの? あの恐ろしいほどの魔力量に圧倒されてるだけに過ぎないんじゃない?」
マモンがそう言い終えると、兄達は黙った。
アグレスがマモンに同意する。
「……確かに、一理あるかもしれないねぇ。母が戦う姿を見たのは若い頃だ」
「兄さん、ワタシならあの女に勝てる。ワタシの憎悪は幼少期からリリスに向いている。お願い、あの女をここに引きずり出して貰えないかしら。確実に仕留めてみせるから」
ベアルは目を閉じて聞いていたが、考えがまとまったのかゆっくり目を開いた。
「分かった、もし君がリリスに敵わなくともこの人数なら勝てるかもしれない」
ベアルは、皆が今後取るべき行動をすぐに提案した。
「まずは鬼族の軍を一度少し引かせてくれ。君たち四人は極限まで魔力を抑えておいて欲しい。イバラキと幹部の死の事実を使わせてもらおう。イバラキを討った烏合の衆が図に乗って魔都を攻めてきた、鬼族の最期を特等席で御覧頂きたいとリリスを呼び出す。あの女が最も好むシチュエーションだ、必ず出てくる。明日の正午辺りと思ってくれ。後はマモン、頼んだぞ」
「えぇ、完璧だわ、任せてちょうだい」
リリスは頭が良くは無い、そして傲慢だ。
まさか自分が裏切られるなどとは露ほども思っていない。
鬼族達を少し引かせる。少し山脈側に戻ると小川がある、野営地には最適だ。
リリスへの復讐はもうすぐだ、マモン達も明日に向けて休んだ。
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