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第四章 新魔王誕生編
二人の過去
しおりを挟むアジト一階のバー、レオパルドは臨時休業。レパーデスの祝勝会の為だ。
「皆、ご苦労だったね。トリプレットは壊滅した。今日は私から日頃の感謝を込めてご馳走を用意したよ。美味しい酒と共に楽しんでくれ! 乾杯!」
『カンパーイ!』
約200人の大宴会が始まった。
一年間の付き合いで皆とは大体顔見知りだ。
歓談しながら腹を満たしてワインを楽しんでいると、ヴァロンティーヌがマモン隣に座った。
「やぁボス、久しぶりに一緒に飲もうじゃないか」
「一年前、組織に入れてくれなんて何を企んでるのかと思ったけど、とんだ拾い物だったようだね」
「色んな経験が出来たわ、人の下に付くって悪い事ばかりじゃないのね」
「私じゃガスパールには勝てなかったかもな。あいつ強かっただろう?」
「そうね、初撃は速くてビックリしたわね」
「ボスならあの程度の男、問題ありませんわよ」
ヴァロンティーヌは過去を語り始めた。
「私とガスパールは同じ師匠に師事していたんだ。出身はゴルドホークだ。あの三兄妹と私達姉弟は親がいない。ならず者の私達に剣と仙術を教えてくれた」
「あら、ここの生まれじゃなかったのね」
「……あぁ、お前達の剣は私達の剣と似ている」
「えぇ、ワタシもガスパールの技を見て思ったわ」
「師匠は王都の貴族出身で、王の部下だったと言っていた。ホラの可能性が高いがな」
「王都の……? 名前は覚えてますの?」
「『セザール・マルティネス』と名乗っていたな」
サランが驚いて声を上げた。
「えっ……わたくしのお祖父様の名ですわ」
「なんだと? セザールなら知っている。オーベルジュ王の側近だった男だ」
「ジョカルドに寄った後、ゴルドホークに移住したのですね。お母様も知らなかった事ですわ」
ヴァロンティーヌは二人の会話を聞いて目をパチクリしている。
「……本当だったのか。ホラ吹き野郎だと思っていたんだけどな。師匠は部下に裏切られた挙句、濡れ衣を着せられて王都を追放されたと言っていた。相当な恨みを持ってたよ。憎悪と共に剣を教えられたんだ、既に悪党だった私達がその後まともに育つわけが無い」
話を総括してアレクサンドがワインを片手に口を開いた。
「それならボスの剣がボクらと似ている理由は簡単だ。ウェザブール王は元々仙王の部下で、仙神剣術の使い手だ。だからその部下のセザールも仙神剣術を使う」
それを聞いた皆が驚き、一斉にアレクサンドに注目した。
「……ウェザブール王が、仙王の部下……?」
「あっ……これは言ってはいけないヤツだったかな。まぁ良いだろ、二人のウェザブール王は退化した仙族だよ、人族の祖だ」
「そうなのね……だから私達は仙人なのか……なるほどね。深く考えた事もなかった」
ガスパールが強いはずだ。
マモン達の師匠はアレクサンドだ。師匠の差もあるのかもしれないが、マモンの方が才能があったという事だろう。
「お祖父様……セザールはまだ生きてますの?」
「いや死んだよ、ガスパールに殺された。全てを教わった後にね。それからだな、ガスパールと距離を置くようになったのは。元々仲良くはなかったが」
サランは特に悲しそうな顔することも無く、そうですかと頷いた。サランは身内の死に対する感情が無いようだ。
「師匠が言うには、特に私とガスパールに剣の才能があったようだ。弟も剣を使うが、仙術が得意だね。ガスパールは何をするにも私と張り合ってきた。私がここに来てマフィアのボスになった後も追いかけてきて、対抗組織のナーガラージャに入った」
「へぇ、元々はナーガラージャの構成員だったのね」
「……あぁ、あいつは強くてカリスマ性がある。ナーガラージャから引っ張って来た仙人達がトリプレットの幹部だよ。その後も勢力を拡大し続けた。でも、あいつに足りなかったのは頭だね。バカにマフィアは務まらない」
「そうね、ウチにはフェリックスがいるし、ボスを筆頭に皆頭がいいものね」
マモンは腕組みをして考えた。ガスパールは何がしたかったのだろうか。
ヴァロンティーヌに対するライバル意識なのか、そんな事でわざわざ追いかけて来て対抗するだろうか。
「ねぇボス、ガスパールはアナタの気を引きたかっただけなんじゃない?」
「どういう事だ?」
アレクサンドがその言葉の意味を理解し頷いた。
「ガスパールはキミの事が好きだったんじゃないかと言うことだね」
ヴァロンティーヌは眉根を寄せた。
「……そんな事の為に多くの命を犠牲にしたのか……?」
「あくまで憶測だけど、不器用でバカな男にありがちな話ではあるわね。死人に聞く訳にもいかないけど」
ただの憶測に過ぎない。マモンにとっては正直どうでもいい話だ。
「まぁ死人に口無しだな、どうでもいい。そんな事より、お前達はずっとうちにいるわけじゃないんだろ?」
「そうだね、ボスがボクと寝てくれたらこの街に用は無いね」
「アナタがここまで一人の女に執着するのも珍しいわね……でもそれはワタシ達が許さないわよ。ヴァロンティーヌはワタシ達のボスよ」
「本気の恋は実らないものだね、切ないよ。今までにない感覚だ」
アレクサンドはこう言っていてもすぐに飽きる。基本的に軽い男だ。
「いずれは出るわね、いつになるかは分からないけど」
「そうか、お前達には礼がいるな。それが思いつかない、何か望みはないか?」
アレクサンドが何かを言おうとするのを二人で睨みつけて口を塞ぐ。
「前からお願いしようと思ってた事はあるわ。ワタシ達の鎧は見たわね? あの鎧に合うマントや装飾品をデザインして欲しいの」
「マモン、わたくしもそれは思ってましたわ」
「……それはアレクのもか?」
「いや、ボクのはいい。それより……」
「お黙り、アレクサンド」
「ハァ……本命ほど難しいものだね……向こうで男達と飲んでくるよ……」
アレクサンドは肩を落として男達の方へ歩いて行った。
「分かったよ。半端な物にしたくない、時間をくれるか?」
「勿論よ、ワタシ達もすぐに出ていく訳じゃなしね。仕事は今まで通りこなすわ」
「わたくしはこの一年服飾の勉強をさせてもらってますの。デザインさえ決まれば他で作ることはできますわ」
「……え、本当に?」
サランは秘書としての仕事の合間に、服飾の指導も受けていたようだ。サランはセンスがいい上にマモンと趣味が合う。これは頼もしい。
「あぁ、サランは助手に欲しいくらいだ。秘書としても完璧だしな」
「そう言って貰えるのは嬉しいですわね」
素晴らしい物ができるのは間違いない、楽しみだ。
宴会は終始大盛り上がりで終わった。
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