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第四章 新魔王誕生編
鬼人誕生 2
しおりを挟むある日の昼下がり。
昼食を終え、皆で寛いでいると多くの気配に囲まれた。
「こりゃ人族の軍隊が来たね、本気で奪いに来たよ」
これまでも王都の軍人であろう人族が来たが、全てを返り討ちにしていた。
「なんの用だい?」
スズカが前に出て問うと、一際魔力の質が高い眼が緑色の人族が一歩前に出て話し始めた。
「何の用か言わないと分からないのか? ここは我々の演習場だ。そこに住み着く悪党を退治しに来たんだよ」
「あら、荷物の強奪に関しては咎めないんだね」
「それは我々が関与すべき事ではない。自分で腕のいい冒険者を雇って身を護るのが普通だ」
「へぇ、それは有難いね。あんたらさえ追い返せばいい生活ができるって訳だ。殺されても文句は言うなよ? よし、建物は壊したくない、広いところに行くよ!」
「そちらこそな。まぁ、全員生かす気は無いがな」
相手は50人以上の部隊だ。
スズカ達は14人だが、舐められたものだ。
人族の頭領の相手はスズカが請け負い、周りを13人で蹴散らす。
「ひっ……引けぇ――!」
賢明な判断だ、死人を最小限に抑えて引いて行った。
「ふぅん、人族にも結構な戦士がいるもんだね。向こうの頭領はなかなかだったよ」
王都の戦士もかなりの剣術を使う。が、スズカ達の薙刀術はそれ以上だった。
軍人達を返り討ちにしてからは平穏な日々が続いた。
商人や冒険者を襲い、生活物資を得る。しかし、酒が手に入ることはほとんど無かった。酒好きの鬼族は毎日の様に飲む。この生活が少し物足りないのは、酒を毎日飲めないからだ。
ある日の夕方、夕食の準備をしている時だった。
「おい、誰か来たぞ。スズカを呼んでこい」
「もう来てるよ。誰だい、一人だね」
荷車を引いた人族の男が、両手を上げてこっちを見ている。
「オレはこの通り丸腰だ。鬼族は酒好きなんだろ? 酒を持ってきたんだ、一緒にどうだ?」
彼等が酒好きなのは間違いない。しかも半月以上飲んでいない。皆が唾を飲み込む音が聞こえる。
「酒は有難いが、何が目的だ……?」
「目的か……あんたらと一緒に飲むのが目的だな。正直に言うと、あんたらに興味が湧いたんだ。酒が欲しいならいつでも持ってきてやるよ? 今オレを殺してしまえば、この酒は手に入るが次の酒は無い、どうする?」
スズカは皆を見回した。
今にもヨダレを垂らしそうな皆を見て、ハァと溜息をつく。
「まぁ、悪いやつじゃ無さそうだ。一人で乗り込んで来る馬鹿ではあるがな。よし、夕飯を振舞ってやる、酒を貰おうか」
皆の顔に笑顔が浮かんだ。
今日は人族一人を交えて酒盛りだ。
数日ぶりの酒を飲みながら、魔物の肉を頬張っている。商人が運んでいた珍しい香辛料の中でも、特にお気に入りの物をふりかけて焼いている。
「オレの名前は『オーステン・ラルコール』だ。ファミリーネームはオレの国で酒って意味だよ。酒好きが名前にも現れてるって訳だ」
「ウチはスズカだ、ファミリーネームってのはなんだい?」
「家系で継承する名前だ。鬼族には無いのか?」
「あぁ無いな、ウチはただのスズカだ。こいつは弟だけど、ただのサンキチだよ」
「そうなのか、種族によって違うんだな」
オーステンは気さくな男だ。すぐに荒くれ者達の心を掴み、皆と肩を組んで酒を飲んでいる。
「おめぇ面白ぇ奴だな! 気に入ったぞ!」
「人族の酒は独特だが美味ぇ。また持ってきてくれよな!」
鬼族の酒は、麦を使った蒸留酒だ。癖がなく飲みやすい。ウイスキーやワインなど、人族の酒も美味しい。
「ビールっていう酒もあるんだが、キンキンに冷やして飲まないと美味くない。だから持ってきてないんだが、そろそろ寒くなってくる。そこの川で冷やしたら美味いかもな。今度持ってくるよ」
オーステンは度々酒を持ってきては騒いで帰って行った。本当に目的は彼等と騒ぎたいだけのように思えたが、サンキチには違う理由があるように見えた。
後日、オーステンはいつもの様に荷車いっぱいに酒を積んで来た。
「今日は王都の美味い物も持ってきたぞ! 皆で楽しもう!」
皆から歓声があがった。
オーステンは人たらしだ、皆が喜ぶ事を知っている。いつもの様に大宴会になった。
サンキチは今日、オーステンの腹の内を探ってやろうと思っている。色々聞いて本心を覗いてみよう。
「なぁオーステン、そういやお前ぇどうやってここを知った?」
「ん? それだけ暴れてりゃ噂になるだろ」
「だとしても、この場所は軍の施設だろ? 場所知ってるってこたぁ、お前ぇさては軍人だろ」
一瞬顔が変わった。
「いやいや、この演習場は地図に載ってるんだ。場所さえ聞けば分かるって!」
「いや、今さらお前ぇの正体なんてどうでも良いんだ。ただ、何か理由があって近づいてきたんだろ? 隠すこたぁねえって」
オーステンは溜息をついて言った。
「サンキチ……あんたは皆と違って一歩引いて見てたよな。分かったよ、言うよ」
皆もオーステンの目的などどうでもいい。本当に彼等に心を開いているのが分かるからだ。だから皆オーステンに心を開いている。
「オレは王都の騎士だよ、昇化もしていない下級騎士だけどな。前にここを取り戻しに来た部隊の一人としてここに来たんだ」
「やっぱり軍人だったか」
「……騙すつもりは無かったんだ。騎士団は騎士の命を優先し、ここの放棄を決めた。ここに軍が来ることはもう無いよ。オレの目的は個人的な事だ」
「やっぱり目的があったか。内容によってはいくらお前ぇでも……」
「仕方ないオレも心を決めるよ……」
皆オーステンを心から受け入れている。
何を言い始めるか、固唾を飲んで見守っている。
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