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第四章 新魔王誕生編
鬼国陥落
しおりを挟む残りは鬼王イバラキと参謀キドウ。
「国が傾いた元凶二人が残ったのぉ。国の外にはお前らの部下たちが数万とおると言うのに、誰一人として助けに来ん。何故か分かるか?」
「……しっ、知るか! 何故誰も助けに来ん!」
「こうなってもまだ分からんのか……救いようのない奴らじゃ。お前らは部下を肉壁くらいにしか思うとらんじゃろ。誰がそんな王を助けたい。考えたら分かるじゃろうに、お前らは終わりじゃよ」
ベンケイは薙刀を水平に構えた。
『薙刀術 水車』
その速さにキドウは全く反応出来なかった。
目を見開いたまま、左右対称に真っ二つに裂けて地に倒れた。
「テン、お前の出番じゃ」
「あぁ、恨みをぶつけてくるよ」
イバラキは引き攣った顔で小刻みに震えている。
「なぁ……ベンケイ、昔からのオメェとオラの仲じゃねぇかぁ、何でこんなことすんだよぉ」
「ワシを陥れて追い出したのは誰じゃ、くだらん事を言うな。最後くらいは一国の王らしく散ったらどうじゃ。心配するな、お前の相手は一人じゃ」
「……クッソォ! このチビだけでオラに勝てるだとぉ!? 舐めやがってぇ!」
イバラキは巨大な金棒を構えた。
龍族との大戦で左腕は無い、それでもなお恐れられた怪力だ。
巨体がテンに襲いかかる。
イバラキの金棒は虚しく空を切り、テンを見失った。
「遅すぎるぞイバラキ。あんた、部芸の修練してなかっただろ。誰がこんなに弱い奴に従うんだよ、昔はあんたの強さに皆がついて来てたんだろ? 爺さんが言ってたよ」
「……うるせぇ! 王の命令に従うのは当然だろぉ!? なんでオラが下っ端を守らなきゃならねえんだぁ!」
「……愚王が。もういいよ」
テンは呆れ顔で薙刀を中段に構えた。
『薙刀術 腰車』
遠心力にテンのスピードが乗った横薙ぎの斬撃。イバラキの両脚を付け根から切り落とした。
自分の闘気による防御を過信したのだろう。何が起きたのか分からないといった顔だ。
イバラキは両脚を無くし、地に尻もちをついた。
「グアァァ――ッ! あっ……脚がぁ……」
「小鬼族と蔑んだ奴から見下ろされる気分はどうだ?」
「なっ……なんでオラが斬れる!?」
「さっきも言っただろ、武芸の修練を怠ってたあんたに昔程の強さはねぇよ」
「……ちょっと待ってくれぇ!」
「始祖四王が命乞いなんてやめてくれよ。じゃぁな」
『薙刀術 風車』
テンの頭上で薙刀が回る。
その遠心力そのままに、イバラキの首を襲った。
二千年以上に渡り、鬼国を支配してきた王の首が飛んだ。拍子抜けするほど呆気なく。
「鬼王の名の上に胡座をかいてた報いね。どう? 両親の仇を討った感想は」
「……虚しいな。こんなクズを殺したところで気は晴れねぇ、何も変わらねぇ」
「復讐なんぞそんなもんじゃろ。果たした所で元に戻る訳では無い。良し、勝鬨を上げるのはお前じゃ」
テンは一度うつむき、薙刀の切っ先を天に突き上げた。
『鬼王イバラキを討ち取ったぞぉー! オラ達の勝利だぁー!』
『オオォーッ!!』
テンは両親であるスズカとオーステンの仇を取った。勝鬨を上げたその目には光るものがあった。
◆◆◆
鬼国は落ちた。
愚王とその側近は一人残らず死んだ。鬼国の民がこれからどう暮らすかなど誰も興味が無い。
あれから直ぐに村に向けて引き返し、朝には到着した。
「皆! 疲れているだろう! 勝利の宴は晩じゃ! 昼過ぎまではゆっくり休んでくれ!」
夜は村を上げて宴をする。
昼過ぎから皆でその準備をする手はずだ。
「はぁ、確かに疲れたわね。寝る前に汗を流したいわ」
「あぁ、同感だ。爺さんの屋敷にお邪魔しよう」
ベンケイの屋敷には木製の浴場がある。男達はそこで汗を流し、マモンとサランは他の家の風呂を使わせてもらい、それぞれの屋敷で寝床に着いた。
凄く良く寝た感じがするが、まだ昼過ぎだ。
昨日の昼から何も食べていない、お腹がすきすぎて目が覚めた。
サランも隣で寝ているが、マモンが目覚めてすぐに起きた。冒険者の癖だ、物音がすれば目が覚める。
「おはよう、サラン。おはようじゃないわね、もうお昼ね」
「そうですわね、とにかくお腹がすきましたわ……」
外に出ると、皆がせっせと宴会の準備をしている。
「おぉ、二人とも起きたか! 腹が減っただろう、握り飯を食え!」
サンキチから一日ぶりの食事を受け取った。麦飯のおにぎりだ。
「あぁ、塩がきいてて美味しいわね……今は何を食べても美味しいでしょうね……」
「えぇ、これくらいにして、夜のためにお腹を空かせておきたいですわね」
ベンケイの屋敷の前は開けている。
鬼国を攻める時にもここに集まった。村を上げて宴会をするなど初めての事らしい。
テンとその両親の犠牲の上に成り立った平和だ、宴会をする気にもなれなかったようだ。
テンは無事に戻り、スズカとオーステンの仇は取った。皆の表情は生き生きしている。
所々に明松を置き、獣や魔物の肉料理、焼いた川魚など、いつも通り簡素な物ではあったが、空腹の今は何を食べても美味しいはずだ。
シュエンが持ってきた調味料の数々はもう既に使い果たしてしまっているらしい。
濃い味が恋しいが、皆口には出さない。
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