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第四章 新魔王誕生編

仲間

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 夜になり、二千人の村人が一同に会した。
 鬼国の酒は麦を原料にした蒸留酒が一般的だ。焼酎という酒で癖がなく飲みやすい。マモン達も気に入っている、水割りが特に美味しい。
 皆に酒が行き渡った。

「皆のお陰であの愚王は死んだ! もう皆を差別するものも居なくなったじゃろう! この村では初めての宴じゃ! 皆楽しんで欲しい! 乾杯!」

『カンパーイ!!』

 ベンケイの乾杯で、二千人の大宴会が始まった。
 皆で肩を組んで騒いで飲んでいる者、料理を作りながらそれをつまんで飲む物。
 酒好きの種族だ、皆がいい顔をして飲んでいる。

「なんだこれ……ウェッ、まじぃ……」
「テンにはまだ酒は早かったか。ほらよ、そう思って蜜柑を絞っといたぞ」
「うん! こっちがうめぇ!」

 背は伸びたが、まだテンは子供だ。
 その子供が、鍛錬を怠っていたとはいえ二千年以上君臨した四王の一人を子供扱いした。

「テンよ、イバラキ亡き今お前が鬼族最強の戦士じゃ。しかも、お前はまだ子供じゃ、修練次第でさらに強くなる」
「イバラキ弱すぎたぞ、あんなもんに勝っても自慢にもなりゃしねぇ」
「他種族の戦闘法を取り入れるというのは、こうも戦闘力を上げるものなんだな。オラァ達も前とは比べもんにならねぇ」

 
 始祖四王の一角が落ちた、初代魔王アスタロス以来の事だ。その後すぐにリリスが魔王を名乗った。

「ねぇテン、アナタが鬼王を落としたのよ。じゃあ、アナタが新しい鬼王を名乗ったらどう?」
「オラが……?」

「そうじゃな、あんなものただの称号に過ぎん、鬼王を倒した者が新しい鬼王でいいのではないか?」
「いやいや、オラまだ子供だぞ?」
「子供でも鬼族一の戦士じゃ、それは皆が認めておる」

 テンは納得いかない様子だ。

「テン、これからワタシは魔都に行って魔王リリスを殺す。アナタたち鬼族の力が必要なの、アナタが先頭に立って力を貸してくれないかしら?」

 テンはマモンに向き直って言う。

「当たりめぇだろ、あんたらのお陰でオラは鬼国に復讐できたんだ。マモンの頼みならこの村の誰もが協力する」
「そうじゃな、この老いぼれも勿論連れて行って貰うぞ」

 マモンはシルヴァニア城を落とした後、そこを拠点にするつもりでいる。
 その為には彼らの協力が必要だ。この宴会場にいる二千人の大移動になる。

「ねぇ、テンが鬼王になるのなら、ワタシはリリスを殺して魔王になるわ。魔都には今は誰も住んでいない町があるの、もし良ければだけど、鬼族の皆でそこに移住しない?」
「成程のぉ、鬼王と魔王が同じ国に住み手を組むと言うことか。仙族と龍族は同盟関係にあると聞くしのぉ」

 テンは周りで酒を楽しんでいる皆を見回してから少し考えている。

「なぁ……王って言うのは、皆に認められた者を言うと思うんだ。自称するのは違うと思うんだよな。オラが皆に認められたその時は、鬼王を名乗るよ」

 ハッとさせられた。
 確かにそうだ。

 マモンがリリスを斃したとしても、国の皆に認められない限りは国として纏まる事はない。リリスが今している事と変わらない。

「……そうね、正論だわ。ワタシも魔都をあの暗君から救いたい。その気持ちを持たないと国は纏まらない……目が覚めたわ」
「とりあえずは皆で魔都に行くんだ、鬼族と魔族の行く末はそこで決めても良いんじゃないか? どちらも愚王に傾けられた国だ」
「そうね、ワタシ達が勝手に決める事じゃ無いのかもね」

 子供のテンの方がよく考えている。
 マモンは自分の事しか考えていなかった、リリスを殺した後の事など全く考えていなかった。自ずと皆が従うものだと思っていた。

 国は民が居て初めて成り立つ。一人の力で創るものではない。
 リリスと同じ道を歩む所だった。

「ありがとうテン、ワタシ達がしなきゃいけない事が見えた気がするわ」
「まぁ、オラも難しいことは分からねぇ、目の前の事をとりあえず片付けようよ」
「そうね、ベンケイ爺さん。魔都攻めはアナタの統率力ありきだわ、協力して貰えるかしら?」
「当たり前じゃ、お前らには恩を返さねばならん。少し皆を休ませて魔都に向かおう。皆もそのつもりでおる、お前らはもう仲間じゃ」

 
 仲間。
 マモンにとってその言葉が一番沁みた夜かもしれない。

 ――まさか子供に諭されるとはね。

 今日は皆との酒宴を心ゆくまで楽しもう。
 

 
 村を上げた大宴会は遅くまで続いた。
 魔都に向けた進軍は、それぞれゆっくり休んだ上で準備し三日後という事に決まった。


 次の日、昼食をベンケイの家で頂いている。アレクサンドは起きてこない、いつも通りの二日酔いだろう。

「サラン、アレクサンドの二日酔い治してきてあげたら……?」
「そうですわね……よくそうなるまで飲めるものですわ」
「あぁ、アレクなら向こうの部屋で死んでるぞ。もう胃液しか出ないと嘆いていた」

 サランはシュエンが指さした方の部屋にアレクサンドの救援に向かった。

「サンキチ達も二日酔いでしょうね……昨日の感じを見てたら」
「そうじゃろうな、三日後出られるのか……?」

 解毒されたアレクサンドが起きてきた。

「あぁ、助かったよサラン……まだ少し気分が悪いが……」
「そうなる前に飲むのをやめなさいよ……」
「いや、分かってるのに飲んでしまう……いつもこうなった時に、もう飲まないと誓うんだけどね、今日の夜にはもう飲んでると思うよ。酒は怖いな……」
「よくあんなマジィもん飲めるよな……」

 ベンケイは話を聞きながらゆっくりと首を縦に振り、皆に向け語りかけた。
 
「ワシらも昔は潰れるまで飲んだもんじゃ、もう皆この世にはおらんがな。お前らも仲間の絆はしっかりと持っておけよ。何で仲違いするか分からんからのぉ」
「えぇ、肝に銘じるわ」

 
 夜にはサンキチ達も復活し、普通に酒を飲んでいた。勿論アレクサンドも。

 ――嗜む程度に飲めないのかしら……次の日に響くまで飲むなんて意味が分からない……。

「まぁ、キミも潰れるまで飲んでみるといい、自分を解放出来るぞ」
「いや、遠慮しとくわ……」

 自分があの状態になると思うとゾッとする。
 反面教師は必要だ。
 
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