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第四章 新魔王誕生編
悪しき思想
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いつものように皆でベンケイの家で夕食をとっていた時の事だった。
「何か来たわね、多すぎない?」
「あぁ、これは鬼族達じゃな。さぁ、奴らの言い分を聞いてこようか」
「復讐しに来たか? どんだけいてもオラがぶっ殺してやる」
「まてまて、懐かしい魔力も感じる。話は聞いてやろう」
皆で村を出ると、そこにはどれだけいるかも分からない大鬼族達がズラリと並んでいた。
ベンケイとテンを先頭に、大鬼族達と向き合った。
その中から一人の大鬼族が前に出て、深々と礼をした。
「突然の訪問、お許しください。ベンケイ様、お久しぶりです」
「うむ、懐かしいのぉゼンキ。ワシが国を出る前に会ったきりかのぉ」
「あの時は何も出来ず……申し訳ありませんでした……意見をしにいくと鬼王の側近達に阻まれ上まで声が届かないどころか、私達の部下ごとソウジャの最外付近に追い込まれました」
「そうか……お前も苦労したと見える」
「で? 大鬼族様がぞろぞろと何の用だ?」
テンが苛立ちを抑えているのが分かる。
確かに、どう見ても鬼国が滅びた為に小鬼族の庇護を受けに来た様に見えてしまう。
「ここに居る者たちは、ソウジャの外周に追いやられた非大鬼族至上主義者達です。この村の皆様方は鬼王の居城付近の出身で差別を受けられた方達でしょう。その外周に住む私達も鬼国の幹部達に煮え湯を飲まされてきた者達です」
確かに大鬼族達の中に、少ないが小鬼族が混ざっている。
ゼンキの話によれば、巨大な岩山を背に建てられた鬼王の居城を囲むように、鬼国の幹部の息がかかった鬼族達が居を構え、更にその周りを石壁が囲む。
ゼンキ達の様な非大鬼族至上主義の鬼族達は石壁の外に追いやられ、不遇な扱いを受けてきたようだ。中には耐え兼ねて差別に加担するものも増えていったという。
「ワシが出たあとの話か……テン、話を聞いてやろう」
「ふん、作り話だったら叩き斬ってやる」
ゼンキと呼ばれた大鬼族一人をベンケイの屋敷に招き入れた。大鬼族が入る様に造られた屋敷では無い、かなり窮屈そうだ。
「対話の機会を頂きありがとうございます。そして、ソウジャを滅ぼして頂き感謝致します」
屋敷に入るなり、ゼンキは膝を付き平伏した。
「よいよい、頭を上げてくれ。皆座って話を聞こう」
「はい、ありがとうございます」
皆が座ってサンキチ達がお茶を淹れてきた。
「テンさんと呼ばれてましたね、あなたは大昔に鬼国を追い詰めた子供に似てらっしゃる」
「似てるんじゃねぇよ、本人だ。オラの名前はシュテンだ」
ゼンキは飲んだ茶を吹き出しそうになった。
「え……? 500年程前だと記憶しておりますが……」
「まぁ、色々あってのぉ、ワシらも信じられん」
「なるほど、宝玉にそういう力があったと言うことですね」
ゼンキは宝玉の事を知っているらしい。
「もしかして、アナタ達がこの子を封印したの?」
「はい……シュテンさん、あなたが何者なのか、どうしてソウジャを攻撃しているのか、何も知らされないまま私達はあなたを抑えていました。私達外側の者を壁にして、ソウジャの内部の鬼族達は中に篭もり続けました。奴らは私達を外部からの攻撃を守る肉壁くらいにしか思っていなかった」
テンは何も言わずにゼンキを睨みつけている。
「その後、宝玉を渡されました。魔族と共に封印してこいとキドウに言われ、あなたを封印した。後からイバラキ達にあなたの両親が殺されたのが事の発端だと聞いた時、後悔した。でも私は動けなかった……イバラキ達、内側の鬼族達に反乱を起こそうと思ったことは何度もあった。けれど……私の指示で民を死なせる勇気がなかった……私は……ずっと逃げ続けた弱い男だ……」
ゼンキは肩を震わせて泣いている。
「お前は昔から優しい男だったのぉ。お前が本心で言っているのはワシには分かる」
「で? ソウジャが滅びたからベンケイ爺さんに尻尾を振りに来たのか?」
「……私達は数日前のあの時、異種族のあなた達の魔力を感じ取り武装して外に出た。しかし、ベンケイ様の魔力を感じ全てを理解した、これは復讐の合図だと」
「ワタシは違和感を感じてたの。鬼王の居城にあれだけ近づいてあんなに魔力を圧縮してたのに誰も武装して出てこなかった」
ゼンキは一度頷き、マモンに目を向け話を進めた。
「国の幹部達、石壁の中の鬼族達は今まで、魔物など外部からの襲撃を私達に対処させていた。あの時に武装したのは私達だけです。奴らはいつも通り私達に対処を任せて動かなかった。あなた達が直接鬼王の居城に術を放ち、壁の中の鬼族達に壊滅的な被害を与えた。私達が皆に伝令するには十分な時間があった。内壁から逃げてくる鬼族達を私達が全滅させました。一人残さず」
それを聞き、テンが目を剥いて身を乗り出した。
「……え? 鬼族幹部はオラ達が壊滅させた。その周りの鬼族達も壊滅させたのか……?」
「はい、奴らの悪しき思想は残してはいけない。大鬼族至上主義者は一人残らず討ち取りました。今外にいる鬼族は奴らの嫌がらせに耐えてきた者達です」
マモン達他種族が口を出す問題ではない、これは鬼族の問題だ。
この村の小鬼族は鬼国から逃げてきた。外にいる数万の鬼族達はそれに耐えてきた。今この話し合いの場にいる小鬼族は、耐え兼ねてここに移住してきた者達だ、皆が押し黙っている。
暫しの沈黙が流れた。
沈黙を破ったのはテンだった。
「オラは……ソウジャに住んだことはねぇ。両親を殺されたソウジャに対する憎悪は、500年の間二つの宝玉に守られてきた。目を覚ましたのはついこの間だ。その間あんた達はイバラキ達の嫌がらせに耐えてきたんだな……それでもオラ達小鬼族を差別する事無く……生意気言って悪かった……謝るよ」
そう言ってテンは膝をついてゼンキに平伏した。
「頭を上げてくださいシュテンさん。今こうしてベンケイ様の元に来たのは、ソウジャが壊滅したからです。ここの鬼族の皆様方と新しい鬼族の世を作りたいからです。もう差別や嫌がらせを受ける心配はありません。皆でやり直しませんか? それが外の鬼族達の総意です」
腕を組んで目を瞑っていたベンケイが顔を上げた。
「ワシらは明日から東へ進軍し、魔都を落とす。こちらのマモンが言うには魔族が捨てた町があるらしい、皆でそこに国を造らぬか? ワシらの頭領はこのシュテンじゃ。ワシでは無い」
「魔都を……分かりました。私ゼンキ以下三万、これよりシュテンさんに従います」
「……おいおい、こんな子供を頭領に担ぎ上げないでくれよ……」
「何度も言わせるな、お前は鬼族一の戦士じゃ。自覚を持て」
外にいる三万の鬼族達はさすがに村には入れない。彼らは鬼国を捨ててきている、各自野営具も持ち合わせているようだ。
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