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第四章 新魔王誕生編
五本の刀
しおりを挟む「戻ったわよ、一ヶ月かかったわ。宝玉を龍国に埋めてきたなんて嘘ね。とんだ無駄足だったわ。シュエンちゃん、何か思い出せない?」
「……そうか……思い当たる節は……そうだ、テンは二つの宝玉で封印されていたな。リーベン島にも封印されていた化物がいたんだ。俺は、その化物は龍王の特異能力で封印したと聞かされていた。もしかしたらその封印に翠の宝玉を使ったのかもしれん」
「もう少し早く思い出して欲しかったわ……おそらくそうでしょうね。嘘が上手すぎるわね龍王……まぁ、良いわ、皆の進捗状況はどう?」
「一ヶ月じゃどうにもならんな。まだまだ修練が必要だ」
「そりゃそうだろう、このボクでも二ヶ月かかったんだ。そうだ、シュエン。この刀を見てくれ、龍国で見つけたんだ」
アレクサンドは五本の刀を並べ、シュエンに見せた。
「これが残っていたのか? 茎を見てくれ、リンドウと刻印してある。龍族が誇る天才鍛冶師が打った刀だ」
「ほぉ、あのリンドウの刀か。それは期待が出来るな」
「打った刀のほとんどが一級品以上だったと言う。ベンケイ爺さんに整備を頼もう」
ベンケイも練気で地を駆け回っている。
二千歳を超える元気な爺さんだ。
「ベンケイ爺さん、龍国から刀を拾ってきたの。整備を頼めない?」
「ほぉ、刀を。分かった、預かろう」
後日、刀の整備が終わり、五本の刀が手元に帰ってきた。
「こりゃいい刀じゃ、五本とも一級品でも上位じゃな。あのリンドウが打った刀とはな、この技術はなかなか興味深い、少し勉強させてもらった。柄の部分は薙刀の柄を切って作った。シュエンの刀を見本に作ったが、我ながら上手く作れたもんじゃ。薙刀にも鞘はあるからのぉ、少し日はかかったがなかなかじゃろ?」
「あぁ、爺さんのお陰で俺の刀も生き返った。あんたの技術は本物だよ」
「たまには手入れせねば、武器が泣くぞ」
柄を握り、鞘から抜いてみる。
――凄くキレイ……芸術ねこれは。
アレクサンド、サランもそれぞれ気に入った刀を手に取って眺めている。
「俺も一本欲しいな、国から出た時は二本腰に差してたからな」
「オラはやっぱ薙刀が良いな」
「ありがとうね、ベンケイ爺さん。また手入れ頼むわね」
「あぁ、いつでも言ってくれ」
ベンケイとテンは地を駆けていった。一ヶ月でかなりスピードが上がっている。ベンケイはすぐに空を駆けそうだ。
「この刀の試し斬りがしたいわね」
「賛成ですわ。わたくしも昔は両手剣を使ってましたの、一本というのは久しぶりですわね」
シュエンから刀の持ち方を教わり、山に入った。
「違うのは持ち方だけだ、剣技は今まで通りでいい」
「ボクの刀は少し短いな」
「あぁ、脇差だな。片手でも扱える、龍族の盾士が好んで持つ刀だな。俺も二本目に脇差を選んだ」
「なるほど、片手技がそのまま使えそうだ」
虎の魔物がいる、こちらを警戒し唸っている。
「お相手してもらおうかしら」
マモンは刀を両手で持ち、正面に構える。
練気の乗りがいい。
『剣技 斬首一閃』
一気に距離を詰め、魔物の首を刎ねた。
「凄まじい斬れ味ね……」
「あぁ、刀は片刃で斬ることに特化した武器だ。刺突技や防御に優れているのは、お前らの両刃の剣だろうな。これから鬼族と戦うなら刀をおすすめする。鬼王イバラキの左腕を切り落としたのはリンドウ兄さんが打った刀だ、扱えるようになって損は無い」
「なるほどな、状況によって使い分けが出来そうだ」
マモンの持つ刀は五本の中では二番目に長い。デュランダルは、両手持ちもできるが片手剣だ。刀をシュエンに指導してもらい、臨機に使い分けよう。
「じゃ、皆が空を駆けるまで、シュエンちゃんに刀の扱いをレクチャーしてもらわない?」
「あぁ、そうだな。少し興味が出たよ」
「えぇ、面白そうですわ。わたくしの双剣はリーチがどうしても短いですから」
シュエンの剣術指導が始まった。
◆◆◆
山脈は雪で白い。
大陸の陸地に雪は滅多に積もらない。皆寒い中駆け回っている。
マモン達もシュエンの指導で刀を振る日々を過ごした。
そして冬が過ぎ、植物が一斉に芽吹き始めた。
村の人口はおよそ二千人、その内のおよそ百人の鬼族が練気で空を駆けた。この村で生まれ育った大鬼族が一定数いるが、彼らには厳しいようだ。闘気の精度が上がったためにパワーが凄まじく上がったが、スピードは小鬼族には敵わない。
皆かなり戦力がアップしたが、特に著しく成長を遂げたのはテンだ。
術の成長だけではない、封印されていた500年を取り戻すかの様に身体が成長している。シュエンよりも大きくなり、マモンやアレクサンドと変わらなくなって、声も低くなった。
身体が大きく成長したため、魔力量は更に増え、薙刀の扱いにも余裕が見られる。練気を使った移動はテンにハマったらしく、とんでもないスピードで移動する。その速度から繰り出される薙刀術は以前の比では無かった。
マモン達はシュエンの指導で刀を学んだ。
基本としているのは仙神剣術だが、刀を振り続けメインの武器と遜色なく扱えるようになっている。
ベンケイの屋敷。
マモン達四人と村の代表達が集まっている。
ベンケイとその弟子達、サンキチと元山賊達、それにテン。
「ここにいる者だけでもかなり戦闘能力が上がったわね」
「うむ、ここにいない者もかなりの成長を遂げている。皆が本気で暴れたらどうなるか恐ろしいのぉ」
「そろそろ鬼国を落とそうか」
「いよいよか、イバラキはオラに殺らせてくれよ」
「今のテンなら問題無いでしょ」
ベンケイがすくっと立ち上がった。
「少し待っておれ」
そう言って、屋敷の奥の鍛冶場に入り一本の薙刀を持ってきた。
「こいつはワシが生涯で打った薙刀の中でも最高傑作じゃ。鬼国に復讐する事があれば、一番の戦士に託そうと思うておった。テン、お前は間違いなくこの村一番の戦士じゃ。こいつでイバラキをぶった斬ってこい」
室内でも鋭く光っている。
間違いなく特級品だ。
「こんな良い薙刀……いいのか?」
「当然じゃ、お前はそれを扱うに相応しいと思うから託す。あと、サンキチ達も後で鍛冶場から好きな物を取ってこい。奥の鍵付きの倉庫内は全て一級品じゃ」
「いいのか!?」
「あぁ、戦力が上がるに越したことはない。皆でスズカとオーステンの弔い合戦じゃ!」
『オォ――ッ!』
「ワタシ達の武具の整備もお願い出来るかしら?」
「うむ、預かろう」
「じゃあ、新しい武器に慣れる事も必要でしょ。決戦は十日後でどうかしら」
皆静かに頷いた。
「鬼国の親や友人はいいのか?」
「オラァ達は親にすら差別されてきた。勝手に逃げるか死ぬだけだろ。友人なんてここにいる奴らだけだ」
「そう。じゃあ、十日後にここに集まりましょ」
決戦に向け、各々が英気を養う。
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